眠れないまま見た夢
それは眠れないままに見た、夢のような夜だった。
いつものように夜な夜な家から抜け出し、魔物を相手に着実に力をつけていたローエンは、ローゼマリーに仮眠を取るように勧められ、ぼんやりと両目を覆っていた。沈黙の中に宿る僅かな息遣いに、彼女は柔らかに声をかけた。
「眠れないの? それなら子守唄でも歌ってあげましょうか?」
その声はどこまでも穏やかなものだった。自分よりひとつ下であるはずのこの少女は、驚くほどの包容力を時に見せてくる。その柔らかさがローエンは嫌いではなかった。
「俺をガキ扱いか?」
「ふふ、いいえ。特別扱いよ」
「そりゃ光栄なことで」
軽口とわかっていながら乗る戯れが、甘い空気を運んでくる。花の香りだ。近づいてきたローゼマリーの指先がそっとローエンの両目に触れる。「さぁ、目を閉じて……」素直に従った彼に、ローゼマリーが微笑んだ気がした。すうっと吸い込んだ空気が、音に変わる。不思議だ。ローゼマリーの歌はどこか懐かしかを感じる。聞き馴染みのないメロディが、ゆっくりとローエンを眠りの世界へと誘う。ローゼマリーの調合する凶悪で、強力な薬とはまた違う、形容しがたいものがそこにはあった。
ゆっくりと霞んでいく視界の中、嫋やかな指の隙間から覗いたローゼマリーの姿を、ローエンは静かに見つめた。
「……おやすみなさい、ローエン」
その日は星の降る夜だった。そうであったはずなのに、覚えているのはその穏やかな歌声と、意識が落ちる前に触れた、額に残る柔らかな唇の感触だけだった。