今日はヒーロー科の仮免試験がある日である。
きららは轟に激励も込めて「ふぁいと〜!」とぎゅうっと抱き着いた。パワーを注入するようにぎゅうぎゅう抱き着いてくるきららに、轟は「ありがとう。頑張ってくる」と笑った。

きららはまったく心配していなかった。
だって轟である。実力も十分であるし、とても優しい性格だ。仮免試験ではヒーローとしての素養が試される。それを鑑みれば轟の合格は疑いようもない。……けれど、予想に反して轟が合格を逃すことになるとは……この時は思いもよらなかった。







「ええっ、喧嘩したぁ!?」
「ああ……夜嵐ってやつと試験中にやっちまって……不合格になった」
「なんでまた……とどしょそんな怒るタイプだったっけ?」
「わりと短気な方だと思うぞ」
「うっそー! きららめっちゃ彼ぴにお世話になってるけど、一回も怒られたことないよ〜? え、我慢してたりする!?」
「いや、きららのは……頼ってるってことだろ。甘えられるのは悪い気しねぇ。もっと頼ってくれてもいいくらいだ」
「激甘〜! 彼ぴ大好きだよ〜!」

ばっと抱き着いてきたきららを受け止めると、轟は「俺も好きだぞ」と抱きしめてくれた。本当に花丸満点である。これぞらぶぽよの極み。
けれど仮免試験中に喧嘩とは。しかもわりと派手にやったようで合格の成否にまで響いている。きららはひょこっと顔を上げ、聞いてみた。


「なにがあったのか聞いても大丈夫な感じ?」
「かまわねぇが……ちょっと長くなるぞ」
「いいよいいよ。彼ぴのことおせーて」
「……あんま、楽しい話じゃねぇが……そうだな」

そういって轟が話してくれたのは、ちょっとびっくりする話だった。
父、エンデヴァーが望んだ子。個性の顕現間もなく始まった苛烈な訓練。火傷の経緯と母親への思い。父への憎しみと反抗。
轟が左の個性に対して何か抱えていたのは知っている。けれどこのような経緯だったとは。影あり系なんてもんじゃない、闇が深すぎた。


「彼ぴがんばったね〜! めたんこがんばったね〜!!」
「……いや、俺はまだまだだ。背負ってかねぇといけねぇもん、置いて行きかけてた。それを夜嵐は気付かせてくれた」
「背負ってばっかじゃーん!」

まだ背負うというのか。きららは轟が心配になった。すでにめちゃくちゃ背負ってるんだが。それでもまだ足りないと申すか。神様って意地悪だな、こんな可愛くて頑張り屋さんな彼ぴに苦難与え過ぎでは。きらら激おこなんだが。
きららはよし、と決心するとばっと腕を広げた。


「彼ぴ! おいで! 今からきららちゃんが彼ぴをどちゃくそ甘やかします!!」
「お……」
「さぁ! おいで!!」
「お、おう」

大変戸惑いつつも、轟がきららの腕に収まると、きららはちゅっ、ちゅっと轟の頭にキスをしたり、抱きしめたり、撫でたりなどしてそれはもう甘やかした。
最初は戸惑っていた轟だったが、次第に慣れたのか力を抜いてきららの肩に頭を預けたりなど、それなりにリラックスしているようだった。


「ふっ……きらら、そこくすぐってぇ」
「んー? 耳弱い? かーわい」
「くくっ……おまえ、面白がってんな……?」
「だって、反応かーいいんだもん」
「いつもおまえは可愛いって言うがな……」
「とどしょはかわいいよ。めっかわ……わっ」

椅子代わりにしていたベッドにそのまま押し倒された。見下ろしていた轟を今度は見上げる形になり、ドキリとする。
轟は少し緊張した面持ちで、そのままちゅっとキスをした。離れてはまた近づいて、近づいてはまた離れていく。ゆっくり繰り返されるキスに、きららはそういえばちゃんとキスしたのは初めてかもしれないと思った。
ぼんやりする。あれ、キスって……こんなすごかったっけ。

その様子を見た轟がキスを止めて、妖しく笑った。


「……俺も男だ。可愛いだけじゃねぇぞ」
「……それは……最強だわ」

可愛いだけじゃない、轟も狼な一面があったのだ。きららはドキドキしつつも、ちゅっと自分からキスをしてみた。少しだけ轟が驚いたような表情を見せるも、すぐにまたキスが返ってくる。
なんだか不思議だ。こんなに満たされるものだったっけ。ずっとしていたくなる。けれどそこではっとした。


「だめじゃん!」
「お。どうした?」
「あたしが甘やかすって決めたのに! 甘やかされてる!」
「そうか……? 俺もずいぶん甘やかしてもらったと思うが……」
「微々たるじゃん!? それ以上にあたしが甘やかされてるし!」
「そ、そうか……?」
「そーだよ! だってめたんこ気持ちよかった!」
「それは俺も気持ちよかった」
「それは何より!!」

テンションがおかしい。照れ隠しもあるのかもしれない。ちょっとおかしくなって轟が笑った。それを見たきららも恥ずかしいやら、笑ってくれて嬉しいやら、複雑な気持ちながらつられて笑った。


「なぁ、まだしてぇんだけど……いいか?」
「……そんなん、許可とらなくていいんだよ。したいなら……いつでもしていいから」
「そりゃいいな。おまえもしてくれるか?」
「……うん。多分、彼ぴがいやってなるくらいするけど許してね」
「そんな日は来ねぇから安心してくれ」

至近距離で整った顔が綻んだ。キスで吐息が絡まっていく。
ベッドの上でするキスは……なんだかちょっとえっちであった。



 


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