文化祭が目前に迫っていた。きららは無事にミスコンの準備も技術展示会で展示する作品も完成させ、轟に見てもらおうと引っ張ってきた。
聞けばA組のライブの方ももう完成しているらしい。当日が楽しみであった。


「じゃーん! これがきららの最高傑作!」
「? 随分……ちっさくねぇか?」

掛けてあった布を外して出てきたのはプロジェクターだった。キラキラにデコってあるが、なんというか……最高傑作という割にあまりインパクトのある品ではなかった。
他のサポート科の生徒がデカいロボのようなものを作っていたのもあり、少し驚いた。


「あーこれね、後ろに機材が繋がってるの。だからこれだけってわけじゃないんだけど……まぁ、主役はこれ」
「何か映像が流れんのか?」
「おしい。これはもっとすごみ! なにせ虹を歩けちゃうし!」
「虹を……歩く……?」
「実際に経験したらわかるって! 彼ぴここに立ってて!」
「? わかった」

きららが機材を起動し、何やら操作すると虹が出てきた。けれどあくまでも映像である。渡るってどういうことだ、と思っていると、更にきららが後ろの機材を弄りだす。するとみるみるうちに虹が固まりだし、それは見事に橋に姿を変えた。


「これでよしっと! 彼ぴ、渡ってみて〜! 意外と頑丈だから大丈夫〜!」
「……おう」

片足をかけてみると、確かに大丈夫だった。ゆっくり歩いていくが特に危険は感じない。それどころか……わくわくした。虹の橋に、円を描くように虹が続いている。キラキラと輝くそれは間違いなくきららの個性によるもので、虹は虹でも本物よりずっと輝いているように感じた。
多分、多くの人間が一度は子どもの頃に夢見たんじゃないだろうか。虹の橋を歩きたい、潜りたいという夢。
轟はそれにI・エキスポでの体験を思い出した。

――なぁ、きらら……もしかしておまえは、あの時から考えてたのか?


「どーだった!? 本番はね、これ外でやるの! もっと他にも演出して、夢の空間にするんだ!」
「ああ……すげぇ良いと思う。きっとたくさんの人たちが楽しい気持ちになる」
「彼ぴも楽しかった?」
「楽しかった。なぁ、きらら……これってI・エキスポのときの――」
「そう!! そうなの!! あたしあれほんと感激して、ずっとああできたらいいなって! じゃあもうやるっきゃないじゃん!? 虹歩くとか絶対あげみざわだし、めたんこがんばったの〜!!」
「本当に作っちまったんだもんな。すげぇよ、おまえは本当に……すごい奴だ」
「彼ぴ激褒めでうれぴよ〜! よいちょまる〜!」

I・エキスポで虹を潜ったときも、きららは真剣に分析していた。本当にあれからずっと考えていたんだろう。虹を歩くにはどうしたらいいのか。潜るだけじゃなくて、渡れるように。
あの時はまだまだヒヨッ子だと笑っていたけれど、轟はそうだとは思えなかった。きららは恐るべきスピードで成長を遂げている。未来を背負って立つ技術者なんだと思わずにいられない。

――俺も負けてらんねぇな。

自分の彼女がこうも頑張っているのだ。うかうかしていたら置いて行かれてしまう。
世界をきららの作った発明品でキラキラに輝かせる。人々を笑顔にする優しい魔法使い。


「おまえって……なんか、虹みてぇだな」
「え?」
「輝く未来へと繋ぐ架け橋。希望の象徴。おまえがいてくれるから、俺は――」
「え、ええっ」

真面目な顔をしてそんなことを言うものだから、きららは照れてしまった。本当に情熱的だ。感情線はやはり嘘をつかなかった。
朝早く、自分たちだけの空間。二人だけの世界。愛を何より雄弁に語るその色違いの瞳。自然と唇が重なるのは……なにもおかしなことではなかった。

少しずつ進んでいく。多分、この先に行くのは……そんなに遠くない。







「あ! エリエリー! とーかたパイセンも!」
「やぁ飾さん。随分賑わってるみたいだね!」
「こ、こんにちは」
「こんにちはー! 彼ぴ経由でおくっといた券、持ってますん?」
「ああ、これだね。大事に持ってきてるよ」
「よかったー! エリエリには絶対体験させてあげたいなって思ってたんで、それないとスンって感じでしたん」
「ハハッ、責任重大なんだよね。無くさないか冷や冷やだったよ」

文化祭当日、それはそれは賑わっていた。文化祭の主役と言っても過言ではないサポート科の技術展示会は大盛況で、中でもきららの虹の橋プチツアーは大人気、一時間待ちであった。
混雑することは予想済みだったため、予め優先券を作っておいたのだ。エリちゃんのためにというズルではあるが……ちょっとした贔屓は許してほしい。その代わり、試験運用でお世話になっているヒーロー事務所にも配っておいたので、株主優待券的なものとカウントしてもらえるだろう。


「エリエリ、ちょっとびっくりするかもしれないけど落ちたりしないからだいじょーぶ! とーかたパイセンと一緒に虹を歩いといで!」
「虹を……歩く……?」
「不思議だよね。一緒にどういう感じなのか見てみよう!」
「……うん」

通形に手を引かれてエリちゃんは一歩を踏み出した。すると広がっていくキラキラした世界に大きく口を開けた。
A組のライブを経て笑顔を取り戻したエリちゃんは、それはもう満点の笑顔を見せてくれた。
まるで雲の上を歩いているようだった。キラキラと輝く虹のアーチが夢の世界へ導いてくれているように感じた。駆け巡るペガサスが、小鳥の歌う声が、天使がラッパを吹く音が、それらすべてが夢みたいに綺麗だった。


「おかえり〜! どーだった?」
「あのね、あのね……すっごく、きれいだった……! 鳥さんも、天使さんも、お馬さんもいてね。クルクルーって回って、びっくりして。でもキラキラしてて、私……夢を見てるかと思った! わああって、なったの!」
「そ、そっか〜! よかったぁ〜!」

思わずぎゅうっとエリちゃんを抱きしめる。喜んでくれて本当によかった。こんなにお顔がキラキラしてる。どうかそのまま幸せになってくれと願わずにはいられなかった。子どもが好きなのだ。それにエリちゃんである。辛い境遇にあったのは聞き及んでいるし、何かしら力になりたかったのだ。

涙ぐみながらエリちゃんを抱きしめているきららに、通形がハハッと笑って言った。


「それはそうと……飾さん」
「な〜に〜」
「そろそろミスコン始まるけど、いいの?」
「……あ」


 


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