嘘発見器


「その人、ウソついてるよ」

幼い私がそう言った。
ごく稀に夢を見てるのだとわかる時がある。今がそう。いつも見る夢。

人は皆嘘をつく。人を欺くため、騙すため、守るため。年を重ねれば重ねるほど数は多くなり規模も大きくなる。残酷な嘘、可愛い嘘、綺麗な嘘、汚い嘘、美しい嘘、幼い嘘、精巧な嘘。それらの嘘に気づいた時、人は嘘ではなく真実を問う。それがいかに人の心を抉り、なおかつ人間関係を傾かせるのだろうか。

幼い私は無邪気で純真無垢だった。そんな幼い私は、何故かどんな人でも嘘をつけば直ぐに分かった。聞こえは良いかもしれないが、それがいかに残酷であるか。

誰かが誰かを守るための嘘、罪から逃れるための嘘、些細な嘘、私を守るためにつかれた嘘さえも全て嘘だと見抜いてしまう。超能力者、異端者、救世主、外道、天使、悪魔。世間は幼い私を好き勝手に賞賛し罵倒した。

分かりたくて分かるわけではない。
ただ気づいてしまう。
本当の答えを求めてしまう。
他人と同じことなのに何故騒がれるのか。

幼い私には理解できなかった。


ピピピピーーー

目覚ましの音で意識がはっきりしてきた。布団から腕を伸ばし音の出所を探りパチリとボタンを押す。起き上がるとじっとりと寝間着が背中に張り付いているのが分かった。

私はまずパソコンを起動し、パソコンのメールを確認しながら朝ごはん。ふとカレンダーを見ると今日の日付に赤ペンで丸く囲ってある。

今日の予定は午前と午後に情報収集、夕方からトロピカルランド。1人でトロピカルランドなんて虚しいのは目に見えてるけど仕方ない。手段を選ばせてもらえるほど生易しい相手ではない。

ポシェットにメモやらハンカチやらを詰め、最後に愛用しているシグ、またの名をシグ・ザウエルP230SLを入れる。これは16歳の時に両親から授かり、以来手に馴染ませてきた。今となっては1番の相棒。

玄関まで出てから忘れ物に気づいた。慌ててパンプスを脱ぎデスクの引き出しから“FBI”と書かれた身分証明書を掴む。これもまたポシェットに突っ込みながら、再び玄関に戻る。

「いってきます」

ようやく出発。ドアを閉め鍵をかける。さあ、今日はどんな情報を掴めるだろうか。

▽▲▽


午前は情報収集のため、愛車のシルビアで目ぼしい所を巡りまくった。しかし結果は何も掴めず。要領の悪い面倒な方法だとは思っているが、案外これが当たる時は当たる。

情報収集というのはもちろん黒の組織について。黒の組織は私にとってこの世で最も憎く破滅を望む物。彼らにはFBIだった両親を殺されたのだから必然とこうなる。それに友人たちも拘束されているのだから恨まない理由はない。
ちなみに今目の前にいる友人もその一人。

「名前ちゃん、どうしたの?少しお疲れ?」
「あ、大丈夫です。ぼうっとしちゃって…すみません」

一緒にお昼ご飯を食べていた明美さんが心配そうにこちらを見ていた。明美さんは私と色々な繋がりがある人で仲良くさせて頂いている。

私は彼女が黒の組織の一員だと知っている。その上で仲良くなれるのは私としてはあり得ない話だけれど、明美さんはいい人すぎるんだもの。逆に彼女には私がFBIとは言っていない。しかし何だかんだ気づかれている様な気もする。

「大学忙しいの?」
「ちょっとだけですよー。明美さんこそ最近どうですか?」

何気なくサラダを口に運びながら聞いてみる。明美さんは少し体を震わせ持っていたフォークを置いた。黙った彼女を不思議に思い顔を上げる。

「実はね、組織を抜けるかもしれないの」

私の手からフォークが滑り落ちた。
理解しがたい言葉が頭を駆け巡り何度も考える。組織を抜けるかもしれないと明美さんは確かに言った。組織がそんな簡単に抜けることを許すはずがない。それでも少しでも希望を見てしまうのは愚かなのか。

深く息を吐いてフォークを拾い平静を装って明美さんの話を詳しく聞く。彼女いわく、とある案件を片付ければ彼女と彼女の妹の志保ちゃんも組織から抜けられるらしい。

「本当ですか…?騙されてるんじゃ…』」
「うん、薄々そうじゃないかって思うの」
「なら何で…」
「賭けてみたいの。一欠片でも自由になれる希望があるなら」

そう言った明美さんは澄んだ瞳で真っ直ぐに私を見つめていた。人の眼には何でこんなにも力が篭るのだろう。硬く強い決意が痛いほど感じられる。

「だから今日会うのが最後になるかもしれないの。もちろん!成功して抜けられたら今まで以上にもっと遊びましょ!志保も一緒に」

明るく優しくいつものように言う明美さんに私はただ頷くことしかできなかった。嘘じゃなくて本心から言っているのが分かったから。

「それとこれ、今度会う時まで預かってて欲しいの」

テーブルの上に置かれたのは一つの封筒。真っ白なその封筒は何も書かれていなかった。

「これは…?」
「これはね、志保に宛てた手紙なのよ。それを貴女に預けて…つまり戻ってこれる様に願掛けってわけ!」
「それなら預かるしかないですね」
「お願いね!頼んだわよ!」

白い封筒を私は震える手で確かに受け取った。友人が死んでしまうかもしれない、また大切な人があの組織に命を奪われてしまうかもしれない。それなのに何もできない自分が歯がゆくてならない。

私は明美さんの眩しいくらいの笑顔を目の裏に焼き付けるように見つめ続けた。

〜細かい設定〜
大学院生。実はFBI捜査官。銃の腕前はそこそこで黒の組織を恨む気持ちも人一倍。
どんな嘘でも見抜く才能をもっている。