「いい加減にしやがれ!! おめぇのそのクソセンスを俺に押し付けんじゃねぇって何回言やわかんだこのクソギャル!!」
「えー!? 爆ぴこそセンス尖りすぎだって!! 爆ぴの言う通りにしてたらどっちがヒーローで敵かわかったもんじゃないし!」
「誰が敵だ!! 俺がヒーローに決まってんだろうが!!」
「尖りすぎなんだって〜!!」

ヒーロー科が仮免取得に向けて必殺技を編み出していた頃、工房も人の出入りが激しかった。
サポートアイテムを新調する者や、コスチュームを改良する者が訪れていたのだ。爆豪もその中の一人で、コスチュームの許可証ライセンスを持つパワーローダーに改良の依頼に来ていたのだが、発明狂の名に相応しく工房に入り浸っていた発目ときららに捕まる者も珍しくなかった。

爆豪は意地でも発目に任せることはなかったが、きららの個性を目当てにデコることを許可したのはいいのだが……尖ったセンスを持つ爆豪と、キラキラ輝かせたいきららでは方向性が一致せず、作業は難航していた。


「技術者はクライアントの意見を聞くもんだろうが! できねぇならいい、もうおまえには頼まねぇ!」
「待ってよ爆ぴ! 何もまるっきり爆ぴのセンスを否定してるわけじゃなくてさ、ちょっと方向性変えるとか、抑えるとかできない? って提案してんだけどぉ」
「俺ァ、てめぇの彼氏みてぇなんは死んでもごめんだわ! 妥協してまでそんなもんはいらねぇ!」
「んんん……キラメキ系がダメなのはまぁ、いいとして……でも爆ぴこれ……ボンバーマン的な感じにならない……?」
「ああ゛!?」

ヒーローコスチュームのデザインから思っていたが、全身ダイナマイトにもほどがある。
デコまでそっちに寄せてしまったら、爆豪の粗暴な言動と相まって本当に敵に誤認しそうだった。なるべくスタイリッシュなデザインにはしているが、爆豪の要望は爆殺的なものである。物騒過ぎた。


「ちっ、もういい。よこせ」
「あ、ちょっと爆ぴ……!」
「その爆ぴってのやめろ! ……俺ァ他のもんで妥協する気はねぇ。できねぇならこのままのがマシだ」
「……こだわり強いんだからぁ……」

さっさと出て行った爆豪にきららは肩をすくめた。正直青山も注文が多かったが、爆豪のこだわりは別種のものだった。自分が理想とするものに一切の妥協をしない。きららはどうしたものかと思いつつも、でも爆ぴの言うとおりにデコると物騒すぎだもんなと頭を悩ませるのだった。







「わりぃきらら……壊しちまった」
「お? どったんー?」

轟が沈んだ様子で持ってきたのは見事に破れたグローブだった。
左は無事だが、右が損傷している。これは作り直したが早いだろう。


「仮免に向けてサバイバル訓練があったんだが……地下街にあるショッピングモールに水が押し寄せてきて……少し無茶したら破れちまった……」
「それ危うく溺れるところじゃん? 無事でよかったー!」
「……怒ってねぇのか?」
「えーなんで? 破れたから?」
「ああ……せっかくおまえが作ってくれたのに……」
「めっちゃオチてんね? いーよいーよ。むしろ僥倖って感じだし」
「僥倖……なんでだ?」
「んー、ほら、見てみて。ココね、とどしょの出力にこの子が耐えられなかっただけなんだよ。定期的にメンテしてて調整してたつもりだったけど……とどしょはそれ以上の速さで成長してるんだねぇ。なんかそれ嬉しくない? むしろちゃんと成長についていけてなくてごめんね〜!」
「成長……してたのか、俺」
「自分じゃあんま気付かないもんね〜。今度はもっと丈夫に作るね。今のとどしょの1000%くらいにも耐えられるくらい!」
「そりゃすげぇな」

ヒーロー科は仮免試験が目前に迫っていることもあり、訓練は激しくなっているようだった。
僥倖とは言ったが、きららもこれが訓練でよかったと内心でほっと息をついた。もしこれが現場で、肝心な時に壊れていたらと思うと冷や汗どころではない。仮免を取ると言うことは、セミプロとしてインターン活動に出たりして、直接ヒーロー活動に従事するということだ。きららも頑張らなければならない。ヒーローのサポートをするということは……ヒーローの命を預かると同じことだから。


「ね、彼ぴ。爆ぴどこにいるかわかる?」
「爆豪? それならリカバリーガールんとこにいるんじゃねぇか? 足怪我してんだ」
「マ? やばたんじゃん。んじゃちょっぱやでお見舞いがてら行ってこよ」
「爆豪の見舞いに……?」

不思議そうな顔をする轟に、サポートアイテムをデコるためだというと納得した顔をして「爆豪こだわり強ぇだろ……この間少し揉めてなかったか?」と心配げな顔をした。きららはよしよしと轟を撫でると、口を開く。


「爆ぴ唸らせられたらさ……これから先、どんなクライアントでも対応できると思わん?」
「それは……そうだな」
「それに爆ぴもどんどん前線に立つタイプだし、そういう人にこそあたしの個性必要じゃんね」
「ああ、これがあるとないとだと大分変わる。爆豪もあると助かるはずだ」
「問題はデザインだからなぁ……よーし、頑張るぞっと」

善は急げとばかりにきららは立ち上がり、リカバリーガールのいる保健室へ向かった。轟も途中まで一緒に行こうとしたのだが……作業着のまま校舎内に入ったため、きららのくびれをちらちら見たりする男子生徒もおり、轟がそれに気づいて「なぁ」と声をかけた。


「なにー? とどしょー」
「おまえの格好なんだが……」
「ん?」
「ちょっと……露出が多くねぇか?」
「今更過ぎん?」

本当に今更過ぎた。轟もこれにはほんと今更だよなと思う。けれど実際に見られているのに気付くと気になってしまってしょうがないのだ。


「……他のやつにあんま見られたくねぇんだ。替えてくれねぇか?」
「えーやきもち? きゃわたん。いーよー」
「いい、のか?」
「いーよ。後で部屋来てよ。とどしょ選んでー」
「選ばせてくれんのか。いいな、それ」
「きららもどんなの選んでくれるのか楽しみ〜」

そんな話をしながら保健室に向かっていると、廊下で爆豪と遭遇した。爆豪は並んで歩いている轟ときららの姿とその雰囲気にげっ、という顔をした。


「爆ぴアイテム貸して〜! ちょースタイリッシュにすっから〜!」
「はぁ!? おまっ、前は――」
「今度はできるって! もうめっちゃ最高にバイブス上がるようなものにするから! もう一回やらして!」
「…………本当にできんのかよ。俺ァ妥協しねェぞ」
「しなくていいよ。ヒーローの力になんのが技術者だかんね」
「……一回しかやらせねェかんな。一回で俺を納得させろ」
「おけまる! まかせろり!!」

受け取った籠手を抱える。何気に重い。
轟がさっと代わりに持ってくれた。優しい。期限は学校が休みである明日まで。納期が短いがやるしかない。クライアントの無茶に応えるのが技術者なので。当然、今日は徹夜が確定したのだった。


 


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