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のどかな穂稀高校の昼休み。廊下の手すりにもたれ、名前達が集まっていた。

「へー…春のめいっ子ねえ…」

悠太が春にもらったいちごのムースポッキーを唇に押し当てて言った。どうやら昨日の舞音のことを春は三人に話したようだ。

「もうすっごくかわいんですよ!」
「まあお月さまがどーとか言っちゃうあたり、春の血がしっかり受け継がれてる感じはするよね」

ポッキーをくわえる悠太の隣で裕希が言うと、名前は春から本日五本目をもらっていた。

「花とか飛ばしてそう」
「「言えてる」」

名前の言葉に双子は大きく頷いた。

「春、あのあと言ったのか?」
「?何をです?」
「あ?月だよ。誰についてきてるわけでもねえってこと」
「え〜言ってませんよ!そんな夢を壊すみたいな…」
「何言ってんだ。あぶねーだろ、あんなちっさい子が夜にフラフラ」

要はポッキーをくわえたまま壁に寄りかかった。言葉には少し呆れが混ざっているのが見てとれる。

「うーん…そうですけど…」
「そう思うなら言えよ」
「簡単に言わないでくださいよ!子供の純粋でかわいい部分だって大事にしたいじゃないですかっ!」

ふくれる春に眉を寄せる要。だんだんと雲行きがあやしくなっ行くのをただ見ているだけの三人。

「要くんてそういうとこ、ほんとかたいですよね!」

春はそう言うとつんっと顔を背けた。すると要は眼鏡を指で持ち上げながら一層眉間にシワをよせた。

「…お前こそふわふわすぎるその脳みそをどーにかしたらどうだ」

その後火花を散らし始めた二人。ケンカするには珍しい組み合わせに三人は興味深そうに眺めていた。あくまで傍観に徹するつもりらしい。

「おやおや」
「まあまあ」
「おやまあ」

▽▲▽


その日の放課後、五人は春の家に遊びに来ていた。五人が玄関に入ると出迎えてくれたのは春の姪の舞音。

「春くん、おかえりーっ!」
「ただいまー」
「あっ!お、お友達?」

舞音はずらりと並んだ五人にいささか戸惑いを見せた。…春と要の間にみぞがあるのは気のせいではない。そして春が舞音を紹介した。

「この子がめいっ子の舞音ちゃんです」
「は、はじめまして…」

少し緊張ぎみの舞音はペコリと頭を下げた。

「ども、おじゃましますね」

悠太が言い、悠太と裕希と名前は靴を脱ぎながら家に上がった。廊下を三人で歩きつつ、舞音を観察しだした。

「あんま春に似てないね、かわいいけど」
「うん、春、天パだし」
「けどふいんき似てるよね」
「あ、言えてる」
「うん、花とか飛ばしそうだしね」

そんな会話を見ていた舞音は頬を染め、瞳を輝かせ、春の背中にそっとくっついた。

「春くんのお友達って王子様みたい…」

▽▲▽


その後、春と要が一悶着あったものの、松岡家のリビングで思い思いにくつろいでいる六人の姿があった。ほのぼのとした空気が流れる中、舞音が口を開いた。

「月に住んでるうさぎさんって大変よね…」
「え?」
「だって毎日毎日おもちついてるんだもん。疲れないのかなあ…」
「えっと、それは…うーん…」

春は子供故の可愛い質問に夢を壊してはいけないと思い、答えようとするが良い答えが思い付かず、言いよどんでしまった。

「あーないない。今はもうすべて機械ですから。家庭用もちつき機ってのがあってねえ…」
「時代ですよ、時代。うさぎでも時の流れには抗えません」

雑誌を熟読している裕希と楽譜に書き込む手を止めない名前がたんたんと答えた。舞音はそれで納得したのか花を飛ばしつつ、「そうなんだー!」と感激していた様子。

「舞音ちゃん、絵上手だね!見せて?」

春がそう言うと舞音は自慢気に描いた絵を机に広げた。画用紙には島から島へ虹の橋で渡る動物たちが描かれている。

「虹の橋を渡ってねぇ…動物さんたちが二つの島を行き来するの!」

嬉しそうに説明する舞音の背後から同じような顔が三つ舞音の絵を覗きこんだ。春は思わず身を引いていたが…

「うわーこんなの橋になんないよ」
「こんなほっそい橋でどうするの」
「やることが若いよねー」
「象の重さに耐えられる保証はあるの?ん?」
「こんなんじゃ、毎回渡るたんびに生と死の狭間をさ迷わなきゃいけないよ?」
「もっと色を増量して足場をしっかり!七色だなんてケチってる場合じゃないよ。」

口々に言いたい放題言う三人に舞音は言われるままに絵に描き足していく。表情からしてあまりに急すぎて理解できてないようだ。そして出来上がったのは全18色の虹の橋。舞音はまたも感激の声を上げた。

「わー!すごーい!きれーい!」
「「「まあ、経験の差だね」」」
「ありがと、お兄ちゃんたちー!」

そんな彼らを見て要が呆れていたのはまた別の話。

「舞音ちゃん、これは?」

春は他の紙に描かれた絵を指差す。すると舞音は嬉しそうに説明をしだした。

「これはね、海の中に遊園地があってね、好きなだけ遊べるの!」
「へー!」
「乗り物はみんなタダでねえ…」

二人盛り上がるのを背中で聞いていたのは要。読んでいた本を閉じ、振り返りつつ言った。

「でもそれじゃ息できねぇだろ…」

ちょいちょいっと親切心から絵に手を加えた。別に悪意があった訳ではなかったが、舞音は気に食わなかったのか目にいっぱいの涙を溜めてしまう。要は突然のことにぎょっとした。
そこへヤジをとばしたのはいつもお決まりのお二人。

「あーらら、こんな不恰好にしちゃって。要くんてバだいなしだよー」
「ね、そんなんでどうやって乗り物乗るんですか」
「なっなんだよ!オレはただ…」

弁解する要をよそに、その二人と要を挟む形でじーっと眺めているのは悠太。その視線はやや批判めいたものが含まれているようだ。それに耐えられなくなったのか要は言葉をつまらせた。

「〜〜っ!!わーったよ、消すよ消す!」

要はそうやけくそ気味に叫ぶと先ほどの画用紙に手をのばした。とそれを阻む者が一人。それは舞音だった。

「いい……も、いい…」

そんな舞音を要は複雑そうな表情で見ていた。するとまた横槍を入れたのは三人。

「今、何食べたい?」

舞音に悠太が聞くと、舞音は「…雪んこだいふく…」と顔を上げずに静かに言った。すかさず裕希が要に振り返る。

「だって、5つね」
「それお前らの分入ってんだろ!」
「死刑判決よりはましじゃあありませんか」
「どうして名前はこういうとこで物騒なたんごを出すんだよ」


しばらくして…悠太たちの要望通り、アイスを買ってきた要と春が舞音と一悶着を起こし一件落着となった。

「めでたしめでたし」
「要って小さい子、ほんと苦手だよね」
「扱い方がわからないんでしょ?」

双子と名前は満足そうにアイスを頬ばる。甘い冷たさが口いっぱいに広がった。