「ねぇ、リーマス」
 君は僕に呼びかける。僕は君のその声を聞くだけでココロがおかしくなりそうなんだよ。君は知らないだろうけど。
「なに?」
 僕は君の声を聞くためなら、どんなことだってしそうだよ。柔らかくて、優しくて、それでいて芯があって。いつまでも聞いていたいけど、聞いていたらおかしくなりそうで。
 いつも矛盾に満ちてる。
「『愛』と『恋』の違いってわかる?」
 また君はそんな哲学的なことを考えてる。僕は君を狂おしいほどに想ってるけど、それが恋なのか愛なのかはわからない。
 それに、どっちだっていいと思ってるなんて、真剣に考えている君には口が裂けてもいえない。
「また哲学的思考かい?」
「哲学的ってわけではないけど。自分と他人の意見に相違はあるのかなって思っただけだよ?」
 僕が苦笑しながら言うと、君は考えていた真剣な顔を少しだけ崩し、微笑みながら言う。その微笑みがまた愛らしくて愛しくて、僕は息をするのを忘れてしまう。
 ごまかすように微笑んで、「違いなんてないんじゃないかな? 恋を重ねるうちに愛にかわるんだと思うよ。」という。
 僕が本当にそう思っているわけじゃないってことは僕しか知らない。僕は、ごまかすのが、嘘が得意だから。
「リーマスの考えだと、親に抱く愛とかって、どうなるの?」
 君はちょっと意地悪そうに微笑みながらきく。恋人に抱く愛と、親やその他の大切に想う人へ抱く愛とは違うものだと思ったけど、君の中では『愛』は『愛』として一つなんだと知った。なんだか不思議な気分だけれど、きっとそういう考え方をする人もいるんだろう。
「わからないよ。違うものだと思っていたから」
 僕は首をすくめて答える。君はうれしそうに微笑んで、リーマスの中では違うものなんだね、といった。
 僕が君の考えている事の片鱗を感じ取れてうれしいのと同様に、君もうれしいのかな。そう考えると無性にうれしくなる。
 僕の言葉で、僕がしたことで君を喜ばせることができるのが、この上なくうれしい。
「『愛』と『恋』の違いはね」
 私の解釈だけど、と前置きをして君はうれしそうに始める。
「自分が関わるか、そうでないかだと思うの。どちらも相手の幸せを願うものだとしたら、『愛』は自分とは関係なしに、その人に幸せになってもらいたいって想いで、『恋』は自分が関わって、その人を幸せにしたいって想い」
 自分の説明に満足したように何度も頷きながら君は続ける。
「だから、私はリーマスを『愛してる』んだよ」
 そういって君は微笑む。
 僕は、君に言ってほしい言葉であったはずの『愛してる』って言葉が徐々に頭に浸透してきて、胸がぎゅっと締まった気がした。
「ありがとう。僕もカオリを『愛してる』よ」
 僕は精一杯微笑みながら言う。
 君はうれしそうにありがとうといってまた思考の彼方へ行ってしまった。

 君の解釈からすると、僕は君に『恋してる』。
 君の『愛』なんかいらないから、君の『恋』がほしいよ。
 君の声がききたい。
 君に触れたい。
 君を笑わせたい。
 君を、幸せにしたいんだ、誰でもないこの僕が。

 でも君は僕にそんなことは望んでないんだよね。だから君の前では君を『愛してる』ように振舞うよ。
 狂おしいほど君の『恋』がほしくても、僕は手に入れられない。

愛 し て る と 恋 し て る

(これも、君を愛してるうちに入るのかな。)