すきだ、と単純な言葉さえも脳が認識できなくて、ただの音として耳に届いた。真っ赤な顔と、真っ直ぐな視線。でも、固く閉じた拳はすこしだけ震えていて、ああ、『好き』なのか、と脳がやっと認識した。とすぐに、その対象に気がついて──言葉を返す前に、全身を染め上げる命令が下された。

back