エンデヴァーが帰って来たのは、思う存分まったりした夏雄が帰った後だった。
エンデヴァーは帰宅するとまず、出迎えてくれたのが動物を模したロボットたちだったのに驚いた。見覚えのあるデコパーツにきららの作品だろうと当たりをつけるも、何故これがうちにあるのかまではわからなかった。

冬美ときららのはしゃぐ声が聞こえる。何やら随分楽しそうだった。
エンデヴァーが襖を開けると、冬美ときららが声をかけた。


「あ、お父さんおかえり〜!」
「おとーさまおつサマーファイヤー! 大変だったねぇ!」
「……む、見ていたのか」

お酒でほんのり赤くなった冬美の顔と、きららの笑った顔がエンデヴァーを出迎えた。轟は視線をエンデヴァーに向けるも、その表情はいびんなよ、という警戒が感じられた。身から出た錆である。そんなに警戒せずともきららをいびる気など毛頭なかった。
冬美の隣には猫型のお料理ロボットが定位置とばかりに丸くなっており、エンデヴァーを見上げるとおかえりとばかりに『ナーオ』と鳴いた。


「それは……」
「これね! きららちゃんが家の管理大変だろうからって、家事をお手伝いしてくれるロボット作ってくれたの! 他の子にも会わなかった?」
「会った。そういう意図で作らていたのか」
「どうせなら可愛く親しみやすく作ろうと思って、わんにゃんモデルにしてみたんだぁ。ペットとしても活躍してくれるよ。おとーさまも癒されてよ!」
「そうか。ありがとう」

素直にエンデヴァーに礼を言われたことで、さすがのきららも些か面を食らった。てっきり何かしら一言二言は言われるだろうと思っていただけに、この反応は意外であった。


「えっ、あ、うん!? どいたマンゴープリン!」
「マンゴープリンが食べたいのか? 買って来よう」
「そういう意味で言ったんじゃないの! ただのノリ!」
「そうなのか。まだおまえの言葉を理解するのは難しいな」
「でも前よりいー感じ! 波が来てる!」
「波……波の流れに乗るということか。なるほど」

一方で、目の前で繰り広げられるエンデヴァーときららのやり取りに、冬美は驚嘆していた。

――お、お父さんが……若者言葉に順応している……!!

頭の固いところのある父である、轟からもエンデヴァーときららのことは聞いていたし、きららはいびられたなど思っていないようだが、内容を聞くと、お父さん……!! と思わず頭を抱えたくなった。きららが規格外の発明狂、向上心の塊だったから奇跡的に好転しただけで、並みのお嬢さんなら泣いて逃げだしていたかもしれない。
そうなればもっと父と弟には溝が深まっていたであろうし、ようやく家族として少しずつ歩み始めてはいるものの、後退するのもすぐだっただろう。

本当にきららでよかった。色々強い。エンデヴァーも九州の一件以降、公言通りきららを全面的に認めている上に、逆にその細かい着眼点をきららに気に入られたようで、ちょくちょく発明品を送っては改善点と長所をエンデヴァーに求めるといった良好な関係を築いていたのだった。まだ轟はエンデヴァーを信用していないようだが、これはまぁおいおい……その行動をもって示していくしかないだろう。時間が解決してくれる問題だった。







――だがまぁ、きららは発明狂の片割れである。失敗は成功の母と言うように……たまーにちょっと、発目に負けず劣らずやらかすのであった。


「む!?」

エンデヴァーは見た。新年に向けて新しくしたばかりの障子に爪を立てて、しっちゃかめっちゃかにする猫型ロボットを。
だが失敗は誰にでもあるものだ。ペットとしても接することができるようにそれらしく振舞うようにプログラミングされているのだ。冬美もいたく気に入っているようだし、こんなことで目くじらは立てまい。
エンデヴァーは新しく障子を張り替えるも、張り替えたそばから待ってましたとばかりに障子を破る猫型ロボットに血圧が上がった。


「なっ!? ここもか!?」

雪にはしゃいだのか、犬型ロボットが身体中雪にまみれ、縁側からそのまま入ってきたのだろう、廊下にも雪が落ちていた。エンデヴァーはこれも掃除した。童謡でもあるように、犬は雪に喜び庭を駆けまわるものである。大変モデルに忠実で素晴らしいではないかと無理やり思考を前向きにする。
たとえ拭いたそばから汚していかれようとも、エンデヴァーは寛大な心で許容を――


「! それはダメだ……!!」
『ニャー!』

許容を――


『ニャオニャオ』
「お、俺の葛餅が……!! っ、きららーーーーー!!!!」

できなかった。
無残に包装紙を切り裂かれ、中身もぶちまけられた葛餅にエンデヴァーは許容限界を迎えた。
轟邸中に響き渡ったエンデヴァーの怒号は、轟の部屋でいい感じにらぶぽよしていた二人の耳にも届き、きららは驚いて肩をびくっとし、轟も轟でいいところで邪魔をされて苛立ちが隠せなかった。
エンデヴァーのところに行こうとするきららを無理やり引き止め、「あんな奴ほっとけ」とぎゅっと抱きしめて拘束した。エンデヴァーにとっては大事でも、轟にとっては大したことではないのだ。そんなことよりかまってほしかった。

冬美が代わりに駆けつけてくれたようで、エンデヴァーの方の問題はとりあえず解決したようである。
何が何だかわからないが、きららは久しぶりに聞いたエンデヴァーの怒号に、妙にしっくりきてしまい、やっぱりおとーさまはこうでなくっちゃなと笑ってしまった。優しいおとーさまも好きだけど、たまにぎゃんと吠えるくらいがちょうどいいのだ。
妙に楽しそうなきららに「なんか面白いことでもあったか?」と聞くと「なんでもな〜い」と笑うのだった。


 


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