「それじゃ飾、くれぐれもご迷惑をおかけしないように」
「にゃはは、パワロダせんせ、きららのことなんだと思ってんのー?」
「この荷物の量を見たら心配にもなるでしょ……本当にいいの轟、これ全部持ってこさせて。なんだったら俺持って帰るけど」
「いえ、無駄に広いのに、ほぼ姉が管理しているので……むしろ助かります」
「ほら〜! 彼ぴもこーいってっし! だいじょぶだいじょぶ!」

ピースして大丈夫をアピールしてくるきららに、パワーローダーは今一度本当に大丈夫だろうかとため息を吐いた。轟が両手に持っている袋には、これでもかときららの発明品が詰められていた。
轟の帰省についてくると決定したとき、どんな家なのか聞いてきたきららに対し、轟が「無駄にでけぇ日本家屋」と答えたからだ。よくよく聞けば、前はお手伝いさんがいたようだが、お手伝いさんが腰をやってしまい、それからはほぼ冬美が管理しているという。それは大変だろうと思ったきららが、帰省に合わせて家事を助ける発明品を次々生み出したのだった。気合が入りすぎてやや大荷物になってしまったが……まぁ、こんなこともある。
パワーローダーはやっぱり心配だなぁと思いつつ、「それじゃあまた明日ね」と言って戻っていくのだった。







「おじゃましま〜す!」
「靴、そこらへんに脱いどいていいから」
「おけまる」

言われた通りに靴を脱いでいると、家の奥からパタパタと小走りで冬美がやってきた。エプロンをつけていて、何やら料理でもしていたらしい。濡れた手をエプロンで拭いながら、冬美は満面の笑みを浮かべた。


「おかえり、焦凍! きららちゃんもいらっしゃい!」
「ただいま」
「おじゃましま〜す! しょーとくんとお付き合いしてます、きららです! 末永くよろぴ!」
「ええ、焦凍からよく話は聞いてるよ。ずっと会いたかったの、来てくれて嬉しいわ! 私は姉の冬美です。よろしくね、きららちゃん!」
「うれしみ〜! じゃあふゆみんだね! ふゆみん改めてよろぴ〜!」
「わぁ……! あだ名……! 嬉しいわ、よろしくね〜!」

相性がめちゃくちゃよかった。弟の彼女というものに大変好意的な姿勢のお姉さんであった。冷同様、冬美も個人的に仲良くなりたいタイプである。


「今年は帰ってこられないだろうなって思ってたから、ビックリしちゃった。きららちゃんと会えるのももっと先だと思ってたから、すごく嬉しい! お腹空いてない? 何か出そうか?」
「きららたち、冷ママと一緒に食堂で食べてきたから大丈夫だよ〜!」
「あ、そうなの? じゃあきららちゃんお母さんとも会ったんだ! 喜んだだろうなぁ」
「うん、すげぇ仲良くなってた」
「今度文通もするんだ。そーだ、ふゆみんも連絡先教えてよ! めっちゃ話したい」
「ぜひぜひ!」

スマホを取り出して連絡先を交換するきららと冬美を微笑ましく見ていると、轟は台所に近づくにつれ強くなる様々な匂いに鼻を鳴らした。


「……なんか作ってる?」
「うん、おせちを……あっ、沸騰しちゃう!」

冬美はハッとして台所へ駆けて行った。鍋の火を止めて一息ついている冬美に「なんか手伝う?」と轟が尋ねると、「焦凍はきららちゃんをおもてなしして。それが一番大事でしょ」と笑った。きららも「いやいや、お世話になるんだし手伝うよ」手伝いを申し出るも、「きららちゃんは大事なお客さんだもの。そーだ、色々案内してあげなよ。うち広いから、迷っちゃうかもでしょ」親切に提案してくれて、轟もそれはそうだなと思い、まず部屋に荷物を置いて案内することにした。







「あれ、きららもここでいいの?」
「何がだ?」
「部屋だよ部屋。さすがに分けられるかなぁって思ってた。なんか……古き良きって感じだし」
「ああ、最初は客間用意しようとしてくれてて、俺が一緒がいいって言ったんだ」
「ふゆみんマジ融通」
「ダメだったか?」
「んなわけ〜! むしろうれしみ〜! よいちょまる!」
「ならよかった」

轟が両手に持った袋をようやく下す。いいトレーニングになったなと思う。
きららがすぐ役に立ちそうな発明品を見繕い、それをまた新しい袋に入れて冬美に届けようとするのに待ったをかけた。


「なになに? どったの?」
「……一緒に来てくれねぇか。紹介したい人がいるんだ」
「紹介? おけまる〜」

流れるような自然な動作できららから袋を奪うと、そのまま案内してくれた。そんな重たくないからいいのになと思うが、轟は優しい紳士なのである。
よどみなく進む足に、その人がどこにいるのかわかるんだなという謎は―すぐに解けた。
案内されたのは仏壇だった。そこには小さな写真が一つ飾られている。学ランを着た白い髪の男の子。轟家の長男、轟燈矢……その人だった。


「……一番上の兄貴。燈矢っていうんだ。紹介したいって言ったのは燈矢兄のことで、俺言ってなかったろ」
「そだねぇ、初耳かも」
「あんまいい話じゃねぇから、聞かせなくてもいいかと思ってたんだが……やっぱ、ちゃんと紹介してぇって思ったんだ」
「そっか……へぇ、じゃあとーやん、年下のお義兄様ってわけだ。あたしも参らせて。めっちゃよろぴーってアピんなきゃ!」
「……そうだな」

相変わらずのきららの反応に、少し緊張していた轟は柔らかく笑った。宣言通りよく挨拶しているようで、きららが参る時間は結構長かった。困惑している燈矢の姿が浮かんでくる気さえした。

その後、燈矢が亡くなった経緯をぽつぽつと話していると、きららはうんうん相槌を打って聞いてくれた。
そして一通り話し終えた感想が「とーやん、ファザコンなんだね」というめちゃくちゃアバウトな感想で、思わず吹いてしまうのだった。


 


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