燈矢に挨拶したあと、冬美のもとへきららは向かった。正月の準備で忙しそうであったし、ならばなおさらきららの発明品が光るというもの。発明とは美学であり、人の役に立つために生まれるものなのだ。
轟も迷うだろうからと、道案内をしてくれた。二人して台所に戻って来た姿に、冬美は少し驚いた顔をした。


「どうしたの? なにかあった?」
「いや、きららが姉さんに持ってきたもんがあるんだ。それ渡しに来た」
「え、私に……?」
「そーなの! ふゆみん家事やることたくさんで大変でしょ? それ手伝ってくれる子たち持ってきたの〜!」
「子たち……?」
「見たが早い」

そういって轟が袋を広げてくれ、きららが中から発明品を取り出した。
見た目も重視したそれは、動物ロボットのようで、キラッとデコられていて随分かわいらしいものだった。


「え、ええっ! か、かわいい……!!」
「でしょでしょ〜! あくまで家事が目的だけど、番犬にもなるんだ〜。まぁ、おとーさまいるからあんま出番ないかもだけど。NO.1ヒーローって忙しいし、ふゆみんを護衛するのもいないとねん」
「きららちゃん……! ってこの子たち家事できるのね……動物だけど……」
「まぁ、見てて」

犬猫を模したそのロボットは起動すると『わん』だの『にゃー』だの短く鳴いた。
各々役割分担されている通りにその場で動き出す。雑巾がけをするもの、片付けをしているもの、料理のメニューを提示してくれるもの、洗濯するそぶりをするもの、家事に関連する動作を各々が行っていた。


「わぁ……! すごい! 可愛いだけじゃないのねぇ……!」
「おまけに疑似ペットとしても大活躍」
『ワン』
『ニャー』
「かっかわいい……!!」

すりっと擦り寄って来たロボットたちにデレデレであった。可愛くした甲斐があるというもの。あとはこの屋敷内の大体の見取り図と、画像認識で細かい調整を終えれば屋敷内をくまなく動いてくれる。入ったらダメな部屋とかの登録もすれば、立派に運用できる手筈であった。

その説明と設定を冬美と進めている間、轟は手が空くと思い、手伝いを申し入れた。轟の帰省ときららの来客に合わせて布団を干しているらしく、冬美にそれを取り込むように頼まれ離席した。
ちょうどいいからと、料理ロボットにも試しに作ってもらうことにした。材料もあったことで茶碗蒸しを選ぶと機敏な動作で調理を開始した。







「ただいまー」
『ワンッ!! ワンワンワンッ!!』
「わっな、なんだ!? ってうおっ……!!」

帰って来た夏雄に、掃除をしていた番犬機能が搭載されているロボットが襲い掛かった。驚く夏雄に容赦なく捕獲ネットを噴射し、身動きがとれないようにする。実に鮮やかな手際であった。
だがこれに慌てたのはきららと冬美であった。


「な、夏ーー!?」
「わーー! ごめりーん!! 今なんとかするから〜!!」
「な、なにこれ……」

呆然とする夏雄に冬美ときららが慌てて駆け寄ってきた。まだ轟家の人間をちゃんと登録できていなかったのだ。不法侵入者と誤認したロボットを弄り、捕獲ネットを戻す。解放された夏雄だったが、未だになにがなんだか飲み込めていなかった。


「えっと……これはいったい……」
「ごめりん、おにーさま。あたししょーとくんとお付き合いしてるきららっていうんだけど……」
「ああ、噂の焦凍の彼女……」
「うん……家事手伝い兼番犬もできるロボット作ったんだけど……おにーさまの登録まだできてなくて、不審者だと誤認しちゃった。ほんとーにごめりん!」
「なんだそういうこと……いいよ、気にしなくて。俺、夏雄。よろしく……きらら、さん……?」
「マジ懐。あざまる! きららでいーよ! なっつんって呼んでいい?」
「なっつん!? い、いいけど……じゃあ俺も、きららちゃんで……」
「おけまる〜!」

夏雄は今まで、あまり接したことのないタイプのきららに大いに戸惑った。距離感近いなこの子。いい子そうだけど、と内心で思う。
けれど先ほど言っていた家事手伝い兼番犬というのにひっかかる。一体どういうことなのだろうと聞いてみた。


「それで……なんでそのロボットがうちに? てかこれ犬猫じゃん……?」
「わんにゃんなのは見た目重視! どうせなら愛着湧くのがよきじゃん?」
「あ、そう……うん、まぁ」
「きららちゃん、焦凍からうちの管理が大変そうなの聞いて……色々楽できるようにって作ってくれたの。番犬も、ほらうちお父さんいるけど、いつもいるわけじゃないし……最近は夏も中々帰ってこないじゃない?」
「うっ、それは……そうだけど」
「私が一人でいるときも多いから、きららちゃんが防犯の為にもって用意してくれたのよ」
「ええ……それはまた……。俺も姉ちゃん一人なのはちょっと心配だったし、この家無駄に広いし……ありがとう、助かるよ」
「どいたマンゴー!」

輝く笑顔に夏雄も笑った。サポート科の子だとは聞いていたけれど、思ったよりサポート科ってすごいんだなと思う。高校一年生でもうロボットとか作れるんだから。だがまぁ、サポート科はサポート科でも、きららは雄英を代表する二大発明狂の片割れである。色々規格外すぎた。

その後、布団を取り込むように頼んでからなかなか来ない轟が心配になり、場所をまだ覚えきれていないきららを気遣った夏雄と一緒に轟の部屋に向かった。
轟は無造作に置かれた布団の上で眠っており、疲れているようなのでこのまま寝せることにした。

きららは先ほどの失敗を振り返り、番犬ロボットを細かく調整するために部屋に残った。眠る轟の傍らで作業するのもいつものことである。慣れた様子のその雰囲気に、夏雄は何かを察して一人冬美のもとに向かうのだった。


 


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