いよいよ本戦が始まった。第一試合は心操と緑谷。あのもじゃもじゃの髪の子ときららが騎馬戦で一緒に組んでいた男子だった。なんか心操の個性は洗脳だったっぽい。


「がってん。そりゃ記憶ないわけだわ」

理解理解完全に理解したとばかりにぽんっと手を叩く。
こりゃしんしんが勝つなと思ったのだが、突然緑谷の指が壊れ洗脳が解かれた。そしてそのまま緑谷が心操を投げ飛ばし場外にし、緑谷の進出が決まった。


「しんしんなかなか体格いいのにみどりんよく投げ飛ばしたね〜? ヒーロー科の身体能力やばたん」
「ええ、まともにやりやったら私たちひとたまりもありませんね!」
「それな〜、あたしらもやしだもん」

なにせ発明しかしていない。いかにサポートアイテムで補い、翻弄し、決定打を与えるかが重要であった。わりと真面目に立ち回りを考えているようなきららに対して、はて……あなたそんな感じでしたっけ? と発目は首を傾げた。







「ねぇねぇあきらん見て! とどしょ! きららの運命の人!」
「あーはいはい、炎と氷どっちも持ってた人ですね」
「そそそ! しかも顔面が神。声も良。もうとどしょしか勝たん……!!」
「あはは、すごい顔怖いですけどね!」
「なぁんか激おこぷんぷん丸っぽ……?」

対戦相手の瀬呂が場外狙いの早技を仕掛けたが、一瞬で会場を覆う大氷壁が繰り出された。
やりすぎにも思えるそれは圧倒的で、自然と瀬呂にどんまいコールが沸き起こる。炎で生み出した氷を溶かしている轟を見たきららが口を開いた。


「とどしょさ、笑ったらかわいいと思うんだよねぇ」
「? そうですか?」
「そー。でもとどしょ最後に笑ったの随分昔そ。なぁんかできないかなぁ……」
「それこそ発明すればいいのでは?」
「発明……発明ねぇ……」

発目の回答にきららはうーんと考えた。発目が言った発明とは高速で擽って強制的に笑わせるといったなんとも発目らしいものだったが、きららはとどしょ何が好きなんだ? とわりと真剣に考えていた。
当たり前だが知り合って間もないきららは轟の好き嫌いなどよく知らない。情報がない。マジプロフ渇望。まずは知ることからだなときららは気合を入れるのだった。だっていきゃめんの笑顔とか見た過ぎる。







『さァ――どんどん行くぞ。頂点目指して突っ走れ!! ザ・中堅って感じ!? ヒーロー科飯田天哉! バーサスサポートアイテムでフル装備!! サポート科発目明!!』
「はつめ……めい!? え、あきらんめいだったの!? 初耳なんだが!!?」

ガタっと思わず立ったきららにクラスメイトたちが「いや知らんかったんかい」「ギャルのあだ名的あれじゃなかったなだな」とツッコんだ。
入学して一ヶ月ちょっと、初めて知ったマブダチの本当の名前にきららはもうぬあああって感じだった。いやほんと言ってくれよ。名前に頓着がなさすぎる。

そして試合だが、発目が発明したサポートアイテムを対戦相手の飯田も身に着けており、そこにミッドナイトから待ったがかかった。


「ヒーロー科の人間は原則そういうのは禁止よ? ないと支障をきたす場合は事前に申請を」
「は!! 忘れておりました!! 青山くんもベルトを装着していたので良いものと……!」
「彼は申請しています!」
「申し訳ありません! だがしかし! 彼女のスポーツマンシップに心打たれたのです!! 彼女はサポート科でありながら「ここまで来た以上対等だと思うし、対等に戦いたい」と俺にアイテムを渡してきたのです! この気概を俺は!! 無下に扱ってはならぬと思ったのです!」
「青くっさ!!!」
『いいんかい……』
「まァ双方合意の上なら許容範囲内……でいいのか……?」
「にゃはは。うまく丸め込んだねぇ」

発目にそんな崇高なスポーツマンシップなどない。それをよく知るきららは、思わず笑ってしまった。サポート科で勝ち進んで優勝するぞなんて思ってる人間の方が稀だろう。
自身の自慢の発明品をいかに企業にアピールするか。そこに勝ち負けはあまり関係ないのだ。

実際発目はマイクを使ってアイテムを解説してアピールしていた。飯田は利用されたのだ。まるでテレビショッピングである。
10分にも及ぶ発目のプレゼンは続き、すべて出し切るともう思い残すことはないと自ら場外へ行き、試合を終えるのであった。


「あきらんお疲れサマンサー! アピールばっちりだったねん!」
「フフ、大変有意義でした! 大きな企業の掴みもばっちり!」
「おめっと〜! ってかあきらん言ってよ! あきらじゃなくてめいじゃんね!?」
「ああ、別にどうでもよかったので! わかればいいんですよわかれば」
「まぁ今更変えんのもねぇ……あきらんのままいくよん。そういやさ、あきらんあたしの名前わかる?」
「……まぁ、いいじゃないですか!」
「いやあたしら心友じゃん!? がんばってあきらん!!」
「えーっと……」

そう言って発目が出した名前は実に惜しかった。一文字だけ違っていた。あっれーきらら結構きららって自分のこと呼んでんだけどなぁ……認知微妙とかやばたんでは。ときららはちょっと遠い目をした。
こうなったら以前にも増して名前をアピールしていこうときららは決めるのだった。あとあなたとかじゃなくて発目にもちゃんと呼んでもらう。

そしていよいよきららの試合が始まろうとしていた。


 


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