「きらら、あいつのことなら気にしなくていいんだぞ」
「そーもいかないっしょー。事情はどうあれ、彼ぴのおとーさまなんだから」
「……あんな奴に認められなくたって、お母さんも姉さんたちもきららのこと喜んでくれてる」
「んー、ご機嫌ななめだね?」
「……きららが頑張ってるのは応援してやりてぇけど、クソ親父に認められるために頑張るきららは見たくねぇ。なんであんな奴のためにきららが頑張んねぇといけねぇんだ……」

エンデヴァー事務所から正式に試験運用の参加が伝えられ、きららはそれに向けて寝る間も惜しんで作業していた。それを間近で見ていた轟はとても機嫌が悪かった。
わりとお口が悪い。本当に父親のことが大嫌いである。きららは苦笑すると手を伸ばして轟の頭を撫でた。


「大前提が違うかなぁ……」
「何がだ?」
「あたしはおとーさまのために頑張ってるんじゃなくて……これはね、あたしのためなんだよ」
「……どんなクライアントの無茶振りにも応えるのが一流だからか?」
「んー、それもあるけど、それよりずっと大事なこと。大好きな彼ぴと一緒にいることを、おとーさまにも認めてもらいたいの」
「そんなん認められなくたって……あいつは関係ないだろ」
「あるよ。だっておとーさまはしょーとのパパなんだもん」
「…………そう、かもしれねぇ……けど」

いやなことを言ってると思う。自分の父親って認めたくもないだろう。でも実際にエンデヴァーは轟の父親で、それはどうあっても変わらないのだ。
きららは慰めるように頭を撫でて、それからまた言葉を続けた。


「彼ぴもさ、あたしの家族にきららはやらん! とか言われたら諦める?」
「諦めるわけねぇだろ。許してもらえるように何度だってお願いするに決まってる」
「うん、あたしもだよ。好きぴの家族には……認めてもらいたいし、祝福してほしいって思うよね」
「……あいつも、同じなのか……でも、あいつは……」
「……家族にもいろんなカタチあるし……彼ぴのとこは複雑だけどさ……おとーさま、あれはあれで彼ぴのこと大好きなのは間違いないよ」
「……俺は好きじゃねぇ」
「そーだとしても。大事な愛息子だもんね。あたしもおとーさまに負けないくらい彼ぴのこと大好きだから……ちゃんと認めてほしーんだ。おとーさまの愛息子を、おとーさまがあたしに任せてやってもいいって思えるくらい頑張りたいの。それにおとーさまはニューNO.1だしね。皆が笑顔になれるように、魔法かけたいじゃん?」
「…………きららはずりぃ。そんな風に言われたら……何も言えねぇだろ」

不貞腐れたように説得を諦めた轟は、すっかりしょげてしまっていた。
きららの家族を持ち出されてしまったらどうしようもない。もし自分がきららと逆の立場でも同じことをしたというのが理解できてしまったから。


「あーうんうん、ごめりん。許して?」
「……めっかわだから許すしかねぇ……」
「らぶ〜!」

ちゅっと今後はキスをした。それで轟の機嫌が直ったわけではなかったが、乗り気にはなったようでしばらくじゃれ合うようにキスをしていると、轟の機嫌もいくらか回復した。
最近はそれだけじゃ物足りなくなってきているのをなんとなくお互いが感じていた。多分何かのきっかけがあれば関係を一つ進めるだろう。それを後ろめたくも思いたくもないから、きららは一層気合を入れて試験に挑むのだった。







そして試験運用の日がやって来る。
パワーローダーに付き添われやってきたエンデヴァー事務所。そこはNO.1の事務所というだけあって大変活気づいていた。
エンデヴァーに待っていたぞとばかりに案内され、さっそく試験運用の運びとなる。出てきたサポートアイテムにエンデヴァーは目を見開いた。


「……小娘、なんだこれは」
「ん? きららがキラッとデコったあげみざわ的アイテムですけど?」
「……随分ゴテゴテしている上に、何よりこのデザインだ……チャラチャラしすぎだ」

とりあえず装着してくれたエンデヴァーだったが、その表情は険しかった。
エンデヴァーはさっとそれを外すと、短く告げた。


「非常に実用性に欠ける。これでは戦闘、救助、あらゆる面で不都合が生じる。そしてこのデザイン……NO.1ヒーローが使うものとは思えんな」
「えー、おとーさまプンプンとかさげぽよ〜。これ彼ぴとおそろっちなのにな〜」
「焦凍が……?」
「そそ。それにNO.1ヒーローだからこそだよ。俺がここにいるぞ!! ってすんごいキラキラしてもらわないと!」

よくよく見てみれば、それは確かに轟のものと似ていた。まったく同じではないためわかりにくかったが、確かに類似点が多いデザインだった。
正直、全く揺れなかったわけではないが、お揃いなどというもので絆されるわけもなかった。


「……だが、実用性に欠けるという点はどうするつもりだ。このゴテゴテした表面は非常に使いにくい」
「それは外しにくくしてるだけだし。それにほら……これ武器にもなるし」
「武器に……?」
「ちょっと貸してね。これをこうして――いたっ!」
「バカ! こんなところでやろうとしない!」
「パワロダせんせ容赦ない〜!」
「おまえがこんなところで爆発させようとするからでしょ!」
「爆発……?」
「いたた……んーとこれ、おとーさまの熱に反応するの。爆ぴの籠手から着想得たんだけど……おとーさまの熱をここに貯めてくれて、ここにあるデコをちょちょいと弄ると爆弾になる。普段はこの手順を踏まなきゃ絶対爆発しないようにしてるから、ちょっとゴテゴテする分は見逃してもらえると……暴発って怖いし」
「……なるほどな」

爆豪の要望に応えるために籠手を弄り回していたのがここに活きた。そのときのノウハウをつぎ込んだ作品である。けれどエンデヴァーは救助も敵退治もなにもかも一人でやり遂げてしまう。だから救助中に暴発するなんてことがないように手順を踏ませる必要があり、その分いささかゴテゴテとした触り心地になってしまったのだった。
エンデヴァーもそれに納得すると、ひとまず保留にすることを決めた。


「……小娘」
「はーい」
「正直、おまえのようなチャラチャラした娘に焦凍を任せられるとは思えん」
「お、おう」
「だが……焦凍にとって、おまえが大事な存在だというのも理解している」
「……お?」
「おまえを見定めるにはもっと時間が必要だ。それまでは……焦凍の傍に置くことを許してやろう」
「お……お許しが出た!?」
「勘違いするな。おまえが焦凍に相応しくないと判断すれば……俺はおまえを焦凍から引き離すつもりだ。たとえそれで焦凍から一生恨まれることになろうとも」

それはエンデヴァーなりの父の愛だった。本当に轟のことを大事に思っている。愛している。
それはちゃんときららに伝わっていた。きららはそれに笑って答える。


「いーよいーよ。そうならないようにすればいいだけだし!」
「……おまえは……いや、そうだな。精々そうならないように努力しろ」
「はーい! そんでいつかおとーさまにも認めてもらうからだいじょーぶ!」
「そうか」

とりあえず及第点だとピースをするきららにパワーローダーは呆れた。おまえほんと命知らずだね。
試験運用の結果は後日送ってくれるとのことで、今回は解散の運びとなる。けれどもう昼である。せっかくだから食堂で何か食べていくといいとエンデヴァーの厚意でご馳走になることになった。
何を食べようかとわくわくしながらバーニンに案内されるきららの後姿を眺めながら、エンデヴァーはパワーローダーに尋ねた。


「あの娘は……パワーローダーから見てどういった人間で?」
「……型破りなやつですよ。サポート科には発明狂が二人います。そろって1年H組。競うように発明を繰り返し、共に切磋琢磨し合う。その片割れです」
「……ふむ」
「飾はヒーローになる才能に恵まれた子でした。きっとヒーロー科でもうまくやっていたでしょう。でもあの子は、たった一つの野望のためにすべてを捧げて生きてるんです」
「野望とは……?」
「世界を自分がキラッとデコったあげみざわなアイテムでキラキラにして、テンアゲする。そんなふざけた野望です」

言葉とは裏腹にパワーローダーは酷く楽し気だった。まるでそうなることを確信しているように、楽しみで仕方がないように。
エンデヴァーもまた、講習の時のことを思い出していた。


『そーかなぁ? なんでも使い方次第っしょ。少なくともあたしは魔法かけれると思うけどなー』
「でも、きららが変えてくれたんだ。俺の個性を世界で一番キラキラしてるって言ってくれて、人を喜ばせることができるように輝かせてくれた。きららが俺に魔法をかけてくれたんだ。俺はそこで初めて……この個性に生まれてよかったと思えた」


それはきっと魔法だ。世界を広げて人々に希望を与える、そんな魔法。
実際に轟はその魔法で救われている。そしてそれは間瀬垣小学校の児童たちにも希望として繋がれた。エンデヴァーは受け取ったアイテムに視線を向ける。


「魔法、か……」

自分もそう在れるだろうか。
オールマイトのような平和の象徴にはなれずとも、皆の希望の架け橋であれたらいいと、そう思った。


 


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