ゆるゆるとまぶたをあげると、ふわふわとした柔らかいものが視界に入った。俺の部屋にこんなものあったっけ、寝ぼけたまままばたきを繰り返す。
 ふわふわとしたものがもぞりと動いた瞬間、ああ、とやっと思い至った。昨日はコイツが泊まったんだった、と。
 一人でも狭い俺のベッドは、俺よりでかいやつと並んで寝るには少しどころではなくとても狭い。お互い文句を言いながらも結局同じベッドに入るのは、きっと俺たちは同じように思っているからだろう。
 狭いとかなんとか文句を言ったって、素直になれない俺たちは結局くっついて寝る以外の選択肢がなくなるのだから。
 手を伸ばすまでもなく触れることのできる距離に、触れた髪の柔らかさに、ドクリと心臓が跳ねる。眼鏡をかけていない寝顔は、普段からは想像も付かないほどあどけない。俺をからかって遊んでいる時のように年相応だった。
 いつもこうやってりゃいいのに。うっそりと声にだしたが、朝のひんやりとした空気に飲まれて消える。
 ちらりと時計をみれば、そろそろロードワークの時間だった。布団をめくると冷たい空気が入り込んで、ぶるりと震える。戻りたくなったが、一日サボるだけで筋肉のごわつきは恐ろしい。気合いをいれてベッドから抜け出した。
 寝巻きから手早く着替えて、と言ってもほとんど変わらない格好ではある。どちらもジャージだ。
 布団をかけ直してやってから、部屋を出た。道に出てから軽くストレッチをして、さあ今日のノルマは十キロ。



 もったりとした空気の中、まぶたを開けば暗闇。まだ真夜中だったろうかと視線を動かせば、目の前をおおう暗闇が繊維だとわかる。
 なんで頭まで被ってるのだろう、と思えど、僕を満たす匂いがいっぱいで、またまぶたが重くなって――。
 ぐしゃりと抱き込んだのは、布団だったのか、なんなのか。



 ロードワークから戻り、汗を流して濡れた髪を乾かしながら部屋に戻れば、ベッドには黒いかたまりの中にぽつんと浮かぶ月があった。はて、とベッドに近付けば、それは俺が脱いでベッドへと投げたはずの寝巻きを抱えて眠る、月島の姿で。
 意味がわからない、と頭が盛大に混乱している。脱ぎ散らかした寝巻きに頬を寄せる月島の様子が、眉間のしわなんて一切感じさせない安らかな寝顔が、なぜだかひどく優しく見えた。
 ふらりと近づいて、吸い寄せられるようにその頬に手を伸ばす。親指の腹でなぜる頬は、寝ているからかとても温かくて、そのまま唇を寄せた。
 その拍子にまだ乾かしている最中の髪の毛からポトリ、雫が垂れて月島の顔を伝う。それが冷たかったからか、俺が触れているせいか、まあとにかく俺のせいで月島のまぶたは持ち上がった。
 ぼうっと、寝起き特有の気だるさを含んだ瞳で俺を見る月島は、焦点が合わなかったかのようにゆっくりと瞳を細めて――

「……なにしてんの?」

 ひどく嫌そうに声を上げた。答える間もなく、自分の頭のまわりに抱え込んでいるものが俺の脱ぎ捨てた寝巻きだとわかるとため息を吐いて、また脱ぎ捨ててったでしょと起き上がるときにぽいとベッドの端に寄せる。
 眼鏡のない顔は見えていないからか眉間にしわがよっていて、かわいげの欠片もなくなっていた。今更ながらなんでもねぇよ、と返すと、っていうかまた髪の毛拭いてないんでしょ、と呆れたように眼鏡をつけている。
 貸しなよ、と首にかけていたタオルをとって、存外優しい手つきで髪の毛を乾かしてくれるのだが。風邪を引くだのなんだの心配してくれているのかと思えば、馬鹿は風邪引かないかなどとバカにしてくる。

「……ホント、かわいいのは寝顔だけだよな」

 ぼそりと呟いたのは独り言だったはずなのに、君にかわいいとか思われても嬉しくないよ、だなんて叩かれたのは髪を拭き終わった合図なのかなんなのか。舌打ちをした俺に、早く片付けなよと脱ぎ捨ててあった寝巻きが投げつけられた。

寝顔だけは


(よく寝れた気がする)
(あー、くそっ)