二回戦の相手が決まる次の試合は、常闇の圧勝だった。対戦相手の八百万の創造が間に合っていない。黒影ダークシャドウという個性は1対1なら無敵に近い個性と言えた。
ありゃデコるのに苦労しそうだ。さすがに次は負けっかなと思っていたら、次の試合がすごかった。


「マジか、爆ぴ相手に大健闘じゃん」
「ええ……素晴らしい精神力ですね」

爆破の嵐の中、麗日は絶えず追撃し密かに武器を蓄えていた。
そして流星群を降らせ捨て身の策を取る。すごい策だった。だが爆豪はそれを一撃で防ぎ、キャパオーバーで麗日が倒れてしまい、試合は爆豪が勝ち進んだ。それでもこの試合はとても印象深い物であった。


「なんかさ……ヒーロー科ってなんか、熱いよね」
「まぁ、そうですね」
「みんな必死でさ、食らいついてさぁ……この舞台に誇りを持ってる。なんかあーいうの見せられっとさァ、こっちもバイブスアゲっぞって思うんだよねぇ」
「……影響されたんです?」
「かも。負けた奴らの分までとかさ、そういうんはちょっとオコガマシイんだけど、少なくとも、戦う価値のある人間ではありたいよなぁ」
「ふーん、そうですか」

相変わらず発目はあまり興味がなさそうだった。
それでもきららは騎馬戦の時の尾白と庄田といい、今回の麗日といい、確実に影響を受けている。ヒーロー科マジパネェ。
勝ち負けとかどうでもいいとか、アイテムアピールできればそれでよかったのに。あんな熱いの見せられたらそうも言ってらんないし。あんな全力で戦ってて、それでも勝ち上がれなかった人がいて、悔しい思いをして、そんで勝ち進んだ人間は揃って優勝を目指してる。
なんかもう引っ張られるしかなかった。もうデコりまくってやったるかーって感じ。

次は轟の試合だった。影のある、何かを抱えたイケメン。きららの運命の人。








「みどりん、とどしょのヒーローじゃんね」
「? そうなんですか?」
「そう。だってとどしょ……炎使ったよ。ちょっとだけ笑ってた」

きららは轟に何があったかなんて知らない。どうして炎を使わないって決めてたのかも。
でもなにか轟には事情があって、分厚い壁があって、でもそれを緑谷がぶち壊していった。轟がちょっと笑ってた。泣きそうな感じでもあったけれど、それでも大きな一歩だったことはなんとなく理解できた。


「ヒーロー科、やばたん。卵でももうヒーローじゃんね。あたしもキラキラできっかなぁ……」
「珍しく弱気ですね。あなたならキラキラさせっぞーくらい言うかと思いました」
「あーうん、そーね。ヒーロー科がえぐちすぎて心がキラ負けしたわ……」
「よくわかりませんけど、デコることとキラキラ具合であなたに敵う人はなかなかいないと思いますよ?」
「え……」
「ドッ可愛いベイビーたちのこともっと信用してみては?」

発目がもうさっそく何か着想を得たのか手元を動かしてドッ可愛いベイビーを発明していた。
さすがサポート科の発明バカである。「ちょっとこれデコってください」と言われ「お、おう」と言われるがままにデコる。ずいぶん小さい。これならすぐ終わる。何に使うんだこれ、と思っていたら発目が「もういいですよ」と取り上げ、ネジを回すと小さい花火がポンポンと出てきた。


「おわっ、なになに!?」
「よかった! 一発成功ですね。火薬ミスってたら大爆発するところでした!」
「グッチョブ!!」
「この花火、あなたのデコに反応して炎色反応を起こしているんですよ。この色はあなたにしか出せない色です」
「お……? そーなん?」
「ええ。私はこの花火が一番きれいだと思います」
「あ、あきらん……」
「他の方の好みは知りませんけど!!」
「わー! それはマジ余計! でもあざまる〜〜!」

ガバっと発目に抱き着いてうれし泣きするきららを「それはそうと、もう出番では?」と発目が冷静に返した。「やばっ! ちょっぱやで会場いってくるううう! マジあんがと〜〜!」きららはそれはもう急いで駆けて行った。

なんかもう今なら爆豪とか轟相手でも負ける気がしない……は言い過ぎかもしれないけど、そんくらいよいちょまるな感じだった。







『ギャルと中二病って相性どんな感じ!? 飾バーサス常闇! スタート!!』
「行け! 黒影ダークシャドウ!」
「アイヨ!」
「2対1とかマジきびつ……!」

一回戦と同じようにデコったサポートアイテムでフル装備しつつ、キラキラ光線をぶっ放す。けれど黒影が速い、速すぎる。距離を詰められるのはめちゃくちゃ困る。接近戦に持ち込まれた時点できらら負けるし。
接近されたくないけど、接近したときがデコれるチャンスでもある。デコパーツを身体から出していると、ふと思い立った。


――ん? ……そーいや一回戦の子、創造だったな……?


きららは思い出す。常闇と当たった一回戦の相手は、芦戸から教えてもらった例のヤオモモである。
あの子は確か創造が間に合っていなかった。間に合わないくらい、黒影が速かった。けどきららは対峙してみて、そこまで圧倒的なスピードかと言われれば首を捻る。
あれ……なんかスピード落ちてね? 何でだ? ヤオモモときららとの違いは……。


「よくわかりませんけど、デコることとキラキラ具合であなたに敵う人はなかなかいないと思いますよ?」

思い出す。発目の言葉を。やっぱそれしかないよねぇときららは口角を上げた。
キラっとデコったあげみざわなアイテムで、世界をキラキラさせるのがきららの野望。そのきららがキラキラに於いて奥の手がないはずがないのだ。


「キラメキパワー! マックス!! イルミネーション!!」
「きゃんっ! 俺もうムリ!!」
「くっ……! ぬあっ!」

フル装備をすべて限界まで光らせる。そのキラメキは凄まじく会場で目を開けていられる人間はほぼいなかった。
闇を力に変え、光を苦手とする黒影にはひとたまりもなく、常闇の中に逃げ戻る。
すかさずその隙を逃さず、きららはアイテムを使って常闇を場外へと押し出した。


「常闇くん場外! 飾さん三回戦進出……!!」
「あげぽよ〜!!」

心の友よありがとう。こうしてただ一人女子にして、ヒーロー科以外の科から準決勝戦へと駒を進めるのであった。


 


戻る
top