轟の提案で、轟の部屋がきららのアトリエと化してからというものの、些か殺風景だった轟の部屋は見事にごちゃつきだした。煌びやかなデコパーツを扱うからか、自然とそうなってしまったのだ。
けれど轟は「きららっぽくていいな」と大変好意的であった。作業に熱中しだすと轟が頃合いを見て「そろそろおまえの部屋片づけるぞ」と宣言通りきららの部屋の片づけまでしてくれる。おかげでとっくにH組でも公認カップルであった。むしろ「今日もお疲れー!」だの「轟いらっしゃーい」だの歓迎ムードである。

サポート科きっての発明狂を二人も抱えるH組――しかも双方片付けは苦手――において、きららの発明品やらパーツやらで、廊下や共有スペースにまで溢れんばかりのそれを片付けてくれる轟という存在は、とても大きかったのであった。


「んんっ、ひとまず休憩ー!」
「区切りついたのか」
「ついたっていうか、つけたっていうか……そろそろお風呂入んなきゃ。寮生活ってこういうとこめんどいよねぇ……時間決まってるし」
「そうだな。おまえもこっちで入れたらまだ楽なんだろうが……さすがにそうもいかねぇか」
「さすがにね〜」

作業に没頭してそのまま轟の部屋に泊まることもあるくらいだが、それは恋人の中で完結しているためまだ目をつぶれるところがあるだろうが、さすがに風呂は話が別である。A組の女子たちも気を遣わなければならなくなるだろうし、科も違えばクラスも違う。そこまでの線引きはできていた。まぁ、今でも大分グレーゾーンだろうが。何せ彼ぴの部屋兼アトリエである。しょっちゅうお邪魔してしまっている。


「今日はどうする? 泊まるか?」
「……ふはっ、とどしょそわってるのきゃわ。泊ってほしいのー?」
「ちょっとでもきららと一緒にいてぇ。ダメか?」
「めっかわ素直ー! 泊まるー!」
「じゃあ風呂上がったら連絡してくれ。迎えに来る」
「おけまる〜!」

ちょっとでも一緒にいたいというように、轟は入浴のために寮に戻るきららを送ってくれた。そしてまた終わったら迎えにくるというのだから、本当に少しでも一緒にいたいらしい。お付き合いはあまりにも順調、らぶぽよであった。







そしてきららを迎えに行って、きららが作業を再開するのを見届けると、轟は何か飲み物でも持ってくるかと下へ降りた。すると覗き魔がいると葉隠の悲鳴が響き渡った。
最初は峰田を疑ったが峰田は入浴中であり、葉隠も違うと断言した。そして扉を激しく叩く音がし、飯田が緊張した面持ちで「どなたですか」と尋ねるも返答はなく……いつでも個性が使えるように迎え撃つと、そこには物間がいた。葉隠がみた覗き魔とは物間のことだったのだ。

物間の目的はA組の寮の視察だった。A組とB組で違いがあるかもしれないからとその目で確認しにきたのだ。
違い何てねぇだろ、という切島の言葉にも、実際に他の寮を見てないのにそれはわからないという物間の主張に一刀両断され、実際に物間が見て回ることになるのだった。
入浴中で部屋に鍵がかかっている者以外の男子部屋を見て回るが……物間はわりと辛口だった。


「で、次は轟か……どんな部屋が出てくるのやら」
「……あ、待て。今は……」

きららが作業に集中していたことを思い出し、轟は止めようとしたが物間の方が早かった。すでに扉を開けていた。


「な、なななななんで飾がここに!? っていうか和室!? いや……まるで工房じゃないか!!」
「んー? あれ、ものぴーじゃん。B組も遊びに来てる感じー?」
「……轟っ、どういうことか説明してもらおうか!? この部屋のありさまといい、飾といい……何がどうしてこうなってる!?」
「何がって……部屋はリホームした。フローリングは落ち着かねぇんだ。きららがいるのはここがきららのアトリエだからだが……」
「色々ツッコミどころがあるが……一つだけ言わせてもらおう。君の自室がなんで飾のアトリエなんだ!? 君たち科も違えば寮も違うじゃないか!」
「? そんなの、俺らが付き合ってるからだろ? 俺はあんま部屋に物置かねぇし……きららが作業するのにちょうどいいんだ」
「!? 君たちが!? ……意外な組み合わせだな……」
「そうか?」

物間はきららたちが付き合ったという話は聞いていなかったようで、相当意外そうな顔をしていた。クールな轟とギャルのきららという組み合わせが意外過ぎたのだ。


「ああ……てっきり、君は大和撫子系が好きなのかと……」
「別に興味ねぇ……けど、きららが着物着てんのはみてぇな。なぁ、今度着てくれるか? 実家にあったと思うんだ」
「いーよー! 寮になった事情が事情だから行けるかわかんないけどさ、初詣とか行きたいねー!」
「そうだな。行けるんだったら振袖にしよう。振袖が着れる期間は短ぇから……今のうちにたくさん着てほしい」
「そだね〜。着れるうちに着とかないともったいないもんね」

なんかイチャイチャしている。物間がいった何気ない一言からデートの約束が取り付けられている。しかもわりとぐいぐい行くじゃないか。轟って恋人に対してはこんな感じなのかと信じがたいものを見る目で見ていた。
一緒について来ていた緑谷たちはもう慣れたようで、苦笑しつつも「仲がいいんだ」と教えてくれた。なるほど確かに……仲がいい。


「てか、和服気になるなら浴衣着よっか? パジャマ代わりにしてもいいし……」
「いや、それは今のままにしてくれ。今のこのもこっとしてるのが可愛い。すげぇ似合ってる」
「これね、ジェラピケ。あたしもちょーおきに! 似合ってんならよかったー!」
「最高にめっかわだ。きららは何着ても可愛いと思うが……これはなんか、ちょっと特別だ」
「とどしょのおきに?」
「ああ、おきにだ」

いや、仲がいいどころじゃない。良すぎるな?
物間は砂を吐くように乾いた笑いをこぼした。見なかったことにして力なく次の部屋に進む物間の後を緑谷たちは追った。あれはしばらくは二人の世界だろう。
普段は冷静沈着な轟が、恋人のことになると途端に情熱的な面を押し出してくるので、慣れないうちはギャップに風邪をひきそうになった。もう慣れたが。

そうして物間がすっかり元の調子を取り戻し、何だかんだと勝負ごとになったところで轟は帰って来た。きららの心友である発目からもらったという海賊が危機一髪的なあれを抱えて。
それがまた一騒動起こすことになるとは、この時は誰も思わなかった――。

余談だが、轟が部屋で保管していたため、きららが面白がってデコレーションが施されていた。剣を刺すたびに施行される数々の罰ゲームはそれはもうハードでスパイシーだったとかなんとか。サポート科を代表する発明狂二人にかかればいくらでも混沌を生み出せるのである。それを身をもって知ったヒーロー科の面々は、サポート科の恨みだけは買うまいと誓うのだった。


 


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