春もうらら。桜は満開。桜吹雪が舞い上がるというより、砂埃の舞う春は、
「あー、風強ぇー…ったく、誰だよ。屋上で弁当食おうなんて言い出したのは」
育ち盛りの少年少女たちにとって、少しの腹の足しにならない。
「えー!だって天気いいのに、教室じゃもったいないじゃないですか!」
このフワフワした少年は松岡春。長髪で女顔だがれっきとした男の子である。
「おかず砂まみれになるほうがもったいねーっつの!」
この眼鏡の男子生徒は塚原要。貴重なツッコミ役で真面目君だ。
「あ、じゃあボクのサンドイッチから、好きなのとってくださいよ!」
春がお弁当を要に差し出すがそれを拒む者が三人。
「要なんかに必要ないよ、春。ちゃんと自分で食べなさい」
「要、ボンボンでしょ。おかずの一つ二つで何さわいでんの」
「そうそう、春が食べないと可愛そうだよ、サンドイッチが」
淡々と話すこの三人。順に…双子の兄で一応、常識人の浅羽悠太。双子の弟、アニメオタクの浅羽祐希。その隣でプリンを食べているのは名字名前。
彼、否彼女は男子生徒服を着ていて短髪ではあるがれっきとした女。しかし学校でこの事実を知る人は数少ない。本人は隠しているわけではないが、如何せん容姿が容姿な為、誤解が誤解を招き今に至る。
制服が何故男子用なのか。それはただの手違いらしい。
「いちいち、つっかかってくんな双子。つか名前、どういう意味だよそれ」
「え、要なんかに食べられたらサンドイッチも快く成仏出来ないだろうなーって」
「いっそお前が成仏しろ。だいたいなー、オレはお前らの巻き添えくらうっつーのが腹立つんだよ」
要は言いたいだけ言うと、そのままもくもくと砂だらけの弁当を食べ始めた。その時、誰しも心の中で呟いた。
「(だったら誘った時、断ればいいのに…)」
と。しかし、心の内で止めておかなかったのが約一名。
「だったら誘った時、断ればいいのに」
「あ、それ言っちゃいますか。オレはちゃんと心の内にとどめといたのに」
祐希がちゅるるるとパックジュースを飲んだ。そんな彼を名前が見返す。
「あ、まずい感じでしたか」
そんな二人の背景で殴りかかろうとしている要と、それを抑えている春があったそうな。
▽▲▽
「そういえば、要くんと祐希くんと名前ちゃん、同じクラスになるの初めてですよね!どうです?」
春が悠太に長い髪を弄られながら聞いたが、三人からの返答はない。祐希がパックジュースを飲んでいる音だけが聞こえた。
「…あの…」
「どーもこーも、最悪だよ、こいつら。クラスの誰に話しかけられても、基本が無視なんだよ」
戸惑う春に、本を読みながら要が答えた。彼の頬には怒りマークが浮かんでいる。相当イラついているようだ。
「えっ、そうなんですか?それってマズイですよ…」
「べつに故意に無視しようなんて思ってないよ。失礼な…ただ誰の言葉も、オレの中にまで響かないだけで…」
「単にお前が人の話きいてねえだけだ」
「悠太くん…」
そんな祐希が心配なのか、春は悠太に助けを求めた。
「いんじゃない?そういうのも祐希だと思うし。一匹狼っていっても、誰かを傷つけるわけじゃないし」
「無視されたら十分傷つきますよ…え、えっと…じゃあ名前ちゃんもそうなんですか?」
名前は本日2個目のプリンを口に入れた。
「祐希と同じで、故意に無視してるわけじゃないよ。ただ皆に求められている、ボクを演じているだけで…」
「単にお前が受け答えすんのが面倒なだけだろ」
憂い(演技)を含ませる名前に、またも要が鋭くツッコむ。
「だいたい、祐希と名前は、普段から協調性っつーか、他人を思いやる気持ちってのが、足りなすぎんだよ」
ため息をつきかけた要。しかしいきなり何かひらめいたのか、おもむろに眼鏡を持ち上げた。
「よし、名前、祐希。お前ら今スグ部活に入れ」
「「はあ?」」
「今帰宅部だろ」と付け足されるが、二人には理解できなかった。
「今のお前らに、不足しているものを補うには、部活動が一番てっとり早い」
「「えぇ…」」
▽▲▽
5人はバスケ部を見学するため、体育館にいた。物は試しにと部員の計らいで祐希と名前は試合形式の練習に参加させてもらう事に。
「…祐希くんと名前ちゃん。あからさまに、どーでもいい感じですよ?名前ちゃんなんて音楽きいてますし…」
活発に走り回るバスケ部員達の中に、とろとろとその後ろをついて歩いている祐希。ヘッドホンで音楽を聞きながらその後を歩いている名前。やる気ないコンビが紛れていた。
「浅羽くん!」
バスケ部員の一人が祐希にパスを出す。
「おっ!」
これから活躍するのかと期待した要だったが…
「よけるなーっ!」
パスされたボールをさっとかわす祐希。
「だって向こうが一方的に…気持ちのおしつけってどうなんですか」
「アホ!それじゃ、チームプレーが成り立たんだろ!」
祐希は不満げにブツブツと呟きながら、コートに戻って行った。
「名字くん!」
同じバスケ部員が名前にパスを出す。
「おっ!」
今度こそ、と期待した要だったが…
「お前もよけるなーっ!」
パスされたボールをさっとかわす名前。
「だって手が汚れるし…他人のアカだらけのボールですよ?」
「バカか!ボール触らないで、どーやってプレイすんだよ!」
祐希同様、彼女もブツブツと文句を言いながら、コートに戻って行った。
▽▲▽
前半終了。祐希と名前は、悠太と春からタオルを受け取った。
「お前らさあ、昔から体育もテキトーこいてるけど、マジで運動オンチなわけ?バスケぐらい、もちっとマトモにしてみろよ」
「マトモに、と言われましても…ね?」
「うん、ね」
「それか、そんなにできないんなら、バスケ部入れよ」
「そうですね!男の子にバスケって必須ですからねっ!」
春が要の言葉に首を縦に振りつつ同意した。名前が女だと突っ込む者はいなかったのは気にしないでおこう。
「よしっ!うん。そうしろそうしろ!」
「ねっ!名前ちゃん、祐希くんっ!決まりっ!」
嬉しそうにしている二人とは対照的に何やら不服そうな祐希と名前。その時、ピーっと笛の音が聞こえたかと思うと、後半戦がスタートした。
▽▲▽
後半戦。まるで別人のように活発に動き回る祐希の姿があった。バスケ部員を次々と抜き、仕舞いにはシュートまで決めてしまう。
「…なんだ、あれ。誰?」
「祐希は運動神経、めちゃくちゃいいよ」
「は!?」
「本気だしたら、もっとスゴイし」
「あれ以上がまだ!?だってバスケ部もついてけてませんよ!?」
驚く要と春を横目に、悠太は自慢げだ。
祐希はというと、ハイタッチを求められても、ぽてぽてと歩きながら無反応。そのままコート外にいる名前の元へ。名前と軽く片手でハイタッチをすると、二人で要たちの元へと戻って来た。
「名前とじゃなくて、部員とやれ、部員と」
呆れつつ、呟いた要に、春は苦笑するしかなかった。
〜補足設定〜
男子生徒服着用。無気力。お菓子に勝るものはない。四人とは幼稚園からの幼馴染。