「きらら……なんか傷つけること言っちまったんだな? ごめんな、何が嫌だったか教えてくれるか?」
「い、いやっ、とどしょ悪くないよ。何も悪くない……」
「でもおまえは傷ついてる。十分悪いだろ」
「いやぁ……ほんと違くて……むしろ悪いのあたしっていゆーか」
「どういうことだ……?」

轟はわからないなりに考えた。何か失言したのは間違いない。いや、失言じゃなくても自分が話した内容にきららが傷ついたということまではわかった。問題は何が傷つく内容だったのかがわからないといったところだ。
心配する轟にきららもこのままではいけないと思い、観念して話すことにした。


「なんか……ヤオモモにとってとどしょは、すごい大きな存在なんだろうなって思っちゃって……」
「俺が……八百万の……? そうか?」
「勝手な想像になっちゃうけどさ、あのヤオモモが自信喪失するとか……あたしからしたらありえんてぃうすわろちーのって感じで、そんなときに力を与えてくれたとどしょの存在は大きいだろうなって」
「わりぃ、きらら……ありえんてぃうすわろちーのってなんだ」
「ありえんすぎて笑っちゃうってこと……」
「そうか。脱線させて悪い。……俺はそんなことねぇと思うけど……きららはそう思うんだな?」
「うん……なんていうの、二人の信頼関係? みたいなのが……うっ」

嗚咽が零れそうになると、轟はきららを抱きしめたまま頭を撫でてくれた。優しいがすぎる。
うん、と優しく相槌を打ってくれて、それに促されるようにきららも勇気を出して告白した。


「……しんどみが深いぃい」
「……そっか……ごめんな。傷つけちまったな……」
「ううっ、とどしょ悪くないのわかってるし〜! ヤオモモも悪くないし〜! あーもう、懐猫の額過ぎてつらみ……!」
「すまねぇ、最後のはわかんねぇ……」
「心がめちゃくちゃ狭くてつらいごめんね〜!」
「そうか。いや……そんなに自分を責めなくていい。俺らクラスもちげぇし……不安になったりすることはあると思うんだ。俺も、おまえが仲良くクラスの男子と絡んでたら……お、ってなると思う」

クラスが違う。ただのクラスじゃない、科が違うのだ。ヒーロー科とサポート科、表方と裏方。
きららはもうここまで言ったんだから全部言っちゃえと半ば自棄で口を開いた。


「ほんとは……とどしょがきららには「ついて来い」って言わないのがやだ」
「「ついて来い」?」
「今どこにだって思ったでしょ?」
「あ、ああ。どこにだ?」
「どこってゆーか、I・アイランドの時もさ……とどしょは「ついて来てくれ」なんて言わなかったし、あたしがついて行くって言ったときも「そうか」とか「わかった」じゃなくて……「いいのか?」だった」
「そうだな……」
「でもなんてゆーの、もしきららがサポート科じゃなくて、あのままヒーロー科に入ってたなら……あたしも一緒に、いろんなところに行くのが当たり前に思ってもらえたのかなって……」

そこで轟はなるほど、と察した。I・アイランドでも今回の爆豪救出に赴いたときも、八百万が近くにいた。ヒーロー科だから、サポート科だから。それは確かに頭の中にある。前に出て戦うべきは自分たちヒーロー科だと思うし、サポート科は文字通りサポートに徹してこそ真価を発揮するとも思う。
もし、きららがヒーロー科で、A組にいて……同じ教室で過ごしていたなら……そう考えて、轟はふっ、と笑った。


「そうだな……スタートが同じヒーロー志望だったなら、もしかしたらそうだったかもしれねぇ」
「……サポート科ってそんな頼りない……?」
「いや、そうじゃねぇんだ。俺は……随分前からきららのこと好きだったし、おまえを守りたいって意識が強いんだと思う」
「……そんな前から好きぴだったん?」
「USJ行ったときはもう好きだったと思うぞ。改めて振り返ってみると、いくら友だちっていっても気のねぇやつと泊りには行かねぇよな。おまえだから一緒に泊ったんだ」
「……もうずっと前から両想いじゃん」
「そうだな。おまえがめっかわだったから、惹かれねぇのはそれこそむりぽよだ」

轟の表情にはそれはもうきららが好きだという感情が現れていた。
疑いようのないくらい愛されている。でも、もっと轟の近くにいたいと思う。きららはずいぶん自分が欲張りになっているのを感じていた。


「とどしょは……安全なとこにいてほしい感じ?」
「できればそうだな。危険なところより安全なところにいてほしい」
「一緒に戦う? みたいな選択肢は?」
「それならもう戦ってるだろ? きららが作ってくれたアイテムを使ってんだ。それはもう、一緒に戦ってるってことじゃねぇのか?」
「……! まって……それは目からうろこ……え、なに……あたしもうとっくにとどしょと肩並べてた感じ……?」
「俺はとっくにそういう認識だ。おまえが俺の個性をキラキラしたものに変えてくれた。クラスの奴等にも結構好評だったぞ。おまえの個性は、人を笑顔にできるすげぇもんだ。おまえの力が……俺をなりたいヒーロー自分に押し上げてくれてる。おまえが俺の個性を理想だといってくれたように、俺もおまえにたくさんの力をもらってんだ」
「ま……まじかぁ……!」

もう感無量だった。発明が短すぎてそんな当たり前のことに気付かなかった。サポート科のヒーロー活動、それは発明でヒーローを助けること。あのグローブを轟に渡したその日からずっと、きららはとっくに轟に頼られていたのだ。


「俺も、俺が来てみんながほっとするような……そんなヒーローになりたい。不安な気持ちを……拭えるヒーローになりたい。きららがキラキラさせてくれるこの個性なら……見ている人を笑顔にできるんじゃねぇかと、俺は思う」
「ううっ、なれるよ〜! とどしょならすぐなれるよ〜!!」

ぎゅうっ、と強く抱きしめてくるきららに轟は穏やかに微笑んだ。
きららは魔法使いだと轟は思う。世界をキラキラさせる魔法使い。きららと関わってからの轟の世界はいつもキラキラと輝いている。人を笑顔にする優しい魔法使い。そんなきららが大好きだと思う。


「これからもよろしくな。俺のヒーロー魔法使い
「任せろし〜〜!!」

もう心にもやもやはなかった。対等じゃないと思っていたのは自分だけで、もうずっと前から頼ってもらっていたことを知った今、八百万がうらやましいという気持ちは霧散していたのだった。


 


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