間瀬垣小学校の児童たちが帰った後、きららはギャングオルカと性能実験を行っていた。
正直ギャングオルカ的にはキラキラしすぎていたが、あの氷の滑り台と児童たちの輝いた表情を見た後ではそれもいいかと思えていた。


「うむ、問題ない。大事に使わせてもらおう」
「あざまるーー!」
「飾と言ったな。おまえは良い技術者になるだろう。戦うのは我々ヒーローだが……おまえのこれは、人々に希望を与えられるいい個性だ」
「めっちゃ褒めてくれるじゃん!? ギャンオルもめっちゃいいヒーローだよぉー! あたしフォロワーだし!」
「そうだったのか」

熱狂的フォロワーというわけではないのだが、ギャングオルカのことは好きだった。
水系のデコ映えそう。超音波とかキラメかせたいといった私欲が目立つが、それでも素敵なヒーローには変わりない。むしろ今回会えたことで、子ども好きな面が見れて大分無理して鬼指導してるんだなぁと思うと可愛かった。いいギャップだよね。

当初の目的が終わったところで、爆豪たちと一緒に雄英に戻るはずなのだが、きららはエンデヴァーに呼び出されていた。
けれどどこで話す等約束をしていなかったため、まぁ、轟のところに行けばおのずと会えるだろうと合流すると、やはりそこにエンデヴァーはいた。


「小娘……」
「おとーさまさっきぶり〜!」
「貴様にお義父様と呼ばれる謂われは――」
「あるだろ。俺はきららと遊びで付き合ったりなんかしてねぇ」
「しょ、焦凍ォオオオ!!?」
「え……ちょまって、マジかぁ……!」

まさかの告白にきららは顔に熱が集まるのを感じた。自分だって結婚したいくらい好きとは言っているが、轟がちゃんと将来も含めて考えてくれていたのを実感して、嬉しいやら恥ずかしいやら、いっぱいいっぱいだった。
そういえば付き合うのは一回でいい、別れないって言ってたな。そういう意味かぁと合点がいった。

爆豪は突然始まった嫁舅問題(仮)に勘弁しろやと思う。
ついさっき別れた士傑の奴らが羨ましい。俺を巻き込むんじゃねぇ。意外と巻き込まれ体質である。


「だが、焦凍。この小娘におまえを支えられる技量があるとは……」
「技量ならある。きららは俺の世界を広げて、輝かせてくれた人だ。俺が今日、子どもたちを笑顔に出来たのも……きららが俺に魔法をかけてくれたからだ」
「何……?」
「いやぁ、彼ぴそれはいーすぎだよ。あれは彼ぴが頑張ったからで、あたしはあくまでその手伝いをしただけ。みんながキラキラできるような使い方をしてくれてありがとうね。あたしも……彼ぴに夢を叶えてもらってる」
「俺だって……おまえが俺をなりたいヒーローに近づけてくれてんだ。おまえには感謝してもしたりねぇ」
「……どういうことだ」

エンデヴァーが怪訝な表情を浮かべた。てっきり息子に近づくどこの馬の骨ともわからぬ不埒な小娘だと思っていたのだが、少し違うらしい。
轟はキッとエンデヴァーをにらみつけるように口を開いた。


「俺はずっと左側を憎んできた。お母さんを苦しめたおまえと同じ左側を……この個性を……俺はいいものだって思えたことがなかった」
「……」
「でも、きららが変えてくれたんだ。俺の個性を世界で一番キラキラしてるって言ってくれて、人を喜ばせることができるように輝かせてくれた。きららが俺に魔法をかけてくれたんだ。俺はそこで初めて……この個性に生まれてよかったと思えた」
「彼ぴ……」
「俺がなりてぇのは、俺が来てみんなが安心できるようなヒーローで。そんな俺は、きららにいつも救われてる。おまえが俺から俺の希望きららを取り上げようっていうなら、俺は頑として抵抗する。それこそ俺は……一生おまえを憎み続けることになる」

轟がそんな風にきららのことを思っていたとは思わなかった。そんな風に言われたら、それまでの溺愛にもなるほどと頷けるものがあった。きららの何気ない一言が、きららの夢が、轟の希望と夢に繋がっていた。
強い意志の瞳。絶対に譲らないという意志を反映したその瞳に、エンデヴァーは「そうか」と頷いた。


「ただの小娘ではないようだな」
「その小娘っていうのやめろ。俺の大切な人だ。そんな風に言われる筋合いはねぇ」

エンデヴァーは何かを考えている様子だったが、轟はきららをあくまで小娘呼びするのが許せなかった。
けれどエンデヴァーの気持ちもわかる。手塩に掛けた愛息子であるし、変な女に誑かされているのではと心配もしているのだろう。きららもちゃんとしたお嬢さんというわけではないし、普通に一般家庭の……というかわりとゆるっとした家庭で育っている。おまけにどこからどう見てもギャルであるし、そりゃまぁ心配するわなときららは意外と冷静だった。


「まあまあ、おとーさまもそりゃぽっと出の女に愛息子とられちゃ複雑だよね〜!」
「きらら……」
「そ・こ・で! 提案があるんですけど……あたしの作ったサポートアイテム試してくれません?」
「サポートアイテムだと? ……そうか、確かおまえはサポート科だったな」
「お。あたしのことも一応覚えてくれてた感じ? マジ光栄」
「だが俺はプロヒーローだ。学生が作ったものなどたかが知れている」
「いや、エンデヴァー。飾少女の実力は本物だ。すでに企業と連携して試験運用に踏み切っている。今日ここに来てるのも、ギャングオルカに試してもらうためだった」
「なに……?」

オールマイトの事情説明にエンデヴァーは僅かに驚いた。
そして体育祭でのことを振り返ると、なるほどなと合点がいった。まだ発明品は粗削りなところがあったが、その個性の有用性には唸るものがあった。企業が提供するサポートアイテムと組み合わせれば、確かに優れたものを生み出す可能性がでてくる。


「確かにあたしはまだ未熟で、技術者としてもヒヨっ子ですけど……プルスウルトラ、更に向こうへ。それはなにもヒーロー科だけじゃないし……あたしを知ってもらうにはやっぱりこれが一番だし。おとーさまが認めざるを得ないくらいすごいの提供するんで、何卒……!」
「……認めなかったらどうする気だ」
「認めてもらうまで挑む一択!」
「……なかなか肝が据わっているな」
「あざまるーー!」

呆れてなんだこの茶番はと思いながらみていた爆豪は、いや今のは図々しいの間違いだろと心中で吐き捨てた。さっさと帰りたいのに修羅場りやがって。
それで結局エンデヴァーも納得したのか「こちらから試験協力を申し出ておく」と言ってくれた。

轟達が個性で間瀬垣小学校の児童たちの心を掌握したように、今度はきららがしっかり自分と言う人間を見せる番であった。
これは愛の試練である。きららはこの愛を勝ち取るため、己の全てを注がんと燃えるのだった。


 


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