講習の時間になり、きららも一緒に見学することになった。その後ギャングオルカが性能実験をしてくれる手筈になっている。
きららは観客席に座ろうとし、そこにオールマイトとエンデヴァーが座っているのが見えた。エンデヴァー、それはオールマイトが引退した今実質的にNO.1となったヒーローであり、轟の父親である。だがその関係には確執がある。きららはうーんと悩みつつも、ひょこっと顔をだした。彼氏の父親なのだ、挨拶くらいはしておこうと思ったのである。


「ども〜、とどしょのかのぴのきららで〜す! 初めましてパパン! 末永くよろぴ〜!」
「……何を言っているのか全く分からん。わかるように話してくれ」
「お。しょーとくんと付き合ってる彼女のきららで〜す!」
「何!? 焦凍とだと!!?」
「いえすいえす! パパン末永くよろしくね!」
「しょ、焦凍ォオオオオオ!! 俺は認めん! 認めんぞ!!」
「えー、聳え立つ壁じゃん?」

最初は思ったよりそんな怖い感じの人じゃないのかもと思ったが、付き合っていると分かると豹変した。
抗議を受けた轟は滅茶苦茶鬱陶しそうな顔をしていた。わー、きららあんな彼ぴの嫌そうな顔初めてみたー。


「おい小娘!」
「きららだよパパン」
「そのふざけた呼び名もやめろ! 虫唾が走る……!」
「えー、じゃあおとーさま?」
「貴様にお義父様と言われる筋合いなどない!!」
「ええっ、彼ぴまるで娘扱いじゃん? 箱入り息子? 愛息子ってやつかぁ……」
「貴様のようなふざけた奴に焦凍の相手が務まるわけないだろう!! 今すぐ別れて――」
「まぁまぁ、エンデヴァー。そういうのは本人たちが決めるものだと思うよ。現に轟少年は飾少女のことをとても大切に思って――」
「貴様に焦凍の何が分かる!!」

もうファイヤーであった。スモアし放題でうらやま、などと現実逃避するところである。体育祭でちょっと親ばかっぽいなとは思っていたが、それを上回っていた。
ちらりと視線を向けると、轟の眼光がどんどん鋭くなり、まるで氷のようだった。こーれはやばい。きららも自分が声をかけたことで始まってしまったこともあり、事態を収拾せんと口を開いた。


「おとーさま、チルってチルって。騒いでたら彼ぴもチョッパズだよ〜!」
「わかるように話せと……!」
「ああっそっか、落ち着いて、しょーとが恥かいちゃう」
「……フンッ、あとで話がある」
「おけまる〜!」

ひとまず落ち着いた。だが話は終わっていないらしい。きららはにゃははと遠い目をした。これは轟も大変なわけである。
そして始まった仮免講習だが、なんかすごかった。


「これまでの講習でわかったことがある。貴様らはヒーローどころか底生生物以下!! ダボハゼの糞だとな!!」
「サーイエッサー!!」
「特に貴様だ!! ヒーローになる気はあるのか!!?」
「まず糞じゃァねェんだよ」
「指導ー!! どうしたら糞が人間様を救えるか!!?」
「……肥料とか間接的に……」
「指導ー!! 戦闘力機動力だけで人は人を称えるか!!?」
「サーイエッ」
「指導ー!!」

ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、爆豪、轟、夜嵐の三名は指導対象になった。三人はそろって充分な戦闘力を持つが、爆豪の要救助者への不遜なふるまい、轟と夜嵐の周囲の状況を無視しての意地の張り合い。それらから三人に欠けているもの、それ即ち心≠ナあるとギャングオルカは説く。
それを超克するべく死闘を経て心を通わせてみろと出てきたゲストたちは……市立間瀬垣小学校の生徒たちであった。


「わぁ〜やばたん。カオスすぎん?」
『……MC魂が!! 限界を迎えた!! BGMに実況!! それら無き催しに宿るソウルはない!』
「あってもなくても正直そんな……」
『あってもなくてもってのはあった方が良いって事なんだぜ。マイティボーイ!! な、ギャルガール!』
「あ、ちょっと……」
「! おけまる! 鬼パリピってこー!」
『さァ、バイブスアゲてけレットーセー。始まったぜ卵とジャリのバトルがよォ!!』

唐突に始まった実況もこれが意外といい味を出していた。
プレゼント・マイクが気を利かせてオールマイトとエンデヴァーが二人で話を出来るようにしたのだ。
間瀬垣小学校の児童たちは揃いも揃って悪ガキで、なんとなくダメそうだと判断され一緒に混じっていたケミィも含めた四人は、随分手を焼いているようだった。


『さァチームダボハゼ、どうしたらいいかわからないといった面持ちだ!!』
『わーめたんこやんちゃ〜! 子どもは元気が一番ってゆーけど、元気有り余ってんね〜!』
「良いんですけど、一応講習なんで程々に」
『オケオケ』

目良や担任の生駒先生らと一緒にテーブルについて実況していると、きららの方にとことこと児童がやってきた。
これにはなんだなんだとプレゼント・マイクたちも不思議そうにしていると、その児童はばっと両腕を伸ばす。これは……抱っこのおねだりである。


『まさかの展開! チームダボハゼよりギャルガールに早くも心を開いたか!?』
「なんっっでだ!? そいつなんもしてねーだろ!!」
「抱っこされたいの? いーよ、おいで」
「……うん」
「すっご。めちゃくちゃしおらしーし……やっぱ可愛いお姉さんに弱い感じ?」
「ちょっと可愛いからってちょーし乗ってんじゃないわよ……」
「そうよそうよ、ちょっと胸が大きいからって……」
「お腹出して誘って節操がないったら……! 絶対あの手の女は男とっかえひっかえして遊んでるに決まってるわ」
「(わー、マジ年頃)」

ケミィは難しい年頃だと常々感じた。きららに抱っこしてもらった児童はそれはそれは幸せそうであったが、きららに懐いてもしょうがない。
――仮免講習、轟達の試練は始まったばかりであった。


 


戻る
top