「いやぁ〜、メンブレやばたにえんすぎた……!!」
「もう大丈夫か? 他に不安なこととか、嫌なことはないか?」
「んーん、もうへーき! さっきまでは過去一メンブレでびくったけど、今は快晴って感じ!」
「それならよかった」
「とどしょマジすこすこのすこ〜!」
「俺もきららが好きだぞ」

轟にぐりぐりと頭を擦り付けると、きららは満足げに離れた。
引っ越し作業……否、轟のリフォームは始まったばかりである。中断させてしまった分働こうときららは気合を入れた。


「作業とまっちゃったね〜! 爆速で手伝うからゆるしてちょ〜!」
「そんなん怒ってねぇ。あんま重いもんとか、危ねぇもんは持つなよ。俺がやる」
「へーきへーき。サポート科で色々弄りまくってっから、こーゆうのはちょー得意なの」
「……それもそうか。じゃあ、頼りにしてるな」
「まっかせんしゃーいっ」

轟にも変化はあった。きっとこんな話をしなければ、俺がやると押し切ってしまっただろう。慣れているとはいっても、こういったものは怪我をしやすい。轟も轟で、確かに過保護気味だったかもなと今までの言動を振り返っていた。もやもやを告白をしたことで、二人の関係は以前よりいいものになっていこうとしていた。







途中でどうしても工具が必要になり、きららが工房から持ってきたついでに、つかえそうな発明品も持ってくると、少々部屋は手狭になってしまった。
轟はその発明品の多さにぱちくりと目を見開くも、まぁきららだしなと納得した。アイテムの調整で工房にお邪魔する機会が多かったので、その発明品の数はある程度把握していた。


「そういえば……発目がパワーローダー先生に工房にある発明品を片づけるよう言われてたな。きららもか?」
「あーうんうん。そうなの。あたし片付けだけはどーもダメで……つい散らかしちゃうんだよねぇ」
「そうなのか? 確かに、工房にあった発明品は山になってたが……」
「もーてんでダメ。片付けはむりむりのむり。部屋ぐちゃりすぎてママもおとーともうるさいし、彼ぴとも別れ……あ」
「……彼ぴって……彼氏だよな? ……元カレってやつか」

失言であった。つい口が滑った。いや隠そうと思っていたわけではないのだが、わざわざ言うことでもないと話題にすることはなかったのだ。ぎぎぎ、と音がしそうなほど……まるで油の切れたブリキ人形のような動作で轟の方を振り返る。その表情からはどんな気持ちなのかは察せなかった。


「あー……うん、そう」
「そいつとは……部屋がごちゃついてるっていう理由で別れたのか?」
「……うん。ほんと片づけれないから……チョッパズなんだけど、足の踏み場もないくらいでね……さすがに女子としてそれはやばたんピーナッツじゃん? って別れたんだよねぇ」
「……それ、女子だからとか性別関係あんのか?」
「あるんじゃない? 男子が部屋汚くてもまぁそんなもんっしょって感じあるけど、女子は片付いててほしいみたいな?」
「俺は特にそういうこだわりねぇけどな。そうか……なんか、もったいねぇな、その元カレ」
「もったいない……?」
「そんなことできららを手放したんだろ? すげぇもったいねぇ……こんな可愛いのにな」
「んん゛っ、とどしょがぎゃん褒めしてくる……!!」
「本当のことしか言ってねぇぞ」

ほんときららのことめたんこ好きじゃん!
モテてきたきららではあったが、ここまで溺愛されることはなかった。もう何してても可愛いって感じである。一方できららはでも、と考える。本当に片づけは苦手なのだ。多分轟の思っている10倍はヤバイ。思ってたより……やばいな。となるだろうと思ったので、きららはこれも正直に部屋を見せることにした。
万が一忘れ物をしたとき、どこにあるのかを探るために発明した小型カメラの映像をスマホに映し、轟に差し出した。


「とどしょ、これみて……」
「? ……お」
「やばいでしょ……あたしこんだけ片付けむりなの……とどしょが思ってるよりヤバイ女だよ……」

どよ〜んと沈む。しょうがない、誤解は早く解いた方が傷は浅い。
服はそこら中に散乱しているし、デコパーツも取っ散らかっているというか、もうぶちまけている。動物が中で暴れたのかといった惨状にさしもの轟も少し驚いていたが、すぐにけろっとした顔に戻った。


「服が多いんだな」
「んんっ、物は言いよう〜!」
「あとパーツが散乱してた。家でも頑張ってるんだな。頑張り屋さんでえらいと思うぞ」
「んん゛っ、激アマ〜〜!!」
「散らかってはいたが、俺はこれで別れようって気が起きるのが理解できねぇ……そんなに気になるんなら、俺が代わりに片づければいいしな」
「うぇっ!?」
「あ……他人に物触られるのはいやだったか?」
「いや、そういうのは特にないけど……なんか今の……一緒に住むみたいな錯覚が起きたというか……」
「一緒に……いいなそれ。そうしよう」
「ええっ!?」
「発明品も俺の部屋に置いていい。そしたらきららも来やすいだろ? きららが作業してる間に俺がおまえの部屋を片付ければ快適に過ごせると思わねぇか?」

キラキラした轟の顔が眩しかった。どうしてそんなに輝いているの。めちゃくちゃ世話焼かれてるんだが。きららにはメリットしかないが、轟にはデメリットしかないのでは。


「ええ、そんなの悪いって……! とどしょにデメリットしかないじゃん!」
「何でだ? きららを部屋に招く口実ができて、きららの部屋に俺が行くことで……俺たちが恋人同士だって……牽制になんだろ?」
「こーじつ!? け、けんせい!?」
「……俺も、気にしてねぇわけじゃねぇし……おまえとちょっとでも長く一緒に過ごしてぇんだ」
「……おけまる!!」

もう完敗である。最高におにかわ。優勝。とどしょしか勝たん。
こうしてきららは作った発明品を持ち込み、デコレーションを施すアトリエを手に入れる。きららだけのアトリエ。畳と障子戸と、四角い木枠の照明と……盆栽に書の飾り物。そして大好きな彼ぴがいる……それが、きららのアトリエであった。


 


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