朧月


「やはり…変わりませんね、ここは」

ターミナルから見下ろす景色を堪能していたら、思わず言葉が漏れた。

ここは江戸。私の護るべき場所。

「おかえりなせェ、名前さん」

後ろからかけられた懐かしい声に微笑んで答える。

「ただいま戻りました。お久しぶりですね」

振り返ると真選組の隊服に身を包んだ総悟が、年相応な笑顔で佇んでいた。

「総悟がお迎えですか?」
「なんでィ、オレじゃ不服ですかィ?」

そう言って少し拗ねている様子で私を見下ろしてくる総悟。幼さが全面に出されていて、素直に可愛いと思ってしまう。

何だかくすぐったくなり、私の口からふふっと笑みが漏れた。

「違いますよ、嬉しかったのです」
「そーですかィ…」

今度は照れているのか前に向き直ってしまった。
その様子を見て、私は再び笑みが溢れた。

▽▲▽


二人で江戸の町を歩きながら、少しずつ真選組の屯所に近づいていく。

少し怖いような、楽しみなような…複雑に絡み合う思考を楽しむように考えていたら、急に後ろから肩を引かれた。

「先生っ!!」

振り返るとそこには私より少し歳上に見える銀髪の男の人が。

私の異変に気がついた総悟は、足を止め私の隣に並ぶ。彼はその男性を見ると驚いた様子で口を開いた。

「あれ、旦那じゃねーですか。どーしたんですか、そんなに慌てて…」

総悟の知り合いらしく、親しげに話しかけている。その旦那と言う方は私を目で捕らえたまま答えた。

「……総一郎くん、この人、ダレ?」
「この人は真選組の総長、名字名前さん。ちなみにオレは総悟でさァ」

紹介され、私も遅れながらも頭を下げる。

「真選組総長を勤めさせていただいている、名字名前と申します。はじめまして、以後お見知りおきを」

顔を上げるも未だに呆けている男性に、私は手を取った。

「思い詰めたお顔、なさってますよ?どうかしましたか?私でよければ力になりますので、いつでも屯所にいらっしゃってくださいね、お待ちしてますから」
「あ、いや、その…」

私は先生などと大層な名前で呼ばれる覚えはないし、その様な人間でもない。
戸惑う男性に安心させる様に笑みを浮かべ、手を離す。

一礼してその場を去った。パタパタと後ろから追い付いてくる総悟の足音を耳にしながら、先程の男性の多幸を祈る。

▽▲▽


「いやー、良かった良かった!名前ちゃんが無事で帰って来てくれて何より!」
「私は皆さんがお元気そうで何よりです」

ただ今、絶賛私のお帰りなさいパーティーの最中。私の左右で酒を煽る二人を見ると、無意識に口角が上がる。

右には真選組局長の近藤さん。左には真選組副長の土方さん。

「視察はどーだったんだ?」
「お手紙で申した通り、とても勉強になりました。このような機会を与えて下さったお二方に感謝せねばなりませんね」

酌をしつつそう言うと、土方さんはクククっと喉の奥で笑った。

視界の端では近藤さんが酒に酔って脱ぎ始めた。
それを隊士達が止めようとしているのも目に入る。変わりない様に懐かしさを覚える。

「お前、相変わらずかてぇなあ…礼なんざいらねェよ…お前は…真選組の頭脳なんだからな」

思わぬ言葉にしばし瞠目していたけれど、じんわりと心に染み渡り嬉しさに顔を綻ばせた。

しばらくすると皆酔い潰れてしまい、起きているのは私一人になってしまった。
広間を見渡せば、大瓶を抱えたまま寝ている総悟、何故か抜刀している土方さん、素っ裸の近藤さん、赤ら顔で鼾をかいている隊士達。

「困った方達ですね」

さてと、片付けといきますか。

〜裏設定〜
モデルは新選組総長の山南敬助。容姿は松陽先生に激似。