2


「そーだけど?」
「見せしめとかまでやってたくせに、どーゆう心境の変化だよ」
「…………」

そう、バ怪盗の言う通り、僕は手段を選ばずに彼らを護ってきた。

言葉で牽制し、それでも分からないヤツは手を出しかけたヤツの晒し首を見せて脅し、それでもダメなヤツは金で買収し、それでも頑ななヤツは理由をこじつけ、処分対象として抹殺した。

回りは、それほどまでに必死に護ってきたというのに何故、と思うのが普通。

「惚れた男にでも正体バレたんだろ。んで、血を求める名前に言い寄ってきた…とまあ、こんな感じ?」

でもこいつはこういう嫌なヤツ。

「あー、もう本当アンタ苦手。探偵にでもなったら?」
「それは勘弁。俺、怪盗だし。で?」
「その通りだよ、これで満足?」

もう、僕は蘭達とはいられない。理由は簡単、自分が彼女らに手を出してしまうのではと恐れているから。
今回の新一の一件で身に染みた。自分は血に抗えない、おぞましい血を啜る吸血鬼なのだということを。

幼い頃はそんなことはないと思っていた。そして今まででも心のどこかでそう思っていたのかもしれない。

「で、これ以上周りの人間に手を出さねェために、彼らの記憶を消して魔界に戻ってきた、と」
「もうヤダ、あんた」

▽▲▽


学校が終わり、目暮警部に呼び出された連続殺人事件の現場に向かった。

現場は繁華街の路地裏。被害者は風俗店に勤めるキャバ嬢。殺害方法は出血死。

違和感の事は置いといて、今は事件に集中しようと、深呼吸をした。出血死とは言うが、周りに血が飛び散っている訳でもなく、血を抜き取られたらしい。

この手口は今までの殺人方法と同じことから同一犯と言える。

血を抜き取る……血…まるで吸血鬼に襲われたみたいだな。その時、突然、シャボン玉が弾けた様に思い出した。

そうか!あの違和感は名前だったのか。
もしやこの連続殺人犯…いや、名前がそんなことする訳がねェ!

「工藤くん、何か掴めたかね?」
「まだ分かりません…ですが、少し僕の方で調べてみます」
「うむ、分かった。頼んだぞ!」

事件の犯人でないにしても、きっとこの事件の先に名前がいる。そう俺の探偵の勘が言っていた。

家に帰ると、米花町の地図を広げ、資料片手にマークを付けていく。犯行場所に何かカギがあると俺は推理した。

地図に書き込んで行くと、バラバラのように見えた犯行現場は、一定の間隔を開けて移動している事が分かった。そして次の予想犯行現場は…帝丹高校校舎裏。

絶対に犯人を突き止めてやる…そして名前と直接話すという決意を胸に走り出した。

▽▲▽


「ったく、ジジイ共は人使いが荒い」
「んなの今に始まった事でもねェだろ」
「しかも何でコイツと…」
「名前、今の心にグサッて来た…」
「だから?」
「……すみません」

睨みをきかせるとバ怪盗はシュンと落ち込んだ。犬か…

何でこんなことになったのかって言うと、数時間前の老いぼれジジイの発言による。

僕が総会の時に人間界で連続殺人犯が出ていて、それが我ら吸血鬼の仕業だと報告すると…

“その行為が真実であるならばこれは、極めて遺憾である。人間との結んだ条約に違犯していると言えよう。故に人間界日本国東京都米花町にいるその吸血鬼の討伐命令を下す。”

というわけで、一刻も早い処置が必要になり、吸血鬼統率隊、通称“Red Police”の隊長である僕と、副隊長であるバ怪盗が出動したってわけ。

…こんなの僕一人でできるんだけど、とはさすがに長老達には言えずに今に至る。

「犯行現場は目星ついてんのか?」
「当然。ほら、夜も更けてきたし行くよ、バ怪盗」
「おう!ってバ怪盗じゃなくて快斗!!」

米花町に降り立った時から感じていた寂しさを無かったことにする様に、漆黒の翼を広げた。

寂しいわけがない。

▽▲▽


現場に近づくにつれ、騒々しい音が聞こえてきた。もう何が始まっているのかと足を速める。

近くまで来たから、物陰に隠れて様子を見るが戦闘の音は聞こえているものの、肝心の元が見当たらない。

別の場所なのかと走り出そうとする俺の肩を掴まれた。振り向くと赤いマントを羽織った若い男の人だった。

「上ですよ、上」

不思議に思いながら、言われたとおりに上を見ると…

「はあああっ!!!!」
「ったく、うるさいなぁ…静かに闘えないわけ?」

戦場が広がっていた。

黒のマントの男と、謎の男とお揃いの赤いマントを羽織った…名前が剣で切り結んでいる。

荒々しく無闇に向かっていく男に対して、名前は流れるように受け止めている。赤いマントを翻し、余裕の笑みさえ浮かべる様は、まるで1つの舞を踊ってるみてぇだ。

「お前は行かねーのかよ?」
「行きませんよ」
「名前の味方なんだろ?そのマントじゃ」
「っ!?!?」

息を呑んだような音がしたけど、構わず続ける。

「味方なら援護すんのが普通じゃねぇの?それとも吸血鬼はそんな薄情なのか?」
「………なるほど、さすがは名探偵…」
「あ?なんか言ったか?」

そこで俺は初めてそいつの方を向くと、微笑を浮かべてそいつは答えた。

「いえ、何も…援護しないのは、巻き込まれたくないからです。あの方は手出しされるのを何よりも嫌がりますからね」