ガタリと車体が揺れて停車した。目的地に着いたらしい。誰かが一緒だと早い。
車から降りると目の前には大きな家。
「でっけー家…」
エドの呟いた言葉に心の中で同意する。うん、そう思う。
まあ国家錬金術師は研究費が十分にもらえるし、しかも報告書によれば娘と二人暮らしで妻は行方不明。そりゃお金も余るはずだ。
いつの間に移動したのか大佐がドア前に立ち、カラカランと呼びベルを鳴らした。と、次の瞬間後ろからガサッと葉っぱの擦れる音と共に現れたのは巨大な犬。
「ふんぎゃああああああ!!!」
その犬に押し倒されたエドはあられもない悲鳴を辺りに轟かせた。
うるさいうるさい。ちなみに私はちゃっかりアルの盾にさせてもらった。巻き添えはごめんだ。
「名前っ!てめえ!耳なんか塞いでないで助けろよ!」
「………」
「人の話を聞けえええええ!!!」
そんなエドとのやり取りをアルが嬉しそうに見ていたのを私は気づかなかった。
「こら、だめだよアレキサンダー」
「わぁ!お客様いっぱいだね、お父さん!」
「ニーナ、だめだよ、犬はつないでおかなくちゃ…」
そう言ってドアから顔を覗かせたのは、家の主である綴命の錬金術師ショウ・タッカーとその娘ニーナ・タッカーだった。
私はアルの背中に隠れながら、風車をフードの内側に隠した。
▽▲▽
家の中に案内されると家の汚さに顔をしかめた。蜘蛛の巣が張っている所もあれば、埃がこれでもかと積もった所、散乱した本や紙などなど。
私自身、荷物は少ない方だからこんな惨状になることはない。だからか少し参ってしまう。
ダイニングと思われるテーブルに通されると、タッカーさんはキッチンと思われる場所に行き紅茶を運んできた。
「いや、申し訳ない…妻に逃げられてから家の中もこの有り様で……」
私はタッカーさんの言葉を心の中で反復し考えながら紅茶を口に運んだ。
あれ、意外だけどおいしい…両手でカップを持ち直し、紅茶を存分に楽しみだした。
「あらためて初めまして、エドワード君、名字ちゃん、綴命の錬金術師ショウ・タッカーです」
「彼らは生体の錬成に興味があってね、ぜひタッカー氏の研究を拝見したいと…って風の…君は何をしているんだ…」
急に大佐に問いかけられ、紅茶から顔を上げた。
「何って…紅茶飲んでるんだけど。大佐もどう?おいしいよ?」
「…君はどこまでもマイペースだな…」
勧めても何故か大佐は呆れてエドは頭を抱えアルは苦笑している(様に見える)。
「気に入ってもらえてよかった…紅茶は妻が好きでね、よく入れてたんだ」
タッカーさんは嬉しそうに目を細めた。
「…ゴホン、話を戻すが…よろしいでしょうか?」
大佐が切り直して再びタッカーさんに問いかける。
「ええ、かまいませんよ。…でもね、人の手の内を見たいと言うなら、君らの手の内も明かしてもらわないとね…それが錬金術師というものだろう?なぜ生体の練成に興味を?」
「あ、いや、彼らは…」
タッカーさんの当然とも言える質問に、大佐が庇おうと弁明をしようとするが、
「大佐…」
エドが待ったをかけた。
「タッカーさんの言う事ももっともだ」
エドはそう言うとパチンと上着の留め具を外した。露わになったのは重圧感のある鋼色をした右腕の機械鎧。私は驚きのあまり目を大きく見開いた。
「……なんと…それで“鋼の錬金術師”と――…」
タッカーさんも驚きを隠せないでいるみたいだ。エドは重々しく口を開いた。
「この際だ、名前も聞いといてくれ。軽蔑したって構わない…名前には本当の事を知っておいて欲しいんだ…」
中身を飲みきったティーカップをソーサーに置き、彼らの顔を見る。彼らの真っ直ぐな瞳(片方は空洞だけど)に当てられたのか、私は少し眩しく見えた。