「炊飯器でホットケーキぃ?」
「そう、分厚くてふあふあなのができるんだって!」
 ふんすふんすとしながら卵を混ぜる彼女に、少しだけ苦笑した。一人じゃ全部食べきれないのに(半分も食べないうちに甘いから無理、と毎回顔をゆがめるのだ)、こうしていろいろ調べてきては試している。
 俺がパンケーキが好きなのもあってか、いつの間にかホットケーキミックスがこの家に常備されるようになっていた。もともとパンケーキとホットケーキは同じものだし、とかなんとか。そういうところがかわいい。
 混ぜるのを手伝って、炊飯器の釜の中にタネをいれて炊飯ボタンを押す。
「これで?」
「おしまい! なに乗せようか? とりあえずアイスと、ジャムはあるよ!」
 食べもしないアイスやらジャムやら、豊富にそろった冷蔵庫の中身に、俺の存在がところどころで感じられる彼女の家に、じわじわと笑いが込み上げる。
「バニラアイスとブルーベリージャムがいいな」
 後ろから抱きついた彼女は笑っていて、じゃあわたしはいちごジャムにしよう、と宣言した。洗い物をする彼女のとなりで、洗い終わった器具を拭いてしまう。目が合えば笑い合って、頬を寄せ合って、くっついて。なんとなく幸せだなぁ、と感じる休日が、とても好きだ。
 ビー、ビーと炊飯器から炊ける音がして、ふたをあけた。鉄部分に接していないからか、上面はまったくやけていないため、釜をだしてフライパンの上にひっくりかえしてあけた。
「おお、たしかに分厚い」
「でしょ?」
 ふふん、と得意げに鼻を鳴らす彼女に笑いながら、焼き目が付くのを待つ。そのまま皿にのせ、彼女がアイスを乗せている間にジャムを小皿に取り出した。
 いただきます、と宣言して、ナイフで切りだす。サクっとした表面と、ふわっとした中身がたしかに感じられて、ごくりとのどが鳴った。互いの皿に切り分けたものを置き、アイスの上からジャムを付ける。
 もう一度、いただきます、と笑い合ってからフォークで口に運ぶと、ふわっと甘味が広がって、たしかにうまい。
「うまいな」
「そうだね、おいしいね」
 笑い合って、切り分けて食べて、やっぱり彼女は半分も食べきれなくて、濃い緑茶を淹れる彼女と、彼女の残りをいちごジャムで食べる俺と。

分け合って、笑い合って、

 こうして過ごすのが日常になればいいのに、とひっそりと、少しだけ、心の隅で考えた。