回らない風車


「迷った」

そう呟くと受話器の向こうから大きなため息が聞こえてきた。なんとも失礼な男だ。まあ私が悪いんだけども。

「やはり君か…だろうと思ったよ…」

呆れまじりで言う大佐の声が受話器越しに聞こえてきた。コードをくるくると指で弄ぶ。

「で、今どの辺にいるんだね?」
「イーストシティ…?」

うん、たしかそうだったはず。だって電話かける前に町の人に聞いた。

「語尾に疑問符が付いているが大丈夫か……周りに見える物は?」
「時計台?が見える」
「あらかた見当はついた…これから丁度出かけるところでな、ついでに拾ってやる。行き先はその時に聞く」
「わかった」
「待てっ!!!!」

受話器を戻そうとした瞬間にこの大声。良かった、耳に受話器くっ付けてなくて。鼓膜が破れたら洒落になんない。

「いいか!そこから一歩たりとも動くなよ!?」
「それ無茶苦茶だよ」
「絶対だからな!?探すこちらの身にもなってみろ!!」

ガチャン!!と勢い良く切られた。……んな理不尽な。まあ良く迷子になるなーとは思うけど…それは複雑に入り組んでる、道が悪い。私は電話ボックスを後にし、時計台の下に座り込んだ。

行きかう人々は忙しそうに私の目の前を通り過ぎていく。眼帯を右目に取り付けているため、左目をきょろきょろと忙しなく動かして観察してみる。次第に飽きてきてぼんやりと空を見上げることにした。


そう時間の経たない内に背後から聞きなれたエンジン音。あ、大佐来た。そう思い振り返ると…

「「名前っ!!」」

金髪金目のチビと鎧がボクの懐かしい愛称を叫びながら車から身を乗り出していた。驚きのあまり声も出ない。

会うつもりなかったんだけど。今まで避けてきたのに大佐の差し金か。どんどん迫ってくる車と、幼馴染み。突然我慢できなくなったのか、幼馴染みの一人が車の窓から飛び降りた。そしてボクに詰め寄ると胸ぐらを掴んできた。

「名前!てめぇ!!今までどこに隠れてやがった!?なんで黙って出てったんだよっ!?オレらがどんだけ探したと!どんだけ心配したと思ってんだっ!?」

揺すられながら、ガクガクする視界の端でエドの顔が写る。怒っている口調に反して、今にも泣きそうな表情。ようやく、車から大佐たちが出てきてこちらに駆け寄ってくる。

「兄さん!!止めてあげてよ!名前がっ…」

そう言いながら鎧がエドの腕に手を添えた。この口調からして鎧の中にはアルがいるのかも。ボーッと考えていると急に視界が揺れなくなり、抱き締められたのかと理解した。

「無事で…良かった…」

くぐもった声にズキリと胸が痛んだ。

「ごめん…」

▽▲▽


「な、会って良かっただろう?国家錬金術師取締役殿」
「余計なお世話」

乗り込む際に耳元で言われた事を思い出す。…まあここまで心配されてるとは思ってもなかったけど。こうして大佐に促され、ようやく車に乗り込んだ。

「風の、今日はどこへ行く途中で迷った?」
「綴命の錬金術師の家」
「奇遇だな。私たちのこれから向かう目的地と同じだ。このまま乗せていってやろう」

ニヤリと笑った大佐にため息をつきたくなった。そんなことよりこの突き刺さる2つの視線をどうにかしてくれないかな…

「…大佐」
「何だね」

エドの問いかけに大佐が答える。

「今、名前の事、“風の”って呼んだよな?」
「あぁ、呼んだな」
「つまり…名前も…」
「本人が隣にいるのだから本人に聞けばいいだろう」

大佐はそう言って窓の外を眺めだした。無責任だ…エドはクルリと私に向き直った。

「名前、お前も国家錬金術師になったのか?」

エドの隣ではアルと思われる鎧もじっとこっちを見ている。

「…なってないよ、惜しいけど」
「はあ!?」
「それってどういう意味?」

チャリとピアスを揺らして、顔を上げた。

「なったのは…大総統直属、国家錬金術師取締役…言わば国家錬金術師専用の警察官だよ」