「へえ、また迷探偵に手柄たてさせちゃったんだ」
「しゃーねぇだろ…」
僕が広げている新聞には大きく“名探偵毛利小五郎またしても事件解決!”なんて書かれている。“名”じゃなくて“迷”だよ、マスコミさん。
コナンを見れば手紙を片手に苦笑いを浮かべていた。あの手紙は新一の父である優作さん宛てのファンレターらしい。ちなみに工藤夫妻はただいまスイスにいるんだとか。転々としているあの二人に態々送ってあげるなんて人が良すぎるというかお人よしというか…ご苦労様。
僕の場合、死んだ両親へのファンレターが未だに来るけど全部段ボールにポイだ。いつかあの広い家が手紙で埋まっちゃうんじゃないかってたまに思う。
新聞を一枚めくると放火の記事が書かれていた。写真まで載ってるけど結構悲惨な状態なのが分かる。その隣には焼ける以前の豪邸が小さく載っていた。こんなお金持ちなら人の恨みなんていくらでも買ってそうだ。
「何じゃ、パーティの招待状か?」
博士の言葉におもわず顔を上げた。
「もしかして、森谷帝二からガーデンパーティーへの招待状?」
「え、もしや名前も届いたのか!?」
コナンの傍まで行って手元を覗けば見覚えのある封筒が目に入った。
「森谷帝二っていえば古典建築のシンメトリー様式が特徴で日本建築協会の新人賞を取ったこともある有名な建築家だよね」
「よく知っとるなあ名前君、それに東都大学建築学科の教授で日本でも指折りの建築家だそうじゃ」
「そんなお偉い先生が何でオレ達なんかを…?」
そう、それが問題。
森谷帝二なんてあった事もないし話したこともない。おそらく一方的に知られているんだろうけど気分の良いものじゃない。一番怖いのは住所を知られていること。
普通に気持ち悪い。名前とかもろもろは新一が事件のたんびに僕を連れまわしてくれちゃったおかげだけど、住所まで公開した覚えはない。少し背筋が寒くなった。何だか嫌な予感がする。
「建築家というのは芸術家でもあるからな…常に新しい刺激がほしいんじゃろう…特にホレ、森谷教授はワシと同じ天才型じゃから!」
声を上げて笑う博士にコナンと二人して苦笑いを浮かべる。…後ろに見えるカマキリもどきは壊れてるけどこれのどこが天才なんだか。
▽▲▽
その後優作さん宛てのファンレターを郵便局で発送し、博士とコナンと三人で帰って来た。招待状はというとコナンはこれから公衆電話で代わりに蘭に行ってもらうよう電話してみるらしい。
相変わらずおアツいねと冷やかすと不機嫌な顔で「そんなんじゃねぇ」と言われた。訳が分からない。
「ところで名前君はどうしたんじゃね、招待状は」
「どーせ名前のことだから見た瞬間、シュレッダーにでもかけて捨てちまったんじゃねーの?」
「失礼な、僕を何だと思ってるわけ?ちゃんと断りの電話入れたよ。その後でシュレッダーにかけて捨てたけど」
「やってる事は同じじゃねーか…」
コナンの小さなつぶやきは僕の寛大な心によって聞き流されることになった。
小さな背中を見送った後、僕は小さく溜息を吐いた。確かに電話で断りを入れたのは事実だったけど、その時に森谷帝二と話した内容がちょっと気になる点があった。
ここまでは聞かれてないからコナンには答えなかったけど。
時はお昼時まで遡る。僕はコナン同様、郵便物の整理を行っていたら例の招待状を発見した。怪しいとは感じたけど、お偉いさんのパーティなんて有名人いっぱいの自慢大会と相場は決まってる。この体じゃなくても僕は行かなかったと思う。
とりあえず断りの電話をいれるためホームページで連絡先を調べ、電話をかけてみた。すると秘書の人が出たから、適当に要件を言ってさっさと終わらせようとしたら驚いたことに本人に電話を代われてしまった。めんどくさいと思いながらも丁寧に言葉を並べて断りのウマを伝えると…
〔そうでしたか…来られないのですか。それは残念です〕
「申し訳ありません。それにしても何故森谷先生のような方が高校生なんかに招待状を下さったのですか?」
〔実は貴女と工藤くんには昔、間接的にだけれどお世話になってね。直接お礼が言いたかったんですよ〕
それからは適当に受け答えし電話を切った。電話を切った後、森谷帝二とつながってそうな建築系の関係者がいた事件を思い出そうとしたけれどそんな事件解いた覚えはない。
僕に覚えがないってことは新一もないだろう。
どうにも電話口からだと歓迎されているというより何か含んだ言い方がとても気になった。住所の件も聞きたかったものの、そこまで踏み込めなかったのは気がかりなことに思考が持って行かれていたからかもしれない。
「どうしたんじゃ?名前君…何か考え事かね?」
はたと気づくと僕は玄関を背に長い事考え事をしていたみたいだ。
「ごめんごめん、何でもない。そろそろ夜ご飯にしようよ」
僕はとりあえず笑ってキッチンに向かった。やっぱりパーティ、コナンについてこ。
▽▲▽
次の日の朝、コナンから電話があった。何でも5月3日の土曜、蘭と一緒に映画を観る約束をしてしまったんだとか。勿論コナンとしてではなく新一として。
〔なあ、どうしたら良いと思う?〕
「どうするもこうするもないでしょ、下手に期待させる前に断れば?どう考えても行けるわけないんだし」
〔それができたら苦労しねェよバーロー〕
あーはいはい、楽しそうにしている蘭を見てるとそんなこと言い出せないってわけ。そんなの安易に想像つく。
僕だって蘭には笑顔でいて欲しいとは思うけど、無駄に傷つけるより傷が浅いうちに解決しておく方が蘭のためだと思う。まあ新一のためにもなるかもしれないけどそんなのは知ったこっちゃない。
「観る映画はもしや“赤い糸の伝説”?」
〔ご名答。名前が嫌いそうな少女趣味全開の映画だとよ〕
「やっぱりね、貴方のお姫様は好きそうだなって思ってさ」
〔だーかーら、そんなんじゃねェって言ってんだろ!〕
「はいはい」
電話越しだから相手の表情が見えないけど、顔を真っ赤にして必死に否定してるんだろう。少し息が詰まる思いがした。
「あ、そんな事よりやっぱり僕もガーデンパーティ行ってもいい?」
〔そんな事っておめェなあ…もともと蘭が誘う気満々だったから行く気なくたって行かされてたと思うぜ〕
「イトコなんだし!とか言って?」
〔…名前、おめェ実はエスパーだろ…〕
「馬っ鹿じゃない?じゃ、せいぜい蘭に振り回されてれば?」
〔あっ!!待…〕
最後は捲くし立てるように早口で言い、とっとと電話を切った。はてさてどうなる事やら。ただ蘭に本当の事を言うのだけは許さないけど。
毎年この時期は蘭が騒いでた。誕生日を忘れてる新一のために思い出させてやるんだって。
僕が京都にいる時もアメリカにいる時もメールや手紙でこんな風に祝ったとか驚かせてやったとか報告は聞いてた。本当、つくづく蘭は恋する女の子で可愛いと思う。
そういえば僕の誕生日も一生懸命祝ってくれたっけ。不服なことに新一と一緒で自分の誕生日は忘れがちだから。
モヤモヤした気持ちを振り払うように手にしたままの携帯を開いた。この携帯は名前用のものでたまに蘭や園子から連絡が入ったりする。目暮警部の名前をアドレス帳から見つけると発信ボタンを押した。