それはビルボードチャート発表からそんなに日が経っていないときのこと。
その日九州で、大事件が起きた。


「え……大変彼ぴ! おとーさまが!」

エンデヴァー宛てにまたデコっていたきららは、よりエンデヴァーに合うように最近のデータを見返していた。すると速報が入り、九州で脳無が暴れ、エンデヴァーが戦っているとの一報が入った。
エンデヴァーは強い。NO.1ヒーローである。20歳の頃からずっとNO.2ヒーローとしてオールマイトの二番手にいた男だ。けれど、今回の脳無は今までの脳無と違い、強大な力を持っていた。NO.2に繰り上がったホークスとのチームアップでさえ、決め手に欠けているようだった。


「とりあえず、下に降りよう……テレビのがちゃんと見えるから」
「ああ」

轟も些か信じられないような顔をしていた。
父親としてどうであれ、ヒーローとしてのエンデヴァーに対しての信頼はある。そう簡単に負けるはずはないと思いつつも、胸騒ぎがした。
きららは轟の手をしっかり引きながら大きなテレビのある共有スペースへ向かった。







「あ……」
「飾……! 轟も……!」
「轟くん……!」

丁度共有スペースのテレビも同じものが流れていた。そして轟ときららが真っ先に目に入ったのは、脳無に顔の左側を抉られ、倒れるエンデヴァーの姿だった。
ぎゅっと、繋いだ手に力が入った。轟がギリッと歯を食いしばった。

でも、それでも、エンデヴァーは立ち上がった。紅炎は燃えている。エンデヴァーは勝つことも、救けることも諦めてなかった。
けれど、テレビはそうは思ってなかった。不安と恐怖で逃げ惑う人々の声が聞こえる。


『どけって!!』
『大丈夫です!! 落ちついて! 大丈夫ですから!』
『わあああああ!!』
『象徴の不在……これが象徴の不在……!!』
「パニックだ……! マズいぞ」
「轟さん……!」
「TVつけたら……エンデヴァーが!」
「轟……もう見てたか……!」
「せんせー!」

相澤も慌ててやってきた。テレビからは恐怖に侵された悲鳴が聞こえてくる。平和の象徴がいなくなった社会の在り様を如実に訴えてくる。
それになんだか、ものすごくムカっときた。


「ふざけ……」
「ちょっと聞き捨てなんない! まだ終わってないんですけど!? おとーさままだ戦ってっし!!」
「飾……!?」
「お、おお……」
「見てみてほらちょー見て!! あれ!! まだあんなにキラキラしてる……!!」

きららがずんずん前に進み出て、指さしたそれはキラキラと輝いた紅炎が映し出されていた。まだ戦ってる。終わってない。NO.1ヒーローがそこにいる。誇り高き紅炎は費えてなどいない。絶望するには早すぎる。

それに気づいたのはきららたちだけではなかった。
テレビの向こう側、九州でもエンデヴァーを「見て」くれていた子がちゃんといたのだ。


『あれ見ろや! まだ炎が上がっとるやろが、見えとるやろが!! エンデヴァー生きて戦っとるやろが!! おらん象徴もんの尾っぽ引いて勝手に絶望すんなや! 今、俺らのために体張っとる男は誰や!! 見ろや!!』
「よく言ったぁあああ!!!」

べしべしと轟の背中を叩く。びくともしなかった、鍛え方が全然違う。
エンデヴァーはちっとも諦めてなんかない。紅炎は煌めいていた。轟と似たそれは、エンデヴァーだけの輝きを放って誇り高くそこにある。
そして――テレビ越しに世界が……眩く煌めいた。


「あれは……きららの――」
「……おとーさま……あれ持って……!」

それは試験運用の際にダメ出ししつつも、受け取ってくれたアイテムだった。
エンデヴァーの熱を蓄積し、その熱量に応じて爆発を起こすアイテム。獣の様相で喰らいつく脳無をその爆発で上空へと押し上げる。まるでそれは花火だった。煌めく紅炎が美しく輝いている。
人々にとってその輝きは、正しく希望に映った。


『――世界が、これほど輝いたことがあったでしょうか。エンデヴァーの紅炎が煌めいています……!! 私たちのNO.1ヒーロー希望は……!! 戦っています……!!』
「――親父……っ」
『身をよじり……足掻きながら!!』
「見てるぞ!!!」

みんながエンデヴァーを見ていた。一瞬たりとも見逃すまいと息を飲む。
エンデヴァーは更に向こうへと踏み出したプロミネンスバーンを放ち、見事勝利してみせた。みんなに勝利のスタンディングを見せてくれた。


『立っています!! エンデヴァースタンディング!! 勝利の!! いえ!! 始まりの・・・・スタンディングですっ!!!』
「彼ぴ〜! やったよおとーさま! あげみざわの極み〜〜!!」

思いっ切り轟に抱き着いてわーわー騒ぐきららを抱きとめたまま、轟はへなへなと座り込んで息を吐いた。

その後、敵連合の荼毘が現れたのだが、テレビを見て文字通り跳んで来たミルコの乱入もあり、すぐに逃げてしまった。
九州で起きたこの事件は建物の被害こそ酷かったが、死傷者0で収束したのだった。


 


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