過去の嫌な記憶
昼休み。今朝買ったメロンパンの袋を開けた時、ヤツは現れた。
「しけたツラしてんなー」
「げ、当真…」
「げ、とは何だよ。負け続けてんだって?」
さりげなくリーゼントは隣に座ってくる。彼の手にはおにぎりが3つとバナナ2本。コイツここで食べるつもりだ。
誰にも見つからないようわざわざ屋上階段まで来たってのに。
「何連敗よ?」
「さあ?数えてないよ、荒船じゃあるまいし」
「なに、荒船は数えてんのか?可笑しくね?」
「たまたまなんだって」
「ほー…」
「私もよく分かんないし荒船に直接話聞けば?」
「なるほどなー」
「おい話聞けよ」
これだから天才は付き合い切れん。
パクリとメロンパンにかぶり付けば甘さと幸せが口に広がる。咀嚼を繰り返していると隣からため息が聞こえた。
「なに?」
「おまえはノーテンキなもんだなと思ってな」
「はあ?当真に言われたくないんだけど」
いつの間に食べ終わったのか、彼ば立ち上がって見下ろしてきた。無駄に背が高いせいで見上げると首が痛い。
「とりあえず負け始めた原因探しでもしてみろよ」
それだけ言い残して当真はその場を去った。
なんなんだあのリーゼント。勝手に理解したのか納得したのか知らないけど、宙ぶらりんにされた私はどうしたら良いのか。彼の真意が分からない。これだから天才は。
もう一つの抹茶あずきパンには手をつける事が出来なかった。
教室に戻るとコンコンと当真が話していた。どうやら彼女に私の連敗原因を調べる手伝いをしてくれるよう話をつけているようだ。余計なお節介だっつーの。
結局コンコンの好意に甘えて放課後、鈴鳴支部にお邪魔することになった。
「あれ、今日他の人たちいないの?」
「隊長と太一は防衛任務があるからいないけど鋼くんは後から来ると思うよ」
「ふーん」
我が物顔でソファに倒れこんだ。その間にも彼女はPCを立ち上げ着々と準備している。真面目だ。
「ほらミトちゃん、こっちで一緒に見よ?」
「はーいママ」
「ママはやめて、せめてお姉ちゃんにして頂戴」
「おねーちゃーん」なんて言いながら隣に座る。コンコン曰く、これまでの個人戦を動画で振り返っていけば何か見つかるかもしれないとのこと。
早速、昨日の影浦との10本勝負から振り返り始めた。これ全部見直すのかと思うと罪悪感で心が苦しい。コンコン付き合わせてごめんね。
ああでもないこうでもないと2人で意見交換をしながらPCの前を陣取っていると村上がやって来た。
「あ、鋼くん」
「何やってんだ?」
「私の連敗原因を突き止めようの会」
村上はPCではなく、顔色を伺うように私を見る。申し訳なさそうに下がった眉はなんとも情けない。せっかくのイケメンが台無しだ。
そんな村上と私を交互に見たコンコンは瞬きを一つ。
「もしかして鋼くん、何か知ってるの?」
「…いや、オレから言うべきじゃないと思う」
「はあ?どういうことそれ」
さっぱり分からないのは私だけらしく、コンコンは何か閃いたのかPCを操作し始めた。
画面に映ったのは一週間前にやった10本勝負の個人戦。
「多分、鋼くんが言いたいのはこれじゃないかな」
コンコンは綺麗に切り揃えられた髪を耳にかけた。村上と目が合うと小さく頷いている。しかし、私は未だに分からなかった。
「これ久しぶりに荒船とやった時のだけど…なんでこれ?」
2人から返ってきたのはため息のみ。自ら気づけということなのか。
分かったのは荒船に負けてから私の連敗は始まっているという事だけ。
とりあえず付き合ってくれたコンコンにはお礼として抹茶あずきパンをあげた。
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