伝えたい気持ち
ついにやって来てしまった、この日が。荒船と個人戦をやるだけだというのにこんなに気が重い。
どこから噂が回ったのか、学校に着いた途端、同じクラスの当真や国ちゃんはもちろん、他クラスの影浦、穂刈、挙げ句の果てには他学年の米屋、出水、佐鳥にまで今日やる個人戦について色々聞かれた。どいつもこいつもニヤニヤしてるのだからタチが悪い。
いざ始まるとなると観覧室には多くのボーダー隊員で溢れかえっていた。
それを見た私が即座に帰ろうしたものの、3バカに捕まり連行されたのは言うまでもない。
こんな大勢何してんだ、暇人か、なんでA級全員いんだよ、任務しろよ、訓練しろよ、鬼怒田さんアンタなんでこんな所いるんだ…口が悪くなるのもしょうがない。
ちなみに今日一日、荒船とは一度も話してないし目も合わせてない。それが尚更気分を重くさせた。
イヤイヤながらも3バカに引きづられて個人戦の部屋に押し込まれる。転送された先では荒船が静かに待っていた。
左手にスコーピオン、右手にアステロイドを携えて準備万端。開始の音が聞こえたと同時に飛び出す。荒船も孤月を構えて応戦してきた。
何合か切り結んだ後、隙をついてアステロイドを撃ち込み荒船がベイルアウトした。
二戦目、三戦目、四戦目も私の勝利で終わった。そして五戦目。
開始直後の向かい合ったその時、初めて目が合った。それまで私が無意識に目を合わせようとしてなかった事を自覚したと同時に、目を合わせてしまった事を激しく後悔した。
切れ長の目が私を射抜く。まるで彼のイーグレットで撃ち抜かれたみたいだ。動くこともできず蛇に睨まれた蛙状態。
ただ思うことは一つ。やっぱり私は彼を諦めきれてないらしい。無意識に口が動いていた。
彼が目を見開いてから自分が何て言ってしまったのか気づく。すぐに自主的にベイルアウトした。
やってしまった、しかも大勢が見てる中で。
軽い衝撃と共に落とされたのは無機質なベッドの上。これが家だったら良かったのに。
私は急いでパネル操作をして棄権を選択する。その間も顔が燃えるように暑かった。
観覧室に入っていくのは憚られたけど、そこを通らないと安全な家には帰れない。
意を決してドアノブを握ると勝手に回った。ハッと気付いた時にはもう遅い。ドアが開くと息を切らした荒船が立っていた。
トリオン体ではなく生身なのか、トレードマークのキャップは被っていない。
「なん…で…」
「なんではこっちの台詞だっつーの」
ツカツカと歩み寄ってくる荒船の気迫に押されて後ずさりする。
「いや、あれはなんていうか、あ、そう!荒船の真似っていうか」
「少し黙れ」
頭を掴まれたかと思うと荒船の顔が至近距離で映り、唇に何かが触れた。振り解こうにも両手で頭を固定されて為すすべはない。
離れた唇が少し名残惜しいと思ってしまうのは何故だろう。こっちを見つめる目に私しか写っていないことに優越感を感じるのは何故だろう。
そんなの全て、この人が好きだから。
「そんな目で俺を見るな、抑えられなくなる」
「そんな目ってどんな目?」
「…俺が好きでたまんねーって目してる」
「……お互い様でしょ」
恥ずかしさと嬉しさが混ざり合って気持ち悪い。
込み上げる何かを抑えるように私たちは笑い合って、もう一度キスをした。
-6-