エンデヴァーにとりあえずは轟との付き合いに目をつぶってもらってからというものの、きららはわりと頻繁にエンデヴァー宛てに発明品を送り付けていた。日々成長しているのを見てほしかったのだ。
意外とエンデヴァーもこれには寛容で、短くだが改善点や良かった点を教えてくれた。轟家のことは色々複雑だが、ヒーローエンデヴァーという存在はそんなに悪い人ではなさそうだった。

だが毎回文末には「何度も言うようだがおまえの言葉は独特すぎる。分かるように書いてくれ」とお決まりの文言で締めくくられている。それに対し「ごめりんおとーさま。これがきららだから寛大な懐で受け入れてほしす」と次の文頭が始まるのもお決まりの展開であった。
果たしてどちらが折れるのが先だろうか。それもまた一つの賭けとして、エンデヴァー事務所ではすっかり親しまれていた。







「きらら、こちらにいまして?」
「お。美々パイセーン! どったのー?」
「あなたは相変わらず敬語が使えませんね。でもいいでしょう。それもまたあなたの個性。貫いていきなさい」
「あざまる!」

いつものごとく工房に籠っていたきららを探していたのは、サポート科3年の絢爛崎美々美である。
ものすごく長い睫毛が特徴的で、豪華絢爛といった言葉が似合うお人である。美に重きを置く絢爛崎は、体育祭できららを一目見た時から非常に目をかけており、とても可愛がってくれている。とても面倒見のいい先輩である。


「意外だな。絢爛崎は礼儀にうるさいと思ってたけど……」
「パワーローダー先生。確かに礼儀作法は自身を美しく見せるためにも必要な事です。けれど、きららのこれはむしろ長所でしょう。相手の懐に入るのがとても上手なのです。著名な技術者の中にはその人間性に強い個性がある場合も多くあります。私は将来、この子たちがサポートアイテム界を牽引していくのだと確信しているのですよ」
「美々パイセン……!」
「それは光栄ですね!」
「まぁ、トップは私でしょうが……!!」

高笑いする絢爛崎につられて、きららもくすりと笑った。
絢爛崎も強烈な個性の持ち主である。例にもれず、発明狂の片割れである発目もそうであるし、パワーローダーもすごい技術者になるだろというのには賛同するしかなかった。


「それで美々パイセン。あたしに用事あったんじゃ?」
「ええ、そうです! きらら、あなたこれに出てみませんこと?」
「ん? ……ミスコン? へー、雄英にもあんだ。そういうやつ」
「これは美の祭典。美しさがなんたるか、あなたはよく理解しています。このミスコンの覇者たる絢爛崎美々美があなたを推薦いたしましょう」
「おお……それはマジ光栄! 美々パイセンのゴージャス感はいつも勉強になるし! そんなパイセンに推薦してもらえるとか、出るっきゃなくない!?」
「それでこそ私の後継を担うに相応しい人材でしてよ! そうと決まればさっそくエントリーを……」
「おけまる! バイブスアゲてくし!」

それはそれとして技術展示会も控えている。文化祭こそサポート科の晴れ舞台。とてつもなく忙しくなるであろうが、それさえもきららは楽しみでならなかった。







「へー、彼ぴたちはライブするんだ?」
「ああ、そういうおまえは技術展示会だったな」
「そー、サポート科は一律でこれ。これから毎年やるんだよ〜!」
「大変そうだな。何作るか決まったのか?」
「それはもう! どうせならさ、見てる人が楽しくなるようなものがいーよね。だいぶ前から考えてたんだぁ」
「そうか。俺に協力できることがあれば何でも言ってくれ」
「じゃあ、完成したら彼ぴに一番最初に見せるね。感想きかせてちょ」
「おけまる」

その後も技術展示会に向けてきららは真剣に作業していた。轟もライブ演出の打ち合わせや、文化祭に打ち込んでいつもより散らかっているきららの部屋を片付けたり、ほっとくと食事を忘れるきららの世話を焼いたりと忙しくしていた。

忙しいと月日はあっという間に過ぎていくものである。
そして文化祭は準備しているときが何だかんだ一番楽しかったりする。そう、ほっとくと熱中しすぎていつの間にか時間が経っているのだ。


「あきら〜ん! お風呂いこ〜!」
「後にしてください!」
「そういってもう二日入ってないっしょ〜? さすがにヤバいって。美々パイセン激おこにいっぴょ〜!」
「時間がもったいないんです!」
「そ〜れは同意しかねるぞ。ほーら。あきらん行くよ。お風呂入りながら議論すれば無駄じゃないっしょ〜?」
「……ふむ、一理ありますね! わかりました!」

きららとて、時間を忘れて食事を抜きがちではあるが、轟のおかげでなんとかなっていた。
そしてきらら以上に発目はやばかった。食事はもちろん、お風呂に入る時間さえ惜しいと数日おきにしか入らないのだ。一日は目をつぶれても、二日三日となってくると見過ごせない。臭いももすごいしね。


「でさ〜? きらら的にはもっとこう、バーンッと決めたいのね?」
「ふむふむ、それでしたら回転数をもっと上げて……」
「やっぱそーよなぁ……でもそれだと熱暴走が心配なんだよね」
「確かに爆発しそうですね! じゃあ思い切って上下で配線を変えてみたらどうです?」
「めっちゃ思い切ったな? いやまてよ……構造は複雑化されるけど、理には適ってんね? やってみるかぁ」
「とりあえずやってみたらいいんです。失敗は成功の母ですし!」
「それな! あきらんあざまる〜! これで思い切ってやってみるわ!」
「その意気です!」

お風呂とは心の洗濯。お風呂に入れば、今まで思いもしなかったものがぱっと閃くこともある。
発目も現在躓いているところを教えてくれ、あーでもない、こーでもない、と意見を出し合いながら突破口を共に切り拓いていった。

入浴時間が重なったクラスメイトたちは「また話してる……」「ちょっと何言ってるかわかんないな……」「同じサポート科だけど、やっぱあの二人は別格だよねぇ」と苦笑するのだった。


 


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