強制帰還




 立て続けに二人の呪術師が戻った。
 一人は七海建人、五条悟を通じて証券会社より転職。
 遅れたもう一人は、私、佐山奈波。地方県立高校より教員として異動。
「まて……なんで私はここに戻ってきてるのかな……? 嘘だよね……?」
 教えることは好きだし、子供たちも好きだ。教員として母校で務めることはとても誉高いはず。だが、半強制的な県を跨いだ異動は求めていない。前の勤務校は比較的穏やかな生徒たちばかりで良かったし、あの安らかな土地が懐かしい……と感傷に浸っている場合ではない。
「それは私のセリフですが。なんであなたまで居るんですか」
 隣で驚いたというような声を出しているくせに、仏頂面を向けてくる同期。そして、一番いい椅子に座ってニコニコとこちらを見ている諸悪の根源、もとい私のこの状況を作り出した白髪目隠し先輩。
「僕のおかげだね!」
「いや、五条さんのせいですよね」
 平穏に満ち溢れた、とは言えないが、それなりにやってきた高校教師としての生活はどうしてくれるんだ。高専卒業後から大学・大学院と進学し、教員免許も取り、採用試験を潜り抜け、色々面倒事もあるとはいえ給与は手堅い職についていたはずなのに、また余計面倒な呪術界で生きなければいけないのか?
「モンペを超えるクソ案件……」
「気が合いますね。労働も呪術師もクソですよ」
 久々に建人くんと固い握手を交わす。もう一人の同期はどうやら任務で不在だそうだ。彼がここにいたら五条さんに加勢しそうな気もしなくは無い。
「え〜〜、でも勿体ないじゃん!  君くらいの呪術師がフツーの高校教員とかさ! 教科なんだっけ」
「英語ですけど、その辺、普通は確認しますよね。あ、ここで普通は通じないですね……」
 諦めてここにきたが、もうこの件に関しては考えることはやめよう。きっとそれが一番いい。任務から帰ってきたらしい別の先輩がひょこっと現れて、狐のような笑みを見せる。
「半分は私の頼みかな。一週間ぶり、奈波」
「え、夏油さんも絡んでるんですか……」
「すまないね」と言って私の肩を叩く夏油さん。絶対そんなこと思ってないだろうけど。この言葉に建人くんは首を傾げた。
「一週間ぶりって、どう言うことです?」
「あ、それはね」
「あれ、ナナミじゃん〜」
 夏油さんが説明しようとすると、たまたま職員室前を通りかかった硝子さんに遮られる。声をかけられて私たちは返事をした。
「「はい?」」
「ちっちゃい方だよ。相変わらずだな、おまえら」
「失礼しました」とメガネをぐっと押して、そっぽを向いた建人くん。メガネは無かったがその仕草は相変わらずで、学生時代を思い出す。
「あはは、硝子さんもお久しぶりでーす」
「誰かさんから話は聞いてたよ。次年度からこっちで働くんだって?」
「そう言うことになってましたね。まあお給料はずんでくれるみたいなので、いいんですけど……はあぁぁ」
 あまりに大きな溜息に、五条さん以外が私をじっと見てくる。逆に申し訳なくなってしまう。
「……気乗りしないのか。まあ、奈波は戦うのがめんどくさいって出てったもんな」
 カラカラと笑って空気を変えた硝子さんは「またよろしくね」と去っていく。
「私と仕事をするのはそんなに嫌だったかい?」
 夏油さんが、私は落ち込んだよ、と言わんばかりの声で言うが顔が楽しんでいるのは分かっている。
「五条さんと仕事するのが……しかも私の上司って、悪い夢でも見ているのか」
「さらっと失礼!」
「落ち着きませんか、佐山さん。この人のことは無視していれば何とかなります」
「あ! そっか! や〜、良かった良かった」
「勝手に消さないでくれるかな?!」
 五条さんに泣き真似されても面倒なので、両手を挙げて降参を示す。悪ノリしすぎるのもあまり好きではないから、子供たちに関わることだけは真面目にやろうと気持ちを切り替える。
「ハイ、失礼しました。教職から離れるつもりはないので、そこはきちんと働きます。それでお聞きしますが、私の職務は教科担任のみですよね?」
「いや? 違うけど」
「はあ。学級担任と、呪術関連指導もですか」
「そっちは僕と傑の担当。ナナミンズでタッグ組んでちょいちょい討伐お願いしたいんだよね〜」
「「は?」」
 思いがけずまた建人くんと同時に言ってしまう。子供みたいに笑っている五条さんにスマホのカメラを向けられる。
「同じ顔してる〜アッハハ!写真撮ってい?」
「この人はもう呪術界からは離れているんですよ?私と任務に出る必要は……」
 建人くんが少し焦ったように言う。まあ、無理もないか。同じように腐ったお上や任務に飽き飽きしていたから。
「実はそうでも無いんだよね」
 私が言おうとしたことを、夏油さんが代わりに話し始めた。尾ひれ付けられたら困るんですが、と視線で伝え、私が引き継ぐ。
「私の術式知ってるでしょ? それでちょいちょい夏油さんの手伝いしてたの」
「学生時代にもやってたアレですか」
 眉間に皺を寄せて建人くんが私を見る。その気持ちは分からないことも無い。
「ソレです」
「さっきの一週間ぶり、ということは、そういうこと。ま、デートなんかもしたけどね」
「……へえ」
 隣から何やらとても芳しくない視線を感じるが、楽しげな夏油さんには後で文句を言うとして、目の前の五条さんに向き直る。
「休暇中に任務を入れないという約束でしたら、構いませんが。……もちろん、生徒が関わる非常事態は除きます」
「そのつもりで呼び戻したからね。さすがにもう大暴れされるのは、おじいちゃん達もたまったもんじゃないでしょ」
 大暴れ、と言われて過去にやらかしたある事件を思い出して頭が痛くなる気がする。
「分かりました。休暇申請は一ヶ月前に行いますので」
「おっけー! じゃ、僕、今から出張だから」
「ちょっと待ってください、私はなぜ呼ばれたんです?」
 立ち去ろうとする五条さんを制止して、建人くんが尋ねる。確かに、私と同じ時間に来ていたが五条さんからの話は私の事についてだけだった。
「奈波に会った反応見たかっただけ☆」
「なっ!」
 脱兎のごとく走り去って行った五条さん。そしてあとに残されたのは驚いた顔がすごい怖い建人くん、その隣に座っている私、そして何故か愉快そうな夏油さん。
「佐山さん」
「うん?」
「ここへ帰ってきたのはあなたの意思ですよね?」
「あー、一応は。お仕事はしなきゃね……」
 ここに来なければ他に行くあてがないというのが本音で、何故か(おおよそ御三家辺りに色々根回しされたんだろうが)他府県への転職が出来なかったのだ。しぶしぶ、と言っても良いが、こちらからの条件も飲んでくれる様なので譲歩したのだ。
「そうですか」
 全然納得したようには見えないが、彼は溜息をついて立ち上がった。
「帰るの?」
 五条さんが置き去りにした私宛の書類を手に取って、彼を見上げる。建人くんは「今日は休日出勤させられたので」と答える。なるほどな、と苦笑いで返事に代えると、彼は少し口角を上げてこう言った。
「あなたが元気そうで良かった。これからまたよろしくお願いします。では」
 軽く手を上げると職員室を出ていく。全く真面目なものだな、と思って私は一息吐き出す。
「相変わらず、ああいうとこ素直じゃないね。ところで、もう引越し終わった?私も手伝おうか?」
 夏油さんは先程まで五条さんが居たところに座った。ニコニコと今日はどうやら機嫌が良さそうだ。
「お気遣いありがとうございます。お手伝いして頂くようなことはないですよ」
「それは残念。君に恩を売っとくのも悪くないと思ったんだけど」
「……なんか怖いんですけど」
「やだな、いつもしてもらいっぱなしだから、お返ししたいだけだよ」
「気にしないでください。ご飯連れてって貰ってるので十分です……あ」
「どうしたの?」
 建人くんが出ていった扉をちらりと見ると、私は今日何度目かのため息をつく。
「さっき、デートとか言ったじゃないですか。誤解生むようなことは勘弁してくださいね」
「うーん。善処するよ」
 全くこの人は、私の話を聞く気があるのかないのか。硝子さんが言ってたように、やはり最強タッグは頭のネジ数本飛んでるな。いや、呪術師だから私も人のこと言えないのだろうか、などと考えて、書類の中身を確認する。次年度の生徒名簿や時間割などがある。生徒の個人情報などは、私のデスクに置いておこう。静かにスマホで何かをチェックしている夏油さんに声をかける。
「夏油さん、ここ残ります? 私もう出ようかと思うんですけど」
「うん。ちょっと作業してからでるよ。でもちょっと待って」
 そう言って夏油さんが思い出したようにポケットを漁り出す。また、いつもの手伝いだろうかと思えば、可愛らしいピンクの袋が出てきた。
「あの子たちがお土産のお礼に渡してって。これ、はい」
「みみこ、ななこが? 嬉しいですね〜 ……なにこれ?」
 手のひらに載せられて、私は首を傾げる。開けようとしていると、ネタばらしされた。
「お揃いのアクセだってさ。あと寂しがってたから連絡してあげて欲しいな。電話かそうか?」
「あ、可愛い! 私からするんで大丈夫ですよ。ありがとうございます」
 ティーンの女の子が好みそうな、チャーム付きのブレスレット。私が着けても可愛すぎない程度にはシンプルで、考えて選んでくれたのかな、と美々子と菜々子を思うと自然と笑顔になる。最近話せていなかったから、ビデオ通話でもするか、とスマホを出す。
「……夏油さんしかいないし、ここでかけても良いですよね?」
「いいんじゃない? どうせ今日は休日だし」
 片方にかけたら両方出るだろうと、美々子の携帯へかける。二コール目で直ぐに出た。
「はやっ」私が呟いたと同時に、
[ママー!]
 と満面の笑みの少女二人が画面越しに手を振ってくるので、思わず吹き出してしまった。夏油さんも向かいで爆笑している。
「あはは!  誰がママなの」
[奈波ちゃんがあたし達のママならいいねーって言ってたから呼んでみた]
[そうそう! 夏油様と奈波ちゃんが親なら最高]
「それはいろいろとヤバいでしょ。二人とも、ブレスレットありがとね。お菓子大丈夫だった?」
[食べたよ〜めっちゃ美味しかった!]
[あれ、夏油様の笑い声聞こえね?]
「地獄耳だな、君たちは」
 いつの間にか私の横に来て、カメラに映るよう夏油さんがぬっと顔を出してくる。驚いて少しだけ顔を背けかけたが、がっしり反対側を抑えられていた。
[マジお似合いなんだけど]と美々子。
[結婚してくれたらいいのに]
 菜々子も同調したように言うと、大真面目な顔をして美々子も頷いている。そうだねえ、と呟いて夏油さんがこちらを見るので目を合わせると、やはりご機嫌な良い笑顔で彼は口を開いた。
「……じゃあまずはお付き合いから?」
「しません!」



続く。

……

愉快な仲間たち!

夢主……佐山奈波(さやまななみ)
七海・灰原と同期。七海とコンビでナナミンズと呼ばれていた(五条に)。たまに夏油のお手伝いをしている。戦闘スタイルは術式(そのうち書く)で呪霊から吸収した呪力と剣を使う。天然カウンセラー。ミミナナのお姉ちゃん(ママ)。東京呪術高専に教科教諭として赴任した一級呪術師。過去の大暴れ事件は記憶の彼方に行きました。夏油の結婚前提の付き合い発言は本気にしていない。

ナナミンズ「この世はクソ! 定時で帰るし休暇も守る!」
夏油・佐山「(呪霊)ひと狩りいこうぜ!」

七海建人
ナナミンズのでかい方。真面目なんだかそうじゃないのか分からない奈波の事は、高専時代から気に入ってた。卒業前に奈波が起こしたある事件を覚えているし、自分もその一因なので少し反省している。先輩と奈波がよく会っていたと言うことを知って、結構ショックを受けた自分に驚いて、これはもしや恋?と思って退席した後に頭を抱えた。

夏油傑
離反してないけど非術師に対しては辛口。多分五条よりいい先生だという自信がある。仕事の手伝いやミミナナのシッターをしてもらうことを口実に、ちょくちょく奈波とご飯に行ったりしていた。本人はデートと言い張っている。高専時代、奈波にいろいろと救われた。この巨大激重感情、後輩には負けない。結婚を前提にお付き合いは本気。

五条悟
ナナミンズの名付け親。親友と後輩が奈波の取り合いしてる様を眺めて楽しんでいる。奈波にスイーツ巡りをしようと誘うが、いつも華麗に避けられて、先輩かなぴい!

家入硝子
ナナミンズのちっちゃい方にあれこれ世話を焼いていた。かわいい後輩が戻ってきて嬉しい反面、少し心配。

灰原雄
ナナミンズのお兄。現在任務中で不在だが、同期二人が戻ってきたと知ってとても嬉しい。

ミミナナ
夏油が拾って育ててくれて、奈波が家庭教師してくれたので、だいぶいい感じに?成長した。二人ともマジで結婚したらいいのにな〜五条何とかしろよ〜、と思っている。

生徒たち
そのうち出る





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