自由に生きろ!


箱根学園。そう記された校門の前に立つ。ようやく、ようやくあの鬱陶しい弟から解放されるのだ。そう思うとどうしようもない開放感に満たされた。

朝から晩までくっつき虫の様に私に着いて回っていた弟の声が脳内にこだまする。あれが可愛くないかと問われたら否と答えるだろう。ただ、中学生になってから度が過ぎているのも事実。

息苦しさに耐えられなくなり、なんとか両親を説得させこの学園にコネで就職させてもらった。この就職氷河期、コネだろうとなんだろうと、使わないと生き残れない。ましてや写真家だなんて雇ってもらえるだけ儲けもんだ。

意気揚々と一歩を踏み出す。さあ、自由を謳歌しようではないか!

▽▲▽


全校生徒の前で挨拶を終え、ひと段落。自販機のサイダーを買い一口飲んだ。しゅわしゅわとした刺激が私を生き返らせてくれる。あー緊張した。

「お!全校朝礼で紹介されていた写真屋さんではないか!」

振り返るととんでもない美少年がいた。男子高校生にしては肌がきめ細やかだし、何より切れ長の両目が美しい。

「そうだよーよろしくね。君は?」
「よくぞ聞いてくれた!俺は登れる上にトークも切れる!さらにこの美形!眠れる美形!山神こと東堂尽八だ!」
「………そっかぁ」

圧倒されて間抜けな声が出てしまった。それ、自分で言っちゃうかぁ…そっかぁ…の意味である。
東堂くんは残念イケメン。そう頭に書き込んでおいた。

「真波名前さんと言ったな?」
「う、うん」

ずいっと彼はその綺麗な顔を寄せてくる。驚いて少し仰け反った。近くで見ると余計に肌の綺麗さが際立つ。ちくしょう、男の子のくせに。世の女の子がいかにして美肌を手に入れようと必死になっているのか、彼は露ほども知らないのだろう。

「なら"まなみん"だな!」
「え?」
「実にいいあだ名だ!」

ポカンと口が開きそうになった。人の話を聞かないタイプだとは薄々感じていたが、突拍子がなさすぎる。「うんうん」と満足げに頷いている彼には悪いけど全力で突っ込みたい。いや、どういう流れ?!

「あっありがとう?」
「礼には及ばん!」

「わっはっはっは」と豪快に笑うイケメン。もとい東堂くん。悪い子ではないみたいだけれど、とんでもなくめんどくさい。愛想笑いを浮かべつつ、授業開始の鐘が鳴るのが聞こえた。

「では!また会おう!まなみん!」
「あ、うん、またね」

彼は大げさなほど手を振ってくれる。少し可愛く感じて頬が緩んだ。


▽▲▽


以下会話文のみ

@小6の頃、委員長と
「おはよう、宮ちゃん」
「あっお姉さん。おはようございます」
「相変わらず真面目だねえ」
「あの…今日真波くんは…?」
「昨日の夜から風邪ぶり返しちゃって」
「そうですか…」
「もし今日プリントとかあったら届けてやってくんない?」
「え…(お姉さんが持って帰るんじゃ…)」
「私今日ちょっと行きたいところがあるの」
「は、はぁ?」
「だからお願いね」
「(真波くん、お姉さん大好きだから私が行くより喜ぶと思うのに…なんで側にいてあげないんだろう)」
「宮ちゃんが来てくれるとがっくん元気になるみたいだから」
「えぇっ?!そ、そんなこと…」
「あるある。がっくんをよろしくね!じゃ!」
「(行っちゃった…あのカバン持ってるって事は写真撮りに行くのかな…)」


@高1夏に野球少年と
「テメェ、試合中ナァニ盗撮してんだヨ」
「あ、エースの荒北くん?かな?」
「警察呼ぶぞ」
「ざーんねん!両チームの監督さんから許可もらってますー盗撮じゃないの」
「チッ…」

「君、荒削りなフォームだけど根性あるよね」
「ア?ど素人が何言ってんのォ?」
「ほら見て」
「(…全部同じタイミングか?これ)」
「リリースポイントがまちまちでしょ?フォームが定まったらもっと球速上がると思うけどなぁ」
「…分かってんヨ、監督にも言われたしな」
「言うまでもなかったかー、じゃあカーブ投げる時の癖は気づいてる?」
「んなの気づいてたら直してるっつーの!」
「これこれ」
「(げ、微妙に肩の位置が違うじゃネェの)」
「ね」
「…アンガトネ」

「そうそう、荒北くんの夢はなあに?」
「……全国制覇」
「そっかぁいい夢だ!」
「はぁ?」
「君が甲子園で投げる姿撮るの楽しみにしてるよ!」
「っるせ!首洗って待っとけ!しょうもねぇ写真撮ったら承知しねぇぞ!」


@高1秋に寒崎兄と夫婦漫才
「寒崎!風紀強化期間は黒に戻しなさいって言ったよね?」
「うっせ!ブレザーもネクタイもちゃんとしてるだろうが!」
「どこが!」
「ほれ見ろ!」
「その耳は飾り?飾りなら額に入れたら?」
「…いや、分厚くて入らなくないか?」
「………相変わらず皮肉が通じないわね」
「はぁあ?!バカにしてんだろ!」
「してるわよ!物の例えよ!例え!」
「いっつも真波の言い方は回りくどいんだよ!もっとストレートに言え!」
「じゃあ言わせて貰うけど!」
「おぉ!かかってこいよ!」
「ちゃんとしてるって言ってたわりに全然できてないから!」
「どこがだよ!ブレザーも引っ張り出して来たし、ネクタイもしてるし、ワイシャツも普通のやつ着てんだろ!」
「…上履きの踵」
「仕方ねぇだろ、クセ付いちまったんだから」
「ブレザーのボタン」
「…こ、これはさっき引っ掛けたんだよ」
「シャツの裾」
「…今入れるとこだったんだよ」
「ネクタイ結べてない」
「………はい」
「仕方ないからボタンつけてあげる。ブレザー脱いで、あとネクタイ結ぶから首かして」
「………はい」
「まだ今週一杯は風紀強化期間なんだから黒くしなさいよ」
「いやそんな…」
「お金ないって?」
「その通り…デス…」
「どうせロード関係に使ったんでしょ」
「ぐっ…」
「確か隣クラスの上田君がスプレー持ってたはずだから貸してもらいなよ」
「…サンキュ」

一部始終を見守っていたクラスメイトたち
「(結局助けてあげるのか)」
「(相変わらず尻敷かれてるよな)」
「(夫婦漫才かよ)」


@高1冬の寒崎兄とお勉強会
「その公式じゃなくてこっち」
「まじか」
「まじです」
「この公式長くて面倒いんだよなぁ…」
「それさっきも同じ間違いしてたからね?」
「んな事も覚えてんのか」
「当たり前でしょ」
「さすが頭でっかち」
「あのねぇ…」
「お?やるか?」
「毎度勝負挑んでくるくせに赤点ギリギリの大馬鹿者はどこの誰だっけ?」
「……」
「勝負にならなさすぎるから勉強見てあげてる私に感謝しなさいよ」
「へぇへぇ…頼んでねぇけどな」
「じゃあ帰る」
「おい!ま、待てよ!な!」
「好意を無下にするような人に手を貸すほど、私は人間できてないから」
「話せばわかる!」
「……」
「頼む!この通りだ!」
「……」
「学食でもなんでも奢ってやるから!」
「はぁ…ほら早くこの問題集解いちゃいなさい」
「真波〜〜!」
「帰り、コンビニ楽しみだなー」
「げ…」
「何買ってもらおっかなー」
「………」


「解答見ても分かんねぇんだけどこれどうやんだよ」
「これはこの公式の応用で…」
「ほうほう」
「こうなるからこうなって」
「こうか」
「で、この式になるわけ」
「なーるほど!胸に行くはずの栄養が頭に行ってるだけあるな!」
「おい、表でろ」


〜なんとなくの設定〜
真波の5つ上の姉で寒崎兄と三年間クラスが一緒の腐れ縁。写真部。