「ねー3人ともさっきからフツーにやってる感じだけど、個性でしっかり私たち見せた方がテットリバヤクない?」
「おれもそれを言おうとしてたんだ!!」
「ウッソマジキグー」
「まだ溝は深ぇ。つーか俺たちを困らせて楽しんでる節がある。攻めるには溝を埋めるんじゃなく、飛び込むしかねぇ。実技デモンストレーションだ!」

方向性がちゃんと決まって来た。
ヒーロー志望らしく、個性のあるべき使い方を実演することにしたのだ。


「すげェとかカッケェとか思わせねぇといけねェ。かと言って、見下してる相手にただ負かされちゃあクソみてェな気分になるだけだ」
「あの子ら、あのままじゃ試験の時の俺みたいに迷惑をかける奴になっちまうっス」
「…………うん。視野を広げてやることくらいは、俺たちも出来るハズだ」

轟はそういうと、きららに新調してもらったグローブを装着している両手を見て、軽く握った。
見ている人を楽しませることのできる、キラキラした個性。そういう使い方、魅せ方があるときららが魔法をかけてくれたように、今度は自分たちが子どもたちに魔法をかける番だった。


「何か話してる。フフン……知ってるんだぜ。パパもママも、テレビもみんな言ってる。ヒーローは大丈夫かって……俺たちは知ってるんだゼ……」
「ああダメよ、危ない!!」
「俺たちの方がデキるって事をさ!!!」
「ハッ!! 好都合だ……! 来いよガキ共。相手してやるぜ」

きららは子どもたちの発言から、もしかしたらこの状況は、平和の象徴の不在に対しての周囲の不安から、この子たちなりに考えた結果なのかもしれないと思った。
頼るべき大人が頼れる、ヒーローという存在。そのヒーローへの不安視が自分たちの方がやれるという自尊心を育てて上げてしまった。素直だと思う。素直だからいろんなことに敏感なのだ。

――頑張れ、ヒーローの卵たち。

きららは祈る。子どもたちにちゃんと頼れるヒーローがいるということを見せてあげてほしい。
確かな安心と信頼、こうなりたいという憧れ、指針。それらがこの子たちには必要だった。







「力に力で対応するのは迂愚の極み!!」
『誰だてめー!!』
『急に現れるじゃん?』
「先ほどから士傑高校の子細を把握しておらぬ様子。実況を衡平に行えるよう助力したく参じた次第」
『何て?』
「プレゼント・マイクの仰せの通り、本気で衝突すれば児童に残るは忸怩たる思いのみ。逆に手心を加え児童に華を持たせれば更なる増長を招く……対話を抛った時点で、彼奴等きゃつらは袋小路に入り込んでしまった」
『そーかなぁ? なんでも使い方次第っしょ。少なくともあたしは魔法かけれると思うけどなー』
「魔法……? そのように曖昧なものを――」
「すみません!! 悠長に話している場合じゃないですよ!! あの子たち……自分の個性がヒーローより優れていると……本気で皆さんを負かす気でいます!!」

切羽詰まった様子で生駒先生が危険だと訴える。実際、子どもたちの個性はすごかった。
これにはプレゼント・マイクも驚く、自分たちの子どもの時にはこんな威力出せなかった。それは身体的にも、法的にも、心理的にもであるが、個性が自分たちの世代より強くなっていると感じた。

それを受けて肉倉が一つの仮説を立てた。世代を経るにつれ、個性は混ざり合ってより深化していく。より強力、複雑化した個性はやがて誰にもコントロールできなくなるのではないか。個性特異点といわれる終末論の一つに、そう記されているらしい。
子どもたちを見ていると、それも強ち間違いではないのではないかと思わせるものがあった。


「すみませんすみません、全て私が――」
『おっと先生!』
「ギャングオルカ、マズいのでは!?」
「マズイ!? そう思うか!? つまり貴様は私が、不測の事態をただ呆然と見ていると思っているのか」
「ええーノーサーノーサー!!」
『まァ! 今はあいつらのターン! もうちょい見ましょ』
「腐ってもヒーロー志望。このような事態何の不安もない」

実際に何の問題もなかった。爆豪たちは無傷であったし、子どもたちの心を掌握するためにすでに動いていた。
殊更当たりの強かった女児児童が、クイーンビームという個性を放つが、現身が轟の幻を繰り出しあっさり陥落した。


「オイオイ、君の可愛い顔が見てぇんだ。シワが寄ってちゃ台無しだぜ」
「はぁい!!」
「ごめーん、マボロシー。でも言われてみたいよねぇ。ウチの学校、今時異性交遊禁止だし。マジ渇望」
「カワイイカオガミテーンダ……グプブッ。俺は良いと思うぜ!! マボロキ君よォ!」
「? そんなに面白ぇこと言ってたか?」
『あれ彼女的にはどうなわけ?』
『ありよりのあり。彼ぴお顔マジ神だから、世界が潤うのは自然の摂理って感じ?』
『懐!』

まあ言うてマボロキだし。本物はあげられないけど幻ならまぁ。
それに相手は女子児童である。あんなに素直にお返事して、割と微笑ましかった。


「いーからさっき話したヤツ・・行くっスよ!」
「何を……っ!! している……っ!!」
「君たちは確かに凄いっス!! でもね!! ブン回すだけじゃまだまだっス!!」
「館内ってちょっとないよねー、味気」
「行くっすよォ!!」

そしてあっという間に――夜空にオーロラが輝く、氷の滑り台が完成した。
夜嵐が児童を風で浮かせて滑り台に乗せて滑らせた。キラキラと輝く、氷の滑り台。爆豪の爆破で破片が煌めいたのか、骨組みにされた児童の個性も爆発的に輝いていた。
それは……きららが野望と志した夢の形。キラっとデコったあげみざわなアイテムが個性に魔法をかけて、世界を煌めかせる光景。


「おおおお〜〜〜〜!!?」
「こんなことできンのかよぉ」
「何よ何よ何よ、ステキ……」
「すごいっキラキラしてる……!!」
「複雑な形は形成できねェから、おまえたちの出したモンを骨組みに使わせてもらったよ。立派な個性で助かった」
「玉城くんたちだけズルイよ!!」
「ああ、並べ」
「完全にいなしつつ、心を折らずに交流を深められる立案か……」
『こういう使い方良いよなァ、ホッコリするもん。……って、飾!? 泣いてねぇか!?』
『ううっ……いやぁなんか嬉しくてぇ……! めたんこ個性も、子どもたちもキラキラしてるぅ……!』
「…………これが……魔法の形、か。良いものを見せてもらった」

うれしみが深い。きららはすっかり感動して泣いていた。
轟はきららに視線を向けると、ありがとな、と心中で感謝した。爆豪も一瞬そちらに目をやったが、すぐにふいっと顔を背けて先導者の手を引いた。最初は抵抗していた先導者だったが、爆豪の「いつまでも見下したままじゃ自分の弱さに気付けねェぞ」という言葉は、しかと胸に響いたのだった。経験者として、先輩として、その言葉は心からの言葉だと理解したのだ。


「ねぇ」
「あれ、さっきの子じゃん?」
「…………さっきは、尻軽っていってごめん」
「お。いーよ。謝れてえらいねぇ。よしよし」
「……おねーさんは、ゴチンコのこと好き?」
「……うん、ちょー好き」
「……そっか。もしゴチンコにひどいことされたら教えてね! 俺がやっつけてやるから!」
「おお、頼もしいな。うん、そのときはお願いね」
「任せろ!」

間瀬垣小学校の児童たちはすっかり改心していた。
本来のまっすぐな心を取り戻すことができたのだ。きっとこの中には未来のヒーローがいるだろう。もしかしたらきららがサポートアイテムを担当することになるかもしれない。そんな未来が来たらいいと思う。

世界を、未来を、キラキラさせることのできるそんなアイテムを作っていきたいと、改めて思うのだった。


 


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