「大人気もなく、大変申し訳ないことをした。すまない」
「ええっ!? なになにおとーさま、深々お辞儀とか恐縮〜!あたしなんかされた覚えないよ!? なんのことかほんとよくわかんないけど、マジ気にしないで〜!」
「……せめてもの詫びの品だ。苦手なものでなければいいのだが……」
「あっ! それお高いお菓子じゃん……! 苦手どころかちょー好きなの〜!」
「ならば受け取ってくれ」
「謝罪とかはマジ激重で勘弁だけど……お菓子は遠慮なく! 彼ぴと一緒に食べるね。おとーさまあざまる〜!」

エンデヴァーは宣言通りすぐにきららと連絡をとり、それはそれは誠心誠意謝罪をした。正直きららは思い当たることなどなかった。
唯一小娘って言われたことくらいかなぁ、と思うが、それもすぐに呼ばれなくなった。何故エンデヴァーがこのような行動に出たのか皆目見当つかなかったが、お菓子に罪はない。
それにこのお菓子は見覚えがある。まだ轟と付き合う前のこと。サポートアイテムを調整する度にもらっていたお菓子だ。お姉さんに選んでもらったと轟は言っていたから、きっとエンデヴァーもそうだったのだろう。


「てかおとーさま、傷跡すごいね! めっちゃ勲章感ある!」
「そうか?」
「そーだよ! 男ぶりあがってよいちょまるじゃん!」
「その……よいちょまるとはなんだ」
「いい感じとか、ハッピー! ってこと!」
「そうなのか」
「よいちょまるといえば、おとーさまが戦ってるの見たよ! 最高にキラキラしてて、あげみざわの極みだった!!」
「あげみざわ……」
「めっちゃテンション上がったってこと! やっぱいーね炎! 彼ぴがきららの一番だけど、おとーさまのは二番目に好き!」

やっぱり理想個性1位は不動の轟である。デコの感じを微妙に変えているというのもあるけれど、やはり轟の左側とエンデヴァーの炎は同一ではない。輝きの種類が違うのだ。それでもどちらも素晴らしい。きららの個性が映えるとってもいい個性だった。


「……俺もおまえに救けられた。皆に俺が希望として映ったのは……おまえがくれた、あのゴテゴテしたアイテムのおかげだ。ありがとう」
「あれはあくまできっかけで、おとーさまががんばった結果だと思うけどな」
「いや、俺はそういう風に映る人間・・・・・・・・・・ではない。おまえがそう見えるようにしてくれたんだ」
「そーお? じゃあさ! これからもおとーさま、きららの野望の手助けして〜! ね、いいでしょ〜!」
「野望……世界をおまえが作ったアイテムでキラキラにする……だったか」
「あ、知ってるんだ? 知ってるなら話早いね! ――そのまま世界をどんどんキラキラさせていってよ! NO.1ヒーローおとーさま!」
「……ああ、おまえが魔法・・をかけてくれるなら。俺もそれに応えよう」
「あざまる〜〜!!」

NO.1ヒーローが協力してくれるなんて願ってもない話だ。世界が少しずつ、きららの望む形でキラキラ輝きだしている。なんだかとってもいい日だった。


「せっかくだし、おとーさまの連絡先教えてよ! 仲良くしよー!」
「む。俺のか?」
「ダメなの?」
「駄目ではないが……俺と話してもつまらんだろう」
「えー? 別につまんなくはないよ。親子だけあってちょっと彼ぴと似てるとこあるし」
「俺が……焦凍と……?」
「似てるよ〜。さっきのこれどういう意味だ〜ってのも、聞き方ちょーそっくりで笑うかと思ったもん。そうやって彼ぴもきららが何言ってるか分かるようになってるし、なんなら彼ぴも喋ってるし……おとーさまも慣れんじゃない?」
「俺は喋る予定はないんだが……」
「ふはっ、そーいうのは感じるものなんだよ。パッションってやつ! 気づいたら喋ってる、そーいうもの!」
「……奥が深いんだな」
「にゃはははっ! それ彼ぴも言ってたー! やばたんめたんこ似てる〜!」
「やばたん、めたんことはなんだ」
「それはね〜――」

きららは説明をしながら、きっとすぐに仲良くなるだろうなと思った。だってものすごく大好きな彼ぴに似ているので。これを言ったら、その彼ぴは絶対嫌がるので言わないけども。







「ええっ!? きららが嫁いびりされてたってぇ!? アハハハハ! 違う違う! 全然違うー!」
「……違うのか?」

もらったお菓子を広げてお茶をしていると、轟がそれはもう心配した顔で「いびってこなかったか?」と言ってきて、いびるとは……はて、と疑問が浮かんだところ、よくよく聞けば、轟はきららがエンデヴァーに嫁いびりをされていると思っていたらしい。爆笑した。


「え〜、なんでそー思ったの?」
「あいつ……おまえが作ったアイテムに滅茶苦茶言ってきてただろ」
「そう? わりと的確だったけどな。見る?」
「……見る」
「確かここにっと……あ、あった。はいこれ、おとーさまからの書類。機密的なやつはもう処理してるから見ても問題ないよ」
「…………あ、ああ」

轟はまずその書類の分厚さに言葉を失った。今までも試験運用に関しての書類は片付けのときにちらっと目に入ることはあったが、極力見ないようにしていた。そういうのはたぶん機密事項に当たると思ったからだ。
けれど、大体の枚数は把握している。明らかに多すぎるそれにすでに確信にも似たものがあったが、1%の可能性にかけ、読み進めた。

けれど、願いは虚しく……読めば読むほど轟の表情は険しくなり、ついには初期の頃のガンギマリ顔になってしまった。


「か、彼ぴ……?」
「〜〜〜〜っ!! これのどこが的確なんだ!!」
「うぉお……ムカ着火ファイアーじゃん!?」
「きらら! これに真面目に対応してきたのか!? だからあんなに疲れてたんだな……わりぃ、もっと踏み込めばよかった……可哀そうに、しんどかったろ……」
「え、ええ……!?」

そんな怒るような内容だっただろうかと思い、もう一度自分でも見返してみるが、きららとしては何の問題もないという結論にしか至れなかった。
たしかにとてもこだわりは強かった。でもそれは爆豪と青山で慣れているし、アイテム自体の改善点や要望にしても発目や絢爛崎と大変有意義な時間を過ごせた。
それに、エンデヴァーの着眼点はさすがNO.1ヒーローと思わずにはいられないほど鋭いものがあり、自分が文化祭の技術展示会とミスコンであのような大作を生み出せたのも、エンデヴァーの指摘のおかげである。もはや自分をプルスウルトラ、更に向こうへさせてくれたすばらしいクライアントでしかなかった。

だが轟にとってはそうでなかったらしい。「よくもこんなむりぽよサーカス言いやがったな」「納期むりむりのむりだろ。あんま寝てなかったもんな……つらたんだったな」「あんにゃろう……今度会ったらぶっ殺す」「その前にどちゃくそ怒っとくな。もうぜってぇこんな目には合わせたりしねぇ……」完全にガンギマリだった。
きららが「ええ、気にしてないよ。むしろめたんこためになったし……! 感謝してるくらい!」と身振り手振りを加えてアピールしても、それが一層轟の胸を締め付けたようで、それはそれは力強く抱きしめられ「愛してるぞ。本当にめっかわだ……!」と熱烈な告白を受けることになる。やはり轟は止まらなかった。

その日、エンデヴァーは珍しくかかってきた轟からの連絡に嬉しく思うも、最高にガチギレされ、既読どころか未読スルーの日々が続いたという。それはつまりブロックされているのでは。
責任を感じたきららが「おとーさまなんかごめりん」と送ると「俺が撒いた種だ。おまえのせいではない」と返ってきた。やっぱり何だかんだいい人そうなんだよなぁと、くっつき虫と化した轟に抱きしめられながらきららはぼんやりと思うのだった。


 


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