児童たちの担任である生駒先生はとても困っていた。気弱な性格の新米先生はすっかりナメられてしまっており、子どもたちが主導権を握ってしまったのだ。すっかり先生たちに心を閉ざしてしまった子どもたちが、再びまっすぐな気持ちを思い出せるように、生駒先生は一縷の望みを爆豪たちに託していた。


「野暮なことは言いっこなしだな。人が困ってる」
「つまりみんなと仲良くなればいいんスね!! よーし!!」
「子守なんざとっとと終わらせて向こうの講習に参加だ」
『ああっと早速野暮だ爆豪!! 雄英の火薬庫はどういうアプローチに出る!?』
「先公が先導者としての役目を果たせずナメられた結果、ガキが主導権持っちまってんだよ。なんとなく、いつの間にか、こうはならねえ。クラスの空気を形成してるボスが必ずいる。そいつを見つけ出す」
『爆ぴって意外とインテリ系じゃん? いー感じかも!』

きららが期待したように声を上げるが……その期待は秒で裏切られた。


「そしてバキバキにへし折り、見せしめに吊して全員に石を投げさせる。自分てめーがいかに矮小な存在かを擦り込むのが一番効くのさ」
「仲良くなればいいんスよね!?」
『わー……』
『さァ独自の見解を述べた爆豪だが……!』
「一番強ェ奴出てこいや。俺と戦え」
『駄目そうだ!!』
「そういう前時代的暴力的発想……お里が知れますよね」
『お里を知られたァ!!』

思わずこれには生駒先生も大丈夫なのかと不安を隠せない。プレゼント・マイクは『ご安心を、余興です』と言って励ましているが、本当に大丈夫なのかあやしいぞ。
きららはあの子ずいぶん難しい言葉を知っているなと感心した。頭がいいから大人たちに対しても失望しやすいのだろう。
爆豪が失敗したところで、次は夜嵐が向かった。


「まずお互いを知る事が親友への近道っスよー!! ヒーローになりたい子ー!!!?」
『次鋒は士傑の子ー!!』
「児戯は恐らくイナサの得意とするところ……奴の気勢は周囲を活気づける。さて……見物だな」

士傑の先輩もしれっと解説に加わった。なんか難しい言葉を使っていらっしゃる。
夜嵐が熱血な感じなのはその言動で大体理解していたため、期待が深まるところであった。


「なるー」
「かっこいーし」
「俺ちょーつえーし」
「そうかー!! 俺もなりたいっス!! 熱さと情熱こそ滾る血潮っスよね!!」
『何言ってんのかわからんが何かいいぞ!?』
『ザ・熱血って感じ。体育会系のノリっぽ』

児童が夜嵐に大人しく抱きかかえられているのを見ると、これは上手くいくかもしれないという期待もあるが、そんな簡単に行くだろうか。きららはさっきの頭のいい子といい、割と痛いところをついてきそうだなと感じた。


「みんなの笑顔を守るのがヒーローっスよね!? 先生を困らせる子は立派なヒーローになれるかな!?」
「……なれない……?」
「うん!! それなら――」
「でも……! じゃあさ! 講習開いてもらって、先生や公安の人たちのお仕事増やしてるお兄ちゃんたちもなれない……?」
「たしかに!!! 偉そうに言っていい立場じゃなかったっス。すいませんでしたァ!!」
『豪快に繊細ピュアだな』
『的確に急所えぐってくるじゃん? 最近の子どもえぐち』

きららは腕の中にいる児童も、きららに心を開いてくれたとかではないのだろうなと思う。たまたまこの子の好みだったんだろう。割とマセているし。子どもであることを最大限利用して甘えるというのもなかなかに強かだった。最近の子どもすごい。


「この子ら思ったよりヒン曲がってないー?」
「だから言ったろ。時に暴力も必要なんだよ」
「爆豪、それは違う」
「あァー!? ウチはそーやって育てられてンだよ」
「もっとやりようはあるはずだ」
「……ホホウ。じゃア見せてくれよ。てめーのやり方をよォ」
「ああ」

次は轟の番だった。暴力を否定する轟にきららは心配そうな顔をする。
エンデヴァーは話してみてすごい親ばかだったけれど、幼少期から父親に受けてきた苛烈な仕打ちは、轟の心に暗い影を落としている。そんな轟がどういったアプローチをするのか、気になるところでもあった。


『さーて、次はおまえか!!!』
「俺なりのやり方……」
『冷静と情熱の間、轟焦凍ォ!!』
「焦凍ォ!!」
『彼ぴふぁいと〜!』

轟の並外れて整った容姿に思わずぽっとなる女子児童たちだったが、きららの彼ぴ発言で「あ、やっぱあんだけイケメンだもん。彼女いるよね〜!」と現身が反応し、それを聞いた女子児童たちも「あれが彼女!?」「やっぱり男って頭の軽そうな女に騙されるのよ……!」とすぐに荒んだ表情に戻ってしまった。なんか悪い事した。


「ちっ……彼氏持ちかよ。もういい、降ろせ尻軽」
『わー。掌返しすごぉ』

さっきまでべったり甘えてきていた児童もめちゃくちゃ荒んだ。
というかどこでそんな言葉覚えてくるの。泥沼劇の昼ドラでも見てるのかと心配になる。


『早くも彼カノ発覚で児童の心が離れつつあるが……どうやってここから距離を縮めるのか、こいつァ見物だぜ』
「ゴチンコはつまんねーからいいよ。でかいゴリラをからかおーぜ」

反応の薄い轟はお気に召さなかったらしい。リアクションの大きい夜嵐の方が音の鳴るおもちゃのような感覚で面白いのだろう。
ちなみにゴチンコとは轟のコスチュームに下げてある応急処置用のケースのことである。そちらが児童にはチンコに見えたらしく、五個あるからゴチンコとあだ名がついてしまったのだ。

轟はまず、自分がどういう人間なのかを知ってもらわないと何も届きはしないと思い、知ってもらうことから始めようとする。そして始まったのは――


「俺はゴチンコじゃねぇ。ヒーロー志望の雄英生徒、ショートだ。現NO.1ヒーローのエンデヴァーを父に持つが、俺はずっと奴を憎み、見返すためにヒーローを志してきた。だが同級生との交流と彼女がかけてくれた魔法の――」
『人物紹介ページみたいな語りから入ったァ!!』
「つまんね」
『総スカン!!』
「ワリィ」
「ナイスファイトっス轟!!」
『彼ぴがんばったよ〜!』

正直自分語りを始めた轟の受けは大変悪かった。児童たちはドン引きもいいところだったが、それでも轟はよく頑張った。
結局仲良く3タテを迎えた。はてさてこの特別講習、どうなることやら。


 


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