キリトリ線


シャキン、シャキン。心地よい音が静かな部屋に響く。
私はこの時間が何より好きだ。幼い頃から聞いていたせいか妙に安心できる。

「はい、一丁出来上がり」

女の子からカットクロスをふわりと取り払う。鏡に映った女の子の表情がみるみる明るくなっていくのを見て、思わず私も笑みがこぼれた。

「わあ…ありがとう!おねーちゃん!すっごく可愛い!」
「どういたしまして。すっごく可愛くなったね」

後ろで座っていた母親さんが終わったのに気づいてこっちにやって来た。私にお礼を言って代金を渡すと、女の子の手を取って店を出て行った。

「お世話になりました」
「ばいばい!また来るね!」

女の子に手を振り返して二人の後ろ姿を見送る。女の子が何かを一生懸命に話すのを母親が優しく微笑んで頷く、そんな温かい光景。私は目を細めてくるんと鋏を指で回した。

その時、コンコンと窓から物音が聞こえてきた。もうそんな時間か、と思いながら身支度を整える。髪を括りなおし、腕の長さほどの刃渡りがある大きな鋏を腰にぶら下げる。仕上げに外套を羽織って、木の葉の額宛てが付いたクリップでその外套を止めれば完成だ。

「さーて、行きますか」

窓を開ければ一羽の伝令の鳥が待っていた。鳥は私の身支度が整ったのが分かったのか。再び空へ舞い上がって行った。

ここからは“町の美容師さん”ではなく、一人の“木の葉の忍び”だ。
私は首を鳴らして準備運動を済ませると、火影邸に向かって一気に走り出した。

▽▲▽


「名前―っ!!あんたおっそいわよ!」

屋根の上を走っている最中、突然声をかけられて立ち止まる。この声とこの場所からして…

「あんたが遅いせいで団子50本も食べちゃったじゃない!」

屋根の上に飛び乗って来たのは案の定、特別上忍のアンコさん。口には団子の串を咥えている。ちなみにこの屋根の真下はあんこさんご用達の甘味処である。

「いやいやいや、私待たずに先に行きゃあいいじゃないですか」
「私と行くのが不満なわけぇ?」
「そーいうわけじゃあ…」
「ならいいじゃない!今年もこの季節がやって来たわよ!血が騒ぐぅ!」

急に叫んだアンコさんは先に走り出した。自由過ぎないかこの人。先輩じゃなかったらバリカン持ってきたいところだ。

アンコさんが何でこんなにも浮かれているのかというと、中忍試験の季節だからだ。今年はどこの試験に配属されるだろうか。私も少しは楽しみではある。でもアンコさんほどではない。


〜あまり活用されなかった設定〜
17歳(特別上忍)。腰に下げている大きな鋏が武器。でもあまり使わないし、あまり戦わない。忍びでありながら木の葉一の美容師でもある。