人魚の歌に耳を澄ませ
夜の帳が下りて、星の囁きが煌めいて。柔らかな歌声と共に、澄んだ湖にちゃぷんと跳ねた波紋が静かに広がった。
どこか子どものような仕草に対して、水面を踊る彼女の爪先は、さながら貝殻のように美しかった。ローエンはその様子を静かに見つめていた。濃藍を映した水面に、そっと星が揺らいでいる。美しい夜だった、きっとそれは、美しい夜だったのだ。
——けれどそれ以上に、その|女《ひと》が、ローエンの目を惹きつけてはやまないだけで。それはきっと、美しかったのだろうと、彼は思うのだ。
「……っ、ぁ……何? ローエン……」
すーっと、彼の指先がローゼマリーの細腰をつたい、太腿をなぞる。ゆっくりと、その滑らかな感触を確かめるようなそれは、下へ下へと進んでいく。戯れにしては、そこには独特の湿度が滲んでいるのを感じた。
「ん……擽ったいわ」
返事はない。いつの間にかもう片方の腕は、ローゼマリーの腰へと回っていた。ゆっくりと這わされるその指先がもどかしさと熱を運ぶ。「ろー、えん」歌声の代わりに、囁きが鼓膜を擽っていく。はぁ、と吐き出した息は温くて。振り返って見上げた彼の表情は、無機質で。それでいて、確かな熱を瞳に宿しているものだから、ローゼマリーは少しだけ、困ってしまった。
「嫌か?」
「……いやじゃないから、困っているの」
だって貴方、私に拒絶されるなんて、少しも思っていないんでしょう?
その通りだった。彼の瞳が満足げに弧を描く「よくわかってるじゃねぇか」なんて、こんな早急なことったらないわ。
ローゼマリーの沈黙にローエンはふっと笑った。薄く染まった頬はこうも暗くてはよく見えない。けれど、十分だった。その瞳に宿る熱は、ふっくらとした唇は、彼の欲しい答えをそうやって与えてくれたのだから。
「さぁ、お姫様。お望みのものは何でしょう?」
戯けた声音に、そっと彼女の手を取って。ローエンはその先を待っていた。
わかっていて聞いているのは、言わせたいからなのだと理解して、ローゼマリーはふっと微笑む。
「……そうね、あまぁいキスがいいわ。とっておきの……ね」
「——仰せのままに」
噛みつくような仕草とは反対に、触れた唇は柔らかで、小鳥が喋んではまたそれを繰り返すように、甘いものだった。リップ音が小鳥みたいね、なんてくすくす笑うローゼマリーに、ローエンもくっと喉の奥を鳴らす。
背中に回っていた指先が、そっと頬へとつたう。滑らかな肌をなぞるように、確かめるみたいに。戯れに伸ばされたそれが、ローゼマリーは好きだった。
耳に触れた指先が輪郭を確かめるように沿う。柔い耳朶を指の間に軽く挟んで、それからそっとローエンは両耳を覆う。交わす唇、絡められた舌先の音が頭によく響いた。ちゅぷ、と木霊する音は何だか不思議。同じ水音でもこんなにも違う。こんなにも、違うのは、これが愛の音だからだろうか。微かに震えた睫毛が僅かに開く。ローゼマリーの美しい瞳に映ったのは、月光でも何でもなく、鋭い光を帯びた捕食者の目だった。
「ん、ろーえ……」
「ちゅ……こら、逃げんな」
「ぁ……ふ、逃げて、ない……わ」
「はっ、どーだか」
体格差なんて殆ど無いと思っていたのに。こうしてしまえば、その差は歴然だった。空気を求めて喘ぐように、ローゼマリーがぱくりと口を開けば、その隙を見逃さずローエンの唇が捕らえる。震える身体をまるでいい子にしてなとでもいうように抱きすくめられて。堪らずあっ、と喘ぐローゼマリーの頭をローエンはゆっくりと撫でた。
「っ、ぁ……ろー、えん……」
「ん?」
「ここじゃ、いや……だわ」
濃藍の広がる夜は、それはそれは幻想的だけれど。お伽噺のように、溶け込んでしまうのも素敵なのでしょうけれど。それでもふたりは、物語に描かれるような悲しい恋ではなくて、ただの愛し合う、どこにでもいる恋人たちなのだから。その戯れも、ふたりだけの秘密にしたいと思うのは、自然なことだった。
ローゼマリーの懇願に、ローエンはふっと笑う。「ああ、わかってる」自分だけの人魚姫の全ては、自分だけが知っていればいいのだから。例えそれがローゼマリー自身であったとしても。それは同じことだった。
「ん、ふ……っ、あ……」
ふたりだけの秘め事は、甘やかな時間をもたらした。月明かりとも違う、サイドテーブルに小さな明かりをひとつだけ。ぼんやりと夕暮れにも似た色合いが、ローゼマリーの肌を照らしていた。
はだけられた胸元から、ローエンの指先が覗く。初めはふっくらとした膨らみに沿うように動いていたそれも、今はやわやわとその感触を楽しんでいるようだった。思わずと言ったように「お、すげ。揺れてら」なんて感想をこぼすローエンに、控えめに抗議するようにじっと見つめてみれば、あの時は気づかなかった、頬の赤みが微かに見えた気がした。
「……俺の顔に何かついてるか?」
「ふふ、ええ……そうね。薄桃色の花びらがついてたわ」
すっと伸びたローゼマリーのしなやかな指先が、ローエンの頬に触れる。とっくに自覚していた彼は、やれやれというように息を吐いた。
「そりゃ、よく咲いてんだろうな。何せ好きな女と見てんだから」
「貴方のそういうところ、好きよ、私」
「はっ、知ってる」
頬に添えられたローゼマリーの手を掴んだローエンは、そのまま手首の裏へと口付ける。ちろりと出した舌が、そっと手首を濡らした。
そのまま指先を絡めて、恋人繋ぎをして。もう片方のローエンの指先は、可憐な蕾へと伸ばされる。外気に触れて、少しだけ膨らんだ薄桃のそれをなぞっては、ぴんと指先で弾いてと小刻みに繰り返す。微かにこぼれ出る吐息が甘くなるにつれ、その動きは大胆に、繊細にと動かされ、くるくると捏ねられる頃には、もう片方の蕾は温かな口の中へと貪られていた。
「んっ、ぁ……っ、ふ、ぁ」
リップ音が奏でられる傍らで、ローゼマリーはぴくぴくと身体を震わせていた。こぼれ出そうな声を噛み締めながら、しなやかな足がシーツを爪先で弾いていた。
(へぇ、ここが弱点か)
随分と感度がいい。ちろりと舌先で舐っても、弾力を楽しむように押し込んでみても。ちゅっと強めに吸い付いてみても、ローゼマリーの身体の反応は顕著だった。試しに軽く歯を立てればなおさらだ。もう片方もやわやわと揉めば、手のひらにピンと立ち上がった蕾から、こりこりとした感触が伝わってくる。甘い香りがする。花の匂いだ。何の花なのかはわからない。ローゼマリーから漂うこの香りは、いつもそうだった。
「ちゅっ……、ぢゅっ……ふ」
「ぁ…っ、ん……ふ、ぅ……♡」
ローゼマリーの声が一層と艶を帯びる。くにくにと立ち上がった乳首を指先で弄んで、吸って、舐って。そのたびにぴくぴくと跳ねる身体は、耐えきれないようにローエンの頭をその柔い両腕で包み込んだ。柔らかな膨らみに顔面を押し付けられたローエンは、これ幸いとばかりに密かにその柔らかさを堪能する。甘い花の香りがダイレクトに響いて、くらりとした。スラックスの中で熱が昂ぶっていくのを感じながら、ローエンはすっとローゼマリーの拘束から逃れて上体を起こす。手のひらに残る手袋の感触が無性に邪魔になった。歯に引っ掛けて素早く抜き取ると、はだけさせていただけの服を今度は丁寧に、けれど有無を言わさぬ所作でローエンはローゼマリーの身体から剥ぎ取っていった。
「ん、ローエン……恥ずかしい、わ」
「おいおい、お楽しみはこれからだぜ。これからもっと恥ずかしくなるってのに、そんなんで大丈夫か?」
そういうローエンは脱いでないじゃない、と言いだけなローゼマリーの視線に、ローエンはくすりと笑う。
「マリーも俺の裸に興味あんのか? 意外とムッツリなんだな」
「っ、ローエン!」
「冗談だよ」
喉の奥をくくっと鳴らすローエンは、何だか楽しそうだ。揶揄われたローゼマリーは眉を垂れさせる。困った人。何だか今日は随分と浮かれているみたい。初めてだらけのことで、こんなにも恥ずかしいのだけれど、彼のこの様子をみてしまったら、どうしましょう。怒るに怒れないわ。
まるでプレゼントの包装を剥がすみたいに、ローエンの瞳が段々と露わになっていくローゼマリーの肢体を見つめる。恥ずかしくて、きゅっと手で隠そうとすると、そっとローエンの指先が絡まってやんわりと止められた。
「さっきも思ったが……こりゃ絶景だな」
「っ、ローエ……もう……」
それ以上は言わないで、と恥ずかしげに目を伏せようとするローゼマリーの顎をそっとすくったローエンは、そのまま静かに唇へと口付ける。かわされたキスは短くて、けれどぼうっとした。甘い痺れにも似た感覚は、まだ、慣れない。
「全部、俺んだ」
ローゼマリーの瞳が、ゆっくりと瞬く。薄桃色の花びらが、先程よりも濃く見えた気がした。胸へと顔を埋めたローエンの口から吐かれる吐息が掠れていて。生暖かい熱が、随分と熱く感じられた。
「ロー、エ……、っ、あ」
不意に、ローエンの指先が太ももをなぞる。そのままゆっくりと、上へと登ってくる指先は、とうとうその最奥へとたどり着く。ドキドキと鼓動が忙しない。今にだって、部屋中に響きわたってしまうのではないかと思うほどに。そっと触れられた感覚はまったくの未知だった。
「ぁ、ふ……っ」
気持ちいいだとか、そういうことを感じるよりもずっと、それは不思議な感覚だった。触られている。恋人に。自分でも見たことのないような場所を、彼の指先が触れている。
顔を隠すように覆った両手。胸の先が腕に触れて、そこが濡れているのがわかる。つい先程までローエンに可愛がられていたところだった。その感覚をまた思い出して、お腹の奥がきゅんと疼く。彼の碧に浮かんだ赤い瞳孔が、きゅうっと細待った気がした。
「っ、あ、ロー、エン……」
そっと、ローエンの左手がローゼマリーの両腕を解く。急なことに驚く彼女の視界に彼の顔がいっぱいに広がった。
すうっと細まった瞳は獲物を狩る捕食者のそれにも似ていて。たっぷりと蜜を含ませるようにして、ローゼマリーの耳に囁く。
「やらしぃ奴」
蜂蜜のように粘土のある甘い囁きと共に、ぷっくりと立ち上がった胸先の蕾をぴんと弾かれる。途端に悲鳴じみた甘い声を上げるローゼマリーを、ローエンは口元に弧を描いてじっと見ていた。
「あっ♡ ち、ちが……っ、違う、わ……♡」
「はっ、どーだか。ちょっと触ってやっただけで弱々じゃねぇか♡」
「んっ♡ あっ♡ ちが……♡ ちがっ、ぁんっ♡」
くりくりと摘んで、捻って、擦って、弾いて。その度にびくびくと震えては跳ねる身体の反応をみれば、一目瞭然だった。「なぁ、マリー」少年特有の低くも甘さを残した声が耳に囁く。それだけでぴくりと腰が跳ねそうだった。ん、とまともな返事すらできないローゼマリーを見つめるローエンの瞳は、どこか暗い星のような神秘を湛えていた。
「何の音か分かるか? すげぇ音してんの。これ、ぜーんぶマリーが感じて出たもんなんだぜ」
──すげぇよなぁ。人体ってのは。同じ人間だってのに、男と女ってだけでこうも違ぇんだから。
好奇を隠しもしないローエンに、ローゼマリーは恥じ入るように「や、言わないで……」と顔を覆い隠す。恥ずかしくて、恥ずかしくてたまらなかった。言われなくてもわかるくらい、濡れているのが自分でもわかる。ローエンの右手の指先がくるりと緩く中を行き来しては、戯れのようにすぐ上の敏感な突起に触れるものだから、なおさら落ち着かなかった。
「あっ♡ ん、ふ……♡ ろー、え……もう、私……っ」
「んー? ひょっとして、それはおねだりか?」
「んっ、ぁ♡ っ、ふ♡ はぁ……♡ あっ♡」
「なぁ、マリー。どうなんだ? 言わねぇとわかんねぇぞ」
嘘つき、とローゼマリーは心の中でローエンを小さく詰る。どこか楽しげな声音も、うっとりと細まった瞳も、ただただ、ローゼマリーに言わせたいだけなのは見え見えだった。
もどかしげにゆるゆると敏感な突起に触れる指先も、中途半端に放置されたまま、ツンと尖った胸の先も。どうしてほしいかなんてわかりきっていた。声に甘い吐息が混じるすぐ傍らで、ローエンの低く掠れた声が耳に囁いた。「マリー……」まるで甘えるみたいに、ローエンは片頬をローゼマリーの胸に擦り寄せる。そっと指の隙間から垣間見えたその表情は、どこか恍惚にも似た甘さを描いていた。言ってくれるよな、と言わんばかりのその仕草に、ローゼマリーはきゅっと目を瞑り、こくんと小さく頷いた。
「……て…………」
「ん?」
「し、て……めちゃくちゃに……して……っ」
「──ああ、お望み通りに。お姫様♡」
その瞬間、今までの緩やかな刺激が嘘のように、快楽の名をした荒波が押し寄せる。抱き起こされたかと思えば、グリグリと硬い何かが秘芯を刺激し、小さな蕾を蹂躙する。同時に、たっぷりとした柔胸を鷲掴みにされたまま、吸い尽くされた蕾がカリッと痛みと共に甘い刺激をもたらす。突然の強烈な刺激に耐えられるわけもなく、ローゼマリーは視界にチカチカとした星が散るのを感じながら、白い海に甘い嬌声を上げた。
「っ、ぁあ〜〜っ♡♡」
びくびくと痙攣する身体も、中が収縮する感覚も全くの未知だった。ぴちぴちと跳ねる華奢な体躯を抱き込めたローエンは、そのまま構わず胸先を吸っては噛んでと繰り返していて、閉じた瞼は今にも鼻歌を歌いそうなほどにご機嫌で、ローゼマリーはなすすべもなく、ローエンが与えてくる甘い快感を享受するほかなかった。
ちゅっ♡ ちゅっ♡ と可愛らしいリップ音が奏でられる。柔らかい胸に赤い花びらを次々と咲かせては、ぢゅるぢゅると胸先を吸い、かぷかぷと肌に甘噛みを繰り返す。そうしていくつかの歯型がつくと、やっと満足したようにローエンは乳首から唇を離し、息を整えながらだらりと弛緩するローゼマリーの身体を解放した。
「はぁ……はぁ……♡ っ、んぅ……?」
ぼんやりとした意識の中で、ローゼマリーは何か違和感を感じた気がした。するりと、太ももに触れた感触には覚えがあった。「ろー、えん……?」回らない呂律のまま、ふわふわとそう口にした瞬間、下腹部に圧迫感を感じる。指よりもずっと、質量のあるその形にローゼマリーは瞳を瞠った。
「っ、あっ、……ろー、え……っ! ん、ぅ゛っ」
「は……く、っ」
ぐっと押し込めるように挿ってきたのは、彼の楔だった。初めて感じる圧迫感にローゼマリーはぱくぱくと口を開ける。押し返すような抵抗感に、ローエンはくっと眉根を寄せた。
「マリー……少し、力抜いてくれ……っ」
「ぁ、ま、まって……ろー、え……だめ、もう、はいらな……っ、む……り、だわ……っ」
「無理じゃねぇ、入るようにはできてんだから、あともうちょい……」
まだあるなんてやっぱり無理だと、ローゼマリーはきゅっと唇を噛みしめる。指なんて比べ物にはならない圧迫感だった。熱くて、今にも溶けてしまいそう。
お腹の奥を押し広げられながら、徐々に楔が埋まっていく。やがて全て収まったのか、彼にしては深い、掠れた息が吐かれた。
「っ、ぁー……」
ぴとりと、肌と肌が触れ合う感覚に、どきりとした。聞いたこともないようなローエンの息遣いが鼓動を早める。何かを考える余裕なんてなかった。「ろー、えん……」口に出したのは囁きにも満たない譫言で、けれどその呼びかけは確かに、彼に届いていた。
「やっべ……わり、マリー……あんま、保たねぇかも……」
「……? ろー、え……っ、ぁ……??」
「っ、……」
ゆっくりと抽送をはじめるローエンに、ローゼマリーは何がなんだかわかっていない様子で、ぱくぱくと喘ぐ。身体の内側から責められて、身体が揺さぶられる感覚はそれまでのどれとも違った。この夜は知らないことばかりはじまって、ローエンにまたひとつ、またひとつと教えられて、翻弄されてしまう。ぼんやりと見つめたローエンの表情はよく見えない。ただ、初めて見るような顔をしていた気がした。息遣いは荒く、低く掠れた声が聞こえるたびに、お腹の奥がきゅんとして、ローゼマリーは何度も何度も、彼の名前を呼ぶ。きゅうきゅうと締め付ける中の動きに、ローエンははっと息を吐いた。
「っ、く、っ……」
「ぁ……ろー、え……っ♡」
「ふ、っ……ばか、あんま締めんなって……っ」
そんなこと言われてもと、ローゼマリーは困ってしまう。まったくの無意識だった。いつもは飄々とした態度を崩さない彼が、急に少年みたいに見えた。ぐっと息を殺して、奥歯を噛みしめたローエンが、仕返しとばかりに胸を鷲掴む。ちょっとだけ、苛ついているような、そんな雰囲気だった。
「ったくよぉ……せっかく人が優しくしてやってんのにお前ときたら……」
「ろ、ロー、エン……? きゃっ、あんっ♡」
無遠慮にたゆんとした両胸を揉むローエンの瞳はどこか据わっていて、それと同時に打ち付ける腰の速度も上がり、彼の気性をそのまま表すように、ふたりの情事は荒々しさを増した。
「ただでさえでけぇ胸が目の前で揺れてこっちは今にも暴発しそうだってんのに……呑気に誘惑たぁ、随分と余裕があるみてぇだな……?」
「あっ♡ ちが、違うわ……♡ ちが、ちがう……♡ あっ、あぁんっ♡」
「おーおー、いい声で啼いてらぁ。これじゃ聞くまでもねぇ──なぁ!」
「お゛っ♡ お゛ぁっ♡ っ、あ゛あんっ♡♡」
ぱちゅぱちゅと音がなる。ぱんぱんと肌がぶつかる音、ベッドがぎしぎしと悲鳴を上げる音。つんと立ち上がった胸先の蕾はくにくにといじめられて、押し寄せる快楽から逃げるように腰を動かすけれど、それすら屹立がぐりぐりと奥を刺激して、更なる快楽が押し寄せてくるだけだった。
(だ、だめぇ……♡ ローエンの、おちんちんが……奥に……っ♡♡)
自分でもどうなっているのかよくわからない身体の内側を刺激されて、視界がちかちかする。とめどなく蜜がこぼれ落ちて、その抽送を助けることさえ、ローゼマリーを更に追い詰めてしまう。ゴツゴツと子宮の入り口を擦るように叩きつけてくる怒張にローゼマリーは力の抜けた身体をいいようにされるしかなかった。
「ロエっ♡ ロエ……っ♡ ロエぇっ♡♡」
「っ、は、……甘えてんのか? 可愛いやつ♡」
カプカプとローゼマリーの甘い香りがする柔肌に歯型をつけていたローエンがふっと笑う。満足そうな笑みは、彼の機嫌をよく物語っていた。
おかしくなりそうだった。ローゼマリーの下腹部はいっぱいいっぱいで、お腹の奥、上側を擦られるのがたまらなかった。つんと膨らんだ胸の蕾を摘まれて、噛まれて。自分でもわからない鱗を探し当てられたかと思えば愛でられて。本当に、おかしくなってしまいそうだった。
「ロエ……♡ きす、……キスが、した……っ、ん゛ぅ〜♡」
ぱくぱくと空気を求めて喘ぐように、ローゼマリーがそうねだるように両手を突き出せば、すぐにローエンの唇が重なる。それは先程まで交わしていた戯れのようなものではなく、もっと早急で、肉欲的で、ずっとずぅっと、いやらしいものだった。
「ふ、ん゛ぅ♡ は、ん……っ♡ ん゛ぐぅ……♡」
ぴったりと重なった唇が、ぐぐもった呻きを奏でる。求めたはずの空気はむしろ奪い取られるようで、ローエンの長い舌がローゼマリーのそれを絡め取っては、まるでそれこそが愛撫のように身動きなどできないほど一方的に押し込められる。唯一ローゼマリーに許された抵抗は、両足をばたばたとバタつかせることくらいで、けれどそれも余計に彼を悦ばせる刺激にしかならないほど、ローゼマリーはこの寝台の上で無力だった。
ローエンのがっちりと胸を掴んでいたはずの両手はいつの間にかローゼマリーの背に回っていて、ぴんと立ち上がった胸先が、彼のベストとシャツに擦れて、もどかしげに眉を寄せた。
「ぷはっ」
「はぁ……! はぁ……、はぁ……っん、ふ……は……ろー、えん……」
「……ん」
「ぬい、で……さみしい、わ……」
のぼせたあがった表情で、潤む瞳のままそう懇願されたローエンは、口元に弧を描くと、そのまま軽いキスをローゼマリーに贈る。ちゅっと可愛らしいリップ音を鳴らして、手早く彼は上半身を露出させた。すっと割れた腹筋と、しなやかな体躯が綺麗だった。ぴとりと身体を寄せるローゼマリーの表情は、どこか安心しているようにも伺えた。
「っ、わり、マリー……もう、そろそろだ……」
「んっ、ふ……ぁ……っ♡ んっ、ぁ……っ♡ ぁあっ♡」
「って、聞こえてねぇか」
気持ちよくてそれどころじゃないって顔してんなとローエンはふっと笑う。そっと鱗をなぞると、ローゼマリーの身体がびくびくと震える。きゅうっと自身を締め付ける感覚も気持ちよくてたまらなかった。
ぱん♡ ぱん♡ と、肌と肌がぶつかる音がいやらしく響き渡る。ぐちょぐちょとした粘着質な音も、壊れそうなほどにギシギシと奏でるベッドのスプリングも、この胸いっぱいに広がる甘い花の香りも。すべてが興奮を掻き立てる材料にしかならなかった。
「マリー……」
掠れた声が囁く。熱に浮かされたような眼差しが、何だかとても切なくて、胸をきゅんとさせた。
「──好きだ」
その言葉と同時、ローエンは抽送を一層と激しくさせる。腰を掴まれて、奥へ奥へと打ち付けられて。ローゼマリーはただただ、喘ぐことしかできなかった。涙で滲んだ視界に、いつになく余裕のない顔をしたローエンが映る。熱に浮かされたような、快楽を堪えてこぼれ出る吐息が、そっと混じり合って、この夜に溶けていく。
(私も……好き、よ──)
貴方が好きだと伝えるように、ローゼマリーは腕を回す。快楽から逃げるように藻掻いていた足は、彼を受け入れるように腰へと回っていた。視界が明滅する。星が散ったみたいに、白波がすぐそこへと来ていた。
ローエンの唸り声にも似た低い音が喉から零れる。何かが弾けるような感覚と共に、ローゼマリーは果てを見た。
「っ、ぁあ──っ!♡♡♡」
「く、ぅ゛……っ!!」
収縮くる中の動きと一緒に、ローエンの屹立もまた、ぶるぶると震える。全てを出し切るように、ゆるゆると奥へ押し当てられるのにも、ローゼマリーはされるがままだった。
「はぁ……はぁ……ハッ、すげぇ有様だなぁ……」
だらんと力の抜けたローゼマリーの身体をようやく冷静に見つめたローエンは、その惨状にぽつりと感想をこぼす。そうとしか言いようがなかった。美しい白肌には薄紅の花びらと、それ以上に痛々しい歯型がそこかしこに刻まれていて、散々に虐めた自覚のある蕾は真っ赤に熟していた。
「マリー……おーい、マリー……だめだなこりゃ。気失ってら」
それもそうかとローエンは軽く息を吐く。間違いなく自分のせいであることは彼にもよくわかっていた。ばつの悪そうな顔を覗かせた彼は、ゆっくりとローゼマリーの中から自身を取り抜いていく。ごぽりと音がして、慎重に自分が出したものを始末しながら、彼はうげ、という表情する。我ながら、よくこれほどまでに出したものだ。生殖本能なんていうものをまざまざと感じざるをえなかった。
ローゼマリーの身体を綺麗に拭っていると、こりゃ目に毒だなとローエンは苦笑を浮かべた。吐き出して収まったはずの熱が、またすぐにでも昂ぶってきそうだった。いっそもう一発やるか、と邪な考えが過るも、あどけない表情で、すやすやと穏やかに寝息を立てるローゼマリーの姿をみたら、そんな気は失せた。なんだかずっと、その寝顔を見ていたいような気になった。サイドテーブルのランプを消して、窓から差し込む月明かりがローゼマリーを照らすのをローエンは傍らでただひたすらに見つめる。それだけで、彼は満たされた気がした。
美しい夜だった。濃藍の空に浮かぶ星々が、ふたりを祝福するように煌めく。小さく呼吸するその歌を閉じ込めるように、彼はそっと、プリンセスにキスをした。