「おなかが、いたいよ、ゆき」
「アンタ、そやって体調悪いときばっかオレんとこ来て、なんなんすか」
「なにも、ないよ」
 単に、ゆきに会いたいだけだ、なんて素直な言葉がわたしの口から出るはずは、ない。そんなに素直になれるなら、ゆきにこんなに呆れられていない。よくもまあ、こんな女に愛想をつかさずに一緒にいてくれるものだと思う。
 はぁ、と吐かれたため息に、頭のなかを嫌な言葉がついて回った。今度こそ愛想をつかされるのかもしれない。
「ああもう、わかってますよ。アンタが甘え下手なことくらい。こうやってオレんとこ来てくれるだけマシだわ」
 毛布でくるんで、ぎゅっと抱き締めてくれるゆきに、毛布だけではないあたたかさに、じわりと涙が浮いた。それを誤魔化すように、「いたい」とゆきの肩に顔を寄せれば、はいはいなんて頭をぽんぽんと撫でてくるできた彼氏に、敵わないなと思うのはこういうときだ。
 お腹に腕を回して、自らの手でもあたためてくれるいるのを上から握って、ゆきにすりよればほらお腹が痛いときの対処布陣は完璧だ。
「ほらもう、泣かないでくださいよ…」
 涙の浮かんだ目尻に唇を寄せて、あんたいつの間にそんなことできるようになったの、なんて。
 ああゆき、だいすきだよ、なんていえないわたしでごめんね。

back