あれからきららはガチで急いだ。技術展示会も大事であったため時間が許す限りあちらにいたのだが、きららにはミスコンだってあるのだ。
正直舐めてた。技術展示会とミスコンの二足の草鞋とか屍になるところだった。実際轟が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれなければゾンビになっていただろう。ミスコンに出るっていうのにそれじゃああんまりだ。
見事に3年間両立してみせた絢爛崎には尊敬の念を禁じ得ない。しかも2年連続でグランプリを受賞している。美の女神すぎんか。もう一生ついて行くしかない。


「きらら! もうすぐ出番ですよ。どこに行ってらしたの」
「ちょっと技術展示会の方に……! すぐ支度しまぁ!」
「熱心なことはいいことです。でもあなたは少しマイペースなところがありますから、そこは気をつけるように。納期は厳守なさい」
「いえっさー!」
「さ、私が手伝って差し上げます。ドレスはこちらで間違いなくて?」
「マジっすか! 美々パイセン神〜! それで間違いなっしんぐ!」
「では手早く整えますよ」

本当に絢爛崎は面倒見がいい。ちょっと前には泥棒騒ぎと発目のリモコンが行方不明になり、その時でも時間がない中後輩のために尽力してくれたのだ。マジで一生ついて行くしかない。
絢爛崎の手を借りて、いつもより心なしか煌びやかになった印象を受ける。あっれ、美々パイセンの個性ってあたしと似た感じだったか? などと思ったが、そんなことはなかった。


「さぁ、胸を張って挑むのです。この絢爛崎美々美の秘蔵っ子……飾きららの美しさを存分にアピールなさい!!」
「おけまる! バイブスアゲーー!!」

そうしてきららは会場へと進み出た。――キラキラにデコられた、ペガサスに乗って。


『おーっとこれは!! すごい! すごいぞ!! 1年サポート科飾!! 天を駆ける美しいペガサスを乗りこなし、ものすごくキラメいている!! すごい! キラメキすぎてよく見えない!!』
「マジあげみざわ〜!!」
「オホホホホホホホ! それでこそ私の後継に相応しくてよ!!」
「へ、へぇ……? 彼氏持ちだからって油断したか……なかなかやるじゃないか……」
「なぁ、これミスコンであってるよな?」
「そのはずだけど……」

もはや何の出し物かわからない。きららも絢爛崎も満足そうであるが、これはミスコンとして正しいのだろうか。けれど意外と受けている。ミスコンとは何だったか。

その後に続いた絢爛崎も似たようなもので、きららがキラキラとキラメかせるのを重視しているとしたら、絢爛崎はより派手に、より物理的インパクトを持たせていた。
絢爛崎の後継というだけあって方向性は同じである。すっかりきららは絢爛崎の後継、絢爛崎二号として定着するのであった。きらら的には光栄なことである。

ミスコン出場者のアピールが全て終わると、投票の結果発表の5時まで自由時間となった。文化祭のシメに発表されるのだ。
控室に戻って着替えようとすると、スマホにメッセージが届いていた。轟からである。「話がある。裏口で待ってる」とだけ送られてきたそれに「およ?」と思いつつ、さっさと着替えて合流するのだった。







「彼ぴ〜! お待たせ!」
「……」
「彼ぴ? どうしたの? なんかご機嫌ななめじゃない?」

待っていた轟に駆け寄るも、轟の雰囲気がおかしかった。
いつもはきららの姿を見るとご機嫌だし、何か言葉をかけてくれる。でも今はむすっとしているし、間違いなく……機嫌が悪い。


「どーしたの? なんか嫌なことあった?」
「……あった」
「なにが嫌だったかきららにおせーて?」
「ん……ミスコン……出るって俺、知らなかったんだが……」
「……え」

きららはそこで初めて自身の言動を振り返る。そういえば……技術展示会のことばかりでミスコンのことは……話して……ない、な。うん、話してない!!
血の気が引いた思いだった。話した気になっていたというか、轟を前にすると技術展示会のことばかりが頭に浮かんで、ミスコンが頭からすっぽ抜けていたのだった。


「……あああっ! マジだ! 言ってないね!? ごめりーん! 展示会どーしても彼ぴに見てほしくて、そっちばっか頭にあった! わーごめりーん! やだったねぇ〜!」

これは怒る。きららももしミスターコンテストみたいなのがあって、轟が自分に内緒で出てたらと思うと複雑である。
ごめんねごめんねと轟をぎゅうぎゅう抱きしめた。轟もぎゅっときららを抱きしめると、すりっと頭を寄せてくる。


「……わりぃ、俺……きららが意図的に隠してたんじゃないかって、疑っちまった……」
「ええ、なんでぇ」
「俺に反対されると思って、隠したんじゃねぇかって……信用ないのかって思ったら、嫌な態度取っちまった……ごめんな」
「そんなん全然だし〜! 100%きららが悪いよ〜! も〜ほんとごめん! きららポンコツだった〜!!」
「疑ってごめんな。仲直りしよう」
「する〜!!」

正直喧嘩にもならなかったが、仲直りというのは大事である。
轟も轟で、展示会をどうしても見てほしくて、それで頭がいっぱいになっていたというきららに、自分との思い出を大事にしてくれていたんだなと、改めて気持ちを実感していた。
だいぶ大事なことを知らせるのを忘れられていたが、轟としてはもうそんなことはどうでもよかった。つまりどうあがいてもらぶぽよってことである。仲が大変よろしい。


「なぁ、きらら。今日俺の部屋来てくれるか? 泊まってほしい」
「いーけど……なんでそんな改まって……」
「……もっとおまえと仲良くなりたいって言ったら……わかるか?」
「! わ、わかる〜!」

それはつまり、そういうお誘いであった。
表情の乏しい轟の顔も、少し緊張しているのがわかる。きららもドキドキとうるさい心臓に人のことは言えなかった。


「……まだ早いって思うか……?」
「ううん、早くないよ。あたしも……もっと仲良くしたい」

一歩、踏み込んだ関係に。むしろなんだか遅い気さえした。それくらい好きだった。


――この日の夜、二人は一線を超える。それはとっても幸せな時間であった。


余談だがミスコンは本来の持ち味を活かした波動の優勝で、きららは絢爛崎に続いて3位であった。展示会の虹の架け橋で参加者の心を掴んだのと、キラキラなペガサスというのが子ども受けがよかったらしい。支持層が偏っていた。これをミスコンの戦果と言えるのかはわからないが、それでも……自分の発明品で多くの人々を笑顔にできるというものは、やっぱり嬉しいものであった。


 


戻る
top