「チキンシュワシュワ♪」
「あっ、それグラビの新曲! プロデューサーさんちゃんとチェックしてるんだな」
「いや、違う違う。ちゃんとチェックしなきゃなんだけど、これはただの趣味というかなんというか……」
「あれっ、グラビのファンなの? 知らなかったなあ、そういえばこないだ駆と同じ番組に出たんだけど、お互いが……」
「あああ、それ絶対危ないでしょう!? 怪我しなかった? ラッキーの賜物恋くんとか新くんはいなかったの!?」
「いなかったんだよなー。でも隼さんのおまじないでその日はすげー調子よくなったんだぜ! すごいよな!」
「しゅ、隼さんのおまじないなんて……そんなすごい……」
 龍と会話してるプロデューサーをみて、そういえばグッズをよく持ってるな、なんて思い出した。誰が、どんなやつが好きなのかが気になって仕方がない。
 『アイドル』という存在が特別好きだというわけではない、らしい彼女にとって、なにか惹かれるものがあるのだろう。俺達にだって、アイドルとして接している気はしない。もちろん、彼女の担当のアイドルに対しては違うのだけれど、俺は『たまたま職場で再会した元同級生』でしかないし、龍や信玄は『同級生の同僚』もしくは『自身の同僚』といったところだろう。
 高校時代にはアイドルやテレビなんて興味がないように見えたのだから、ずいぶんと変わったのだろうか……俺が、知らないことだらけだ。そもそも、元々知っていたことだって少ないのだけれど。
 グラビ――SIX GRAVITYのメンバーは、共演したことはない。同じ事務所でライバルユニットとして売り出しているプロセラ――Procellarumのメンバーは何人か共演したことがあるが。
 新曲のPVを見始めた二人の距離が近いことにもやもやとしたものを抱えながら、静かに缶コーヒーのプルタブを開けた。甘いはずのコーヒーが、やたらと苦く思えて眉間にシワがよる。
 アイドルとして届けたいものがあって、彼女にだって伝えられたらいいと思うけれど、ただの男として伝えたいことはアイドルとしては絶対に伝えられないことで。だから自分がどう動いたらいいのかがわからなくて、またひとつため息に成り損なった深い吐息がこぼれた。

溜息に成り損なった深い吐息

※作中注釈:ツキウタ。ネタ
チキンシュワシュワ♪:20160825発売のGRAVITIC-LOVEの頭『Shakin', Sugar, Sugar』を、公式さんが正式な歌詞より先に出したせいでそのようにしか聴こえなくなるやつ。空耳は基本公式さん発です。
駆:龍くんとおなじく不運キャラ。ただし、命を脅かす系統ではなくツイてないが究極タイプ。今年20歳になります。12月担当、グラビの子。
恋:駆さんのコンビ。駆さんとは違ってラッキーの子。ただし、駆さんと一緒に不運を笑えるようになるラッキーさんなので、二人がラッキーになるわけではない。今年度20歳になります(2月生まれ)。2月担当、グラビの子。
新:上記二人と併せて欠食児童組。とてもラッキーでポジティブな子。他の子にとってアンラッキーでもラッキーだと思ってしまえるラッキーさん。幸運を引き寄せる力が強い。今年21歳になりました。4月担当、グラビの子。
隼:白き魔王様。おまじないという名の魔法が使えるよ☆(日常もののはずなのに)隼さんにおまじないしてもらうと気休め程度に補正されるよ! 11月担当、プロセラのリーダー。ライバルグループであるグラビのリーダー、始さんのファンでわりと突き抜けている。今年22歳になります。