生ぬるい優しさ
「で、10本勝負で個人戦の約束したんだ」
「そーなんだよ、充〜もう負けたくないよ…」
時枝家の猫たちと戯れながら充に相談するのは何度目だろうか。
ごろりと横になるとお腹の上に猫たちが容赦なく乗ってきた。地味に重い。
「何連敗してるんだっけ」
「そんなの忘れた…」
「嵐山さんも心配してたよ」
嵐山さんまでとなると少しヘコむ。
突然、時枝家の猫の片割れ、アーサーが私の鳩尾を思いっきり踏んづけてきた。あまりの衝撃にうめき声しか出ない。
察した充がアーサーを引き取ってくれた。お腹をさすりながら一息つく。
「認めろとか分かれとか皆うるさいし何をどう認めろってんだ」
その時クッションが顔面にぶつかった。何かを察したのかもう一匹の時枝家の猫、とみおはのそのそとどこかへ去ってしまった。
「本当は分かってるくせに」
クッションから顔を出すといつもの眠そうな目で充がこっちを見ていた。
この目で彼はいつも私を見透かす。けれどそれが嫌ではない。むしろ安心する。それは幼馴染だからだろうか、それとも多少血が繋がってるからだろうか。
「ミトが認められない理由でもあるの?だって少し前まで荒船先輩のコト好きだったよね?」
質問形ではあるもののほぼ確信を得ている言い方だった。理由が分かっててもそれを聞き出して整理させてくれる。それが充の優しさだ。
充の言う通り、二週間前まで荒船が好きだった。もちろん異性として。
なのに何故個人戦中の荒船の告白をなかったことにしたいのか、私の気持ちを知る充から見たら理解できないと思う。
「少し前にボーダーの女の子達が荒船のコト話してたのを聞いてさ。まさかあんなに人気だと思わなくて」
「それで自分には釣り合わないから諦めようとした、ってこと?」
「あと仲良くしてたクラスメイトの子が荒船のコト好きだって知って」
起き上がってクッションを充に投げ返す。偶然にも顔面に当たってしまった。故意が全くなかったとは言い切れない。
「蓋をした気持ちをもう一度引っ張り出す労力って意外と必要なんだって」
「労力じゃなくてミトの場合、勇気だよ」
「たしかにー」
可笑しくもないのに笑えるようになったのはいつからだろう。歳を重ねるごとに上手くなる気がする。
彼相手に意味がないのは分かっていながらもケラケラと笑わずにはいられなかった。
充がまたクッションを投げてきたけど今度はキャッチ成功。
「きっと明日、荒船先輩と個人戦してみれば答えが出るよ」
クッションに顔を押し付けて「だといいなあ」と呟く。
隣で良い子にお座りしていたアーサーが「ニャオ」と小さく鳴いた。励ましてくれてるのだろうか。いや、さっき鳩尾に一発入れてきたヤツだ、嘲笑ってるに違いない。
頭に軽い感触があり顔を上げると充に頭を撫でられていた。年下にあやされて、猫にナメられてるってどゆこと。
少し悔しくて充の綺麗なボブを掻き乱してやった。そしてアーサーには手を出したら引っ掻かれるのは体験済みなため、威嚇するだけに終わった。
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