明美さんと別れた後、午後も情報収集の予定だったがどうしてもやる気が起きなかった。
車はレストランに駐車したまま、隣にある公園のベンチに腰掛ける。ポシェットから白い封筒を取り出すとさっき焼き付けた明美さんの笑顔が脳裏をよぎった。

明美さんは優しくて明るくて気さくで黒の組織の性質とは真逆な人だ。そんな彼女と仲良くなれた理由は繋がりがいくつかあったことだろう。

彼女は私の師であり兄代わりであり父代わりでもある秀一さんの偽りとはいえ恋人でもあった。また彼女の妹の志保ちゃんとは学年は違えど小中高と同じ学校だった。

重い頭を抱えて深いため息を吐く。

「おねーさん、ポストはあっちだよ!」

急に声をかけられ驚いて声の方に視線を向ければ、女の子が目の前に立っていた。どうやら手に持っていた封筒を見てポストを探していると勘違いしたらしい。

「んーと、これはね…」
「あっ!歩美ちゃん見つけましたよ!」
「歩美ー!何してんだよー!」

否定をしようと思ったところで邪魔が入った。細身の男の子と体格の良いの男の子こちらに向かってきたのだ。次から次へと普段関わることのない子供が現れて何が何だか。

「おねーさんがね、封筒持ってたからポスト探してるのかなって思って案内してたんだよ!」
「さすが歩美!」
「あ、でもこの封筒、宛先が書かれてないですよ?」
「ホントだー!」
「開けてみようぜ!」
「ダメですよ元太君!」

子供たちが騒ぐ様子をどこか他人事の様に聞いていた私だったが、収集がつかなくなりそうだったため仕方なく対策を取ることにした。

「ありがとね、貴方たち。でも見た通り宛先書くの忘れちゃったから違う日にでも書いてポストに入れとくね」
「そうですね!それがいいですよ!」
「切手も貼らなきゃダメだって母ちゃん言ってたぞ!」
「またポストの場所が分からなくなったら言ってね!歩美が教えてあげる!」

騒々しいものの、目がキラキラした子供たちに少し励まされた気がする。
お礼の気持ちとしてポシェットに封筒を仕舞う代わりに飴を3つ取り出した。一人一人に私のお気に入りのイチゴミルク飴を手のひらの上に乗っけてあげる。

「お礼にあげるね、本当にありがとう」
「ありがとう!おねーさん!」
「ありがとな!」
「ありがとうございます!」

口々にそう言って三人は走って公園の奥に行ってしまった。

▽▲▽


トロピカルランド周辺は何故かパトカーが止まっていて騒がしい。何かあったのか…警察がいるのは少し厄介かもしれない。

私は数日前にここで黒の組織で取引するかもしれないと、情報を得てやって来た。このパトカーはきっと組織関係ではないだろう。あの人達がそんなヘマをするとは思えない。

駐車場に着くとファミリーカーが数多く止まる中、異質な車が一台止まっている。ポルシェ356A、黒の組織の一員であるジンの車だ。少し離れた所に駐車しはやる気持ちを抑える。

中に入るとファンシーな音楽と建物に迎えられた。このおとぎ話の様な空間には不釣り合いな警官を見つけ、何があったのかと問う。するとどうやらジェットコースターで殺人事件があったらしい。

そんなどうでも良い情報は得られたものの、肝心の黒の組織については何も収穫を得られなかった。

閉館時間も迫ってきたことだし、諦めて帰ろうと踵を返す。すると泣いている高校生くらいの女の子がいた。見つけたのに放っておく訳にもいかず、近寄って声をかける。

「どうしたの?」

彼女は俯いていた顔を上げ、目をぱちくりとさせた。そりゃそうだ、知らない人から突然声をかけられたのだから。

「もしかして彼氏に置いてかれちゃった?」

冗談めかして言うと彼女は顔を真っ赤にしてしまった。

「ち、違います!そんなんじゃなくて!…一緒に来た幼馴染とはぐれちゃって…」

ほー…これはあれだな、うん。あれだ。
こう見えてこういう恋愛関係には鋭いと思う。色々察した。

「もしかしたら先に帰ってるかもね、彼の家に行ってみたら?」
「そうかもしれません…ありがとうございます!行ってみることにしますね!」

パッと走り出そうとする彼女の腕を掴んでここに留まらせる。

そのまま無理やり彼女を連れて、駐車場に向かって歩き出す。ただ彼女に興味が湧いたというのもあったが、もし黒の組織の情報が空振りではなく私が掴み損ねただけだったとしたら。

私はそういう考えが脳裏をよぎった瞬間から彼女を放っておく選択肢は存在していない。

▽▲▽


私の隣で楽しそうに幼馴染の話をする彼女はどこか明美さんに似ていた。とくにあの輝くようなキラキラした笑顔が明美さんそっくりだ。

彼女の名前は毛利蘭ちゃん。はぐれてしまったという幼馴染はあの工藤新一らしい。

蘭ちゃんは車内で彼への愚痴(惚気)を延々と話していた。ホームズの話やら名言のオンパレード、乗り物の列に並んでいるときは近くの人と握手をして部活を当ててしまったり、事件には首突っ込むし…などなど。彼女放ったらかしでいいのか高校生探偵さん。

「あ、そろそろです!」

見えてきたのは豪邸。その隣には丸っこくて土地がやけに広い家も見える。工藤新一くんはお金持ちなのか。この辺は米花町2丁目…どうりで見覚えがないわけだ。

「ここ?」
「はい!名字さん、ありがとうございます」
「大したことじゃないよー」

車から降りた蘭ちゃんに続いて私も車を降りる。それにしても大きな家だこと。

「蘭ちゃん。彼、きっと帰ってるよ。明かりがついてるもの」
「ホントだ!じゃあ名字さん私行ってきますね!今日は見苦しい所を見せてしまってすみませんでした。本当にありがとうございました!」

本当はもう少しお話をしていたかったけど、彼女としては愛しの彼の元へ今すぐに行きたいだろうし引き留めるのは憚られた。それに彼女とはこれ限りじゃなくてまた会える気がする。女の勘だ。

消えていく背中に思わず手を伸ばしてしまった。彼女は明美さんじゃない。大丈夫。しかも明美さんだって死ぬと決まったわけじゃない。

蘭ちゃんが家の中に入ったのを確認し、車に乗り込んで発進させた。