恋愛サーキュレーション
気づけば目が離せなくなって、胸がきゅんってして、いつも、視線の先にはあなたがいた。
はじめてあなたに出会ったときから、高鳴る胸の鼓動が、昨日よりもっと、今日よりずっと、明日も弾んでしまうから。もう、ずっと、あなたから目が離せないんだ。
ああ、もう……本当に、大好き。
なんて、言葉にするのは単純で、ちょっとだけ恥ずかしくても伝えることだってできるけど、藤哉くんは私に興味なんてなさそうで。でもでも、好きでいることを諦めるなんてできなくて。お父さんが言ってた千里の道も一歩からって、きっとこのことだろうって、石のように固いそんな意志を固めて今日も奮闘する。
「はぁ? 好みのタイプ? ……大和撫子」
君とは正反対なんじゃないかい? 君はどっちかというと……ゲテモノ部類だろう。なんて言葉にガーンとショック。それでも好みのタイプが知れたことが嬉しくて、塵も積もればきっとヤマトナデシコにだってなれるよねって、お作法を学んで全速前進。
ちょっとだけ呆れ顔。あれ? なんか間違えちゃったかな。えへ、って誤魔化すように笑って、ため息一つ。
「ルリっていう立派な名前をもらってる割には、君は呆れるほどにどうしようもないな……って何を喜んでるんだ?」
「えへへ、藤哉くんが私の名前呼んでくれたって思うと嬉しくて」
「はぁ? こんなの呼んだうちに入らないだろう……?」
どんな形でも、藤哉くんが私の名前を呼んでくれたこと。それが嬉しくて、ふわふわしちゃう。このまま雲の上をお散歩できそうな、そんな気がするんだよ。
神様ありがとう。藤哉くんと出会わせてくれて。私、すごくすごく幸せなんだ。毎日が宝物みたいにきらきらしてて、生まれてきてよかったって、生まれてきてくれてありがとうって、そう思うんだ。
「……ったく、おめでたい奴」
あれ、気のせいかな? 今、ちょっとだけ藤哉くんが笑ったような……見間違い?
隠れてしまった顔からは分からないけれど……もし、もしも、そうだったなら……いいなぁ。
昨日より、今日。今日より明日。明日より、明後日。きっと私は藤哉くんをもっと好きになる。大好きだよって伝える度、難しいお顔。「そんなことを言うのも今だけだ」「一、二年もすれば変わってる」って、最初は信じてもらえなくてしょぼんとした心も、今はちょっとだけ違うんだよ。
心の奥の奥に、悲しい心を隠してるような気がして。私たち、もしかしたらちょっとだけ似てるのかもしれないね。ひとりぼっちの寂しさをきっとお互いが知ってる。だから、なおさら惹かれちゃうのかな。
「大丈夫だよ。私、十年後も、二十年後も、その先もずっと、藤哉くんのことが好きだから!」
それを証明してみせるから怖がらなくていいんだよ。私のことを見ててほしいな。きっときっと、大丈夫だって、大丈夫だったって、安心させてあげられるから。
私の中の藤哉くんほど、藤哉くんの中の私の存在は、きっとそんなに大きくはなくて、同じ好きじゃないことも知ってるけど。今一緒に隣にいて、今同じものを見て、同じものを感じてる。それってすっごくすごいことなんだよ。ヤマトナデシコには程遠いけど、私きっと素敵なヤマトナデシコになってみせるから。だからもう少し待ってて。私の王子様!
なんて大口を叩いて大胆なことを宣言したけど、藤哉くんを見上げるだけでくらくらしちゃう! どうしよう! かっこいい!
藤哉くんのことを想ってると胸がどきどきして、熱々になって、くらくらする。溶けてしまいそう、なんて、まだまだ前途多難かも!?
何はともあれ、神様ありがとう! やっぱり藤哉くんに出会えたことが一番のしあわせなの。
恋ってどんどん欲張りになっちゃう。もっと一緒にいたい、もっと知りたい、もっと仲良くなりたい。もっと……あなたの心に近づきたい。
どうしたら笑ってくれるかな? そんなことばかり考えて、ヤマトナデシコなんてどこへやら。やっぱり千里の道は程遠い? 石に躓いてぐるぐるばたーん。いたたた、ちょっとだけ掠り傷。起き上がろうとすると、目の前に差し出される手。上を向いたら、呆れ顔の藤哉くんがいた。
「本当に、君は馬鹿だな」
えへ、と誤魔化すように笑う。ヤマトナデシコは程遠い。千里の道はまだまだ序盤。塵も積もってゴミだらけ。持ってるものは一つだけ、溢れるくらいの、藤哉くんへの好き。
「……僕の負けだ」
大和撫子なんて、本当はどうだっていい。ってそれって、どういう意味……? 首をかしげてうーん? ってなる私の額をぺしりと藤哉くんが弾く。
「あたっ」
「間抜け面。こんなのに負けたなんて……はぁ……」
ちょっとだけいらいらしたみたいに「分かれよ。君が好きだって言ってやってるんだけど」なんてびっくり発言。数秒固まって「ええ〜〜!!?」って大声を出した私に「うるさい」と言う藤哉くん。
だって、そんな、まさか。
「藤哉くん……ゲテモノ好きだったの……?」
「君……意外と根に持つタイプだったりする?」
「え……?」
頭を抱えておっきなため息。なんだか小さな声でぶつぶつ言ってたみたいだけど、何のことかわかんないや。
晴れて両想いなんて、夢みたい。胸がふわふわして、今なら空だって飛べちゃいそう!
昨日より今日、今日より明日、明日より明後日。十年後より二十年後。百年後より二百年後。私はきっと藤哉くんがもっともっと好きになる。
だからそばで見ていてね。きっときっと、大丈夫だったって安心できるから。ひとりぼっちの時間はもう、おしまい。これからはずっと二人で一緒だよ。