次からは手紙にしてほしい、とそう言ったら公平は変な顔をして眉をつり上げた。だって、遠征のたびに言いに来られるのもつらいのだ。毎回、遺言みたいな──というか、まさしく遺言だろう──言葉を律儀に言いに来る公平の顔を直視するのが。どんなこと考えて言ってるんだろう、なんてぼんやり思うようになったのは最近だけれど。
 手紙なら、最悪の事態になってから開けばいい。そうでないなら、破棄できる。これだけ死線を潜り抜けて帰ってきたんだ、と安心できるから。──その言葉を、目にしないでいられるから。
 いつも、帰ったあとに涙がでてくる。公平がいるあいだには涙なんて気配もないのに、帰って、一人の部屋に入ったとたん、ぼろぼろと壊れた蛇口のように止まることなく涙がこぼれ落ちて。死ぬかもしれない、なんて。三門市にいればそんなに他人事なわけでもないけれど、覚悟ができているわけでもない。ボーダーだって、万能なスーパーヒーローというわけではないのだ。
 そう簡単に死ぬだなんて思っているわけではないし、信じていないわけではもちろんない。それでも心配になるのは、苦しくなるのは、どうしようもないことだった。


 公平は、次の遠征からは律儀に手紙をもってきた。そういうところ、妙に素直なんだよな。その手紙を受け取って、机の抽斗の一番下に入れた。やっぱり、涙は涙腺が壊れたようにあふれでる。どうか、この手紙を開封することがありませんように。そう祈ったのは、手紙越しの公平へだった。



さよならは手紙にして