あなたが私で、君が僕で。

 大赤砂海にはキングデシェレトの霊廟の遺産をはじめとした古代遺物が数多く眠っている。
 教令院の因論派の一席に身を置く藤哉は、ちょうど最近発掘されたという謎の遺物について調査を進めているところだった。見た目は古びた機械遺物のそれだったが、その形状から用途を推測するには、彼の幅広い知見を以てしても難航を極めた。
 知恵の殿堂で缶詰状態が続くこと数日、気分転換とアプローチの方向性を変えるため、藤哉はこれを自らの拠点に持ち帰ることにした。無論、危険性がないことを入念に精査した結果である。扉が開くと同時、久しぶりの帰宅となった藤哉を出迎えたのは、変わらぬ恋人の「おかえりなさい!」という明るい声と笑顔だった。

「ただいま」

 軽い返事と共に、カウチに身体を預ける藤哉は、何だか疲れて見えた。気を利かせたルリが稲妻産の濃いお茶を淹れて持ってきた。「お疲れさま」と差し出されるそれに口をつけると、僅かに力が抜けた気がした。

「何か困りごと? 私で力になれることはあるかな?」
「いや……。そうだね、正直なところ手詰まりだ。君の奇想天外な発想も役に立たないとは言い切れないな……これ、君には何に見える?」

 そう言って藤哉が差し出した機械遺物を見つめたルリは、うーん、と思案する。真ん中にあるコアからは微弱な元素を感じられたが、それだけだった。

「お人形……かなぁ……?」
「君にはこれが人形に見えるのかい?」
「はっきりそうだって言うより、何となくだけど……ほら、この両側の部品。腕に見えないかなぁって」

 言われてそう見ようと思えば見えなくもなかった。だがそうだと仮定するのであれば、この場合はもっと相応しいものがあるだろう。

「……振り子か」

 藤哉はもう一度機械遺物に視線を向ける。コアの元素の流れを見てから、ある仮説が浮かんだ。

「ルリ。僕と同時に元素を流し込め。おそらくだが、何らかの反応が見れるはずだ」
「う、うん、わかった」

 掌をコアに向け、「せーの」で風元素と雷元素を流し込む。拡散反応が起きたそれは、コアが光ると同時、機械遺物へと吸収された。
 チカチカと点滅する人形。両側の振り子が紫色に輝いた。

「えっと、これって……成功、したの?」
「そのようだが……待て、何かがおかしい」

 瞬間、目も開けられないほど眩い光が辺りを包む。悲鳴と共に光に飲み込まれた二人が次に目を開けた時には、信じがたい光景が広がっていた。

「っ、ルリ、無事か」
「う、うん……何とか……」

 最初に違和感に気づいたのは藤哉だった。妙に自分から発した声にしては違和感がある。返ってきたルリの返事も、口調は彼女そのものだというのに、やけに低かったような気がした。そう、まるで……少年のような――。

「っ!?」
「ええっ!?」

 光が収まり、視界が戻ってくると、二人は目の前の光景に驚愕した。

「わ、私が二人いる〜〜!?」

 両頬に手を当て、あわわと慌てふためく見慣れた少年の姿に、藤哉はげんなりとした表情で間髪入れずに訂正する。

「違う。――僕たちの身体が入れ替わったんだ」

 はてさて、とんでもないことになってしまったと、藤哉は頭を抱えた。向かいには見たこともない間抜け面を浮かべる自分の姿。かくして、突如降りかかった災難に、二人は奮闘する羽目になるのだった――。