霞んだみかん色
「ってわけなんだけど、ひかりんはどう思う?」
ひかりん専用のコタツに入らせていただき、みかんを剥き始める。
この後米屋と緑川と個人戦の約束が入ってるけど、この天国から抜け出せるだろうか心配だ。きっと無理。
返答がないので顔を上げると、あんぐりと口を開けたひかりんの姿があった。
「うっわー…ミトは頭良いけどバカ」
「なんで」
「いやなんでそこまで分かってんのに分かんねーの?!」
「そこまでってどこまで?」
「うっわ…ドン引き」
みかんはちょっと酸っぱかった。ひかりんに無言で半分を渡す。
彼女は持っていた漫画を置いて、半分のみかんを食べ始めた。
「分かんないからひかりんに聞いてるんですう」
「いやいやいや…動画見てなんで分かんねーの?…ってナニコレ酸っぱ!!」
四分の一になったみかんをひかりんから受け取り、とりあえずミカンの皮の上に置いておく事にする。これ結構酸っぱい。
「お願い、ひかりん」
対ひかりん限定の必殺技、"素直に頼る"を発動すると、案の定彼女はニヤリと笑った。
「ったく、しょーがねーなあ!」
私は新しいミカンの皮を剥き始める。今度こそ甘いといいのだけれど。
「あらふねとの個人戦でいつもと変わった事は何かあったか覚えてる?」
「スナイパーに転向したせいか大分下手になってた」
「いやそういうんじゃない…」
彼女にしては珍しく歯切れが悪い。
新たに剥いたミカンはさっきとは打って変わって甘かった。酸っぱいのを押し付けたお詫びに半分をひかりんに渡す。
「じゃあスコア覚えてる?」
「たしか4回目までは全部私が勝ってたんだけど5回目に負けてそっから勝てなかった結果負けたはず」
ひかりんは半分のミカンが甘いと分かると二口で食べてしまった。もったいない。
私の返答がマトをかすったのか我らのオペレーター様はビシッとこちらを指差した。
「それ!それなんだよ!」
「はあ」
「その5回目の時、あらふねがなんか言ってたでしょ!」
「…なんか言われたっけ」
ひかりんは「はああ?!」と耳を塞ぐほどの大声を上げた。
「女として終わってる」だの「人でなし」だの色んな悪口を言われつつ、彼女にタブレットを突きつけられる。画面には荒船と私が近距離で向き合っていて、荒船が何か言ったのが見て取れた。
音声までは入っていないもののたった三文字。誰だって口の動きで分かる。
「"好きだ"って告白されてんじゃん!」
どくりと心臓が波打った。ゆっくり撫で付ける様に押さえつけ、何ともない様に口を開く。
「たぶん荒船はそういう意味じゃないと思う」
「じゃーどういう意味なんだっつーの」
「動揺させたかった、とか」
「負けてたから〜?あらふねはそういうヤツじゃないのミトが1番知ってるでしょ」
まっすぐに視線を投げられて言葉に詰まってしまった。ひかりんって目力めっちゃあると思う。
居たたまれなくなり、残された四分の一のミカンに目を落とした。
「…そういう意味だって思いたいだけって言ったらひかりんどう思う?」
視線を上げる。するとひかりんは目を見開いていた。彼女がなにか言いかけたその時。
「真田さ〜ん!あっそびましょ〜!」
「真田さんまだ〜?」
「真田さんおそ〜い」
唐突に作戦室に入ってきたのはA級3バカトリオだった。途端に肩の力が抜ける。
「ありがと、ひかりん」
「…やっぱミトはバカ」
さっきまで抜けだせるわけないと思っていたコタツからすんなり出る事ができた。
「このミカンどーすんの」
ひかりんの声に振り返る。すっかりあの酸っぱいミカンを忘れてた。
捨てるのも勿体無くて口に放り込む。最初食べた時よりちょっと甘く感じるのは気のせいだろうか。
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