その日は轟と爆豪の仮免補講最終日であった。今日行われるテストに合格すれば、二人は晴れてセミプロに羽化する。一足先に仮免を取得したクラスメイトたちに追いつくことができるのだった。
きららはこの日の為に、少しずつ丁寧に仕上げていたアイテムの調整に取り掛かっていた。轟の合格祝いの品である。夕方が待ち遠しくて仕方なかった。
帰ってきたら、真っ先におめでとうを言おうと決めていた。だって、合格しないなんてはずがないから。







「彼ぴ〜!」
「きらら……?」
「あ?」
「合格おめでとーー!!」

思いっ切り轟に抱き着いた。抱き着いたというか飛び掛かった。けれど轟は難なく受け止め、赤くなった鼻先や耳を見て、ずっと待っていたのかと思うと、ものすごく胸が締め付けられた。嬉しい気持ちと、申し訳なさと、可愛いことするなといった具合である。感情が忙しい。
爆豪はデジャブを感じた。前もこんなことあったなと。だが今回はもう寮についているので、けっと吐き捨ててさっさと寮に入った。どこでもいちゃつきやがるクソップルに用などないのだ。


「待っててくれたんだな」
「なんかもーめっちゃ気持ちがはやった! んならもう迎えに行っちゃえって思ったんだ〜」
「そうか。ごめんな、随分遅くなった。身体冷えてんな……先に風呂入ったがいいか?」
「もう入って来たからいーよ」
「それ湯冷めしてねぇか……?」
「わかんない。寒いから彼ぴあっためて」
「あっため………アイロン……いや、サウナか……?」
「それいーね。彼ぴの個性マジなんでもできる。やばたん」

二人で並んで寮に入る。他クラスの寮だが、きららは第二の寮とばかりに馴染んでいた。周りも驚くことなく「あ、一緒だったんだ〜」「やっぱ轟のおめでとう第一号は飾だな」とすっかり受け入れていた。
芦戸が推しの……じゃなかった、きららの寒さで赤くなった鼻や耳に気付き、大変だと慌ててきた。


「きららめっちゃ寒そー! どんくらい前からいたのも〜! お風呂入ってきなよ! うちの使って全然いいから!」
「ええっ、それは流石に申し訳ナス」
「かまいませんわ。着替えにお困りでしたら、私が創らせていただきますわ」
「至れり尽くせりすぎんか? すでに入り浸って甘えてんのに……」
「もはやA組と錯覚するときあるよな。いるのが当たり前すぎて!」
「それな。てか、俺らに限らずヒーロー科の生徒、飾に少なからずアイテム関係でお世話になってからなぁ……常に個性キラキラしてて、いるって錯覚すんだよな」
「わかる」
「野望に着々と近づいててマジよいちょまる」

滅茶苦茶歓迎ムードだった。いいんかそれで。余所者意識とかないん。ないんだろうな。H組うちの寮でも彼ぴ似たようなもんだもんなときららは納得してしまった。


「サウナはまた今度だな。今回は甘えとけ」
「彼ぴまで〜!」
「風呂に勝るもんはねぇ。風邪ひかせたくねぇから、あったまってきてくれ」
「そういわれると何も言えん。おけまる〜!」

結局お言葉に甘えてしまった。せっかくだからと芦戸や葉隠なども一緒に入り、合宿の時の二の舞になるのだが……それはまぁしょうがない。ましゅまろましゅまろ言われ過ぎて、自分は本当に人間ではなく、ましゅまろ的な何かなのかもしれないと悟りを開くのであった。
風呂から上がったと思えば、死んだ目をしているきららを疑問に思いつつも、轟は濡れた髪を乾かしてやるのであった。甲斐甲斐しい。







何故轟と爆豪の帰宅が予定より遅れたのかと言うと、なんと仮免取得からわずか30分の時のこと。街で暴れる敵を退治したことが理由らしい。そばにヒーローもおらず、引率であったオールマイトに避難誘導をしてもらい、二人は事態の鎮圧にあたったのだった。
この事は大きく取り上げられ、取材が舞い込んでいた。


「――今回は特に、お二人の個性に多くの関心が寄せられていますね。あのキラキラした個性は……なにか秘密があるのでしょうか?」
「秘密なんざねェよ!」
「それはきらら……俺の彼女の個性です」
「(やっぱり彼女いるのね)彼女の個性とは……どういった?」
「デコったものの性能を爆上げしたり、ダダサゲたりできます。デザインによってエフェクトのような効果が引き出されて、俺らの個性はその影響を受けてるんです」
「まぁ……! ではもしかして、エンデヴァーを代表とする、プロヒーローたちの個性がキラキラしだしたのは……」
「彼女の魔法です。彼女は……魔法使いなんです。世界を広げて、キラキラ輝かせる……人々に希望を与える、そんなすごい魔法使いなんです」
「惚気かよ!! うっぜェな!!」
「素敵な彼女さんですね。では次の質問ですが――」

この取材だが、爆豪が丸々カットされ、轟のところだけが放映された。
轟のルックスの良さが話題となり、多くのファンができた轟だったが、即彼女バレしていったので浮き沈みが激しかった。
だがしかし、エンデヴァーたちプロヒーローにも親しまれているというのは大きな話題性を呼び、企業はもちろん、特に「映え」を重視するギャルたちの層にきららはカリスマとして慕われることになる。
名前こそ編集で伏せられていたが、体育祭の本戦3位と大健闘したこともあり、その特徴的な個性から即特定されたのである。
世間ではきららのファッションや髪形を真似る女子が急増し、ちょっとしたブームを巻き起こすのは……すぐそこの話であった。


「ねね、きららのインスタ見た?」
「見た見た! ちょー映えてた! マジ魔法みたいにキラキラしてるまほきらじゃんね!」
「それな〜! ティーンのカリスマすぐる。てかきらら自体激マブじゃん? おにかわいい」
「スタイルも鬼だしな。推すしかない。コスメとかファッションブランドとコラボしないかなぁ……」
「そんなんされたら全部集めるしかなくない? 間違いなく破産だわ」
「言えてる〜!」

また、きららを魔法使いと称した轟により、魔法みたいにキラキラしている……略してまほきらという流行語が生まれることになる。次第にそれはきらら自身を示す言葉にもなり、これはきららが大成し、日本のみならず世界に名を轟かすようになっても変わらず愛称として親しまれたという。


 


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