「死ぬなら、雪成に殺されたい」
 ぼうっとしたままいきなりそんなことを言い出すものだから、この人はマジで疲れてるんじゃないのかと心配になった。最近、体の調子だけじゃなくて心の調子もあまりよくないみたいで、本気でもう起きないんじゃないかって思うくらい寝てるし。眠れる森の美女か。五十年は寝たままなのか。
「……ほら、寝ましょうよ。明日も仕事だろ」
 促したところで、ぼうっとこたつに乗せる頬は動かない。何が原因なのかもわからないで、心配もまして心にきているのか。そんなに頼りないのか、なんて自分に腹が立つけれど、この人の格好つけたがりは今に始まった話じゃない、と頭を切り替えた。
「運びますからね」
 そっと抱き上げてベッドに落とす間、やっぱりぼうっとしていて、布団を掛けて、しっかりと抱き込んだ。やっと反応して、弱々しくオレの服を掴むのになぜだか心の奥がぎゅっとして、抱き込む腕を強くする。
「ほら、寝ましょう。……おやすみなさい」
「……ん、おやすみ」
 やっとまともに会話が通じて、ほっとしたまままぶたを閉じた。

 この人が殺してほしい、ってならうまく殺してやろうか、なんて思ってしまう程度にはこの人を愛してるんだ。そのあと生きていけっていうなら適当に生きて、そのあと死ねばいい。
 何年、どれだけあんたのワガママに振り回されてきたと思ってるんだよ。

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