『すき』のただ一言が言えなくてそっと視線を外した。本人はおろか、ものであってまでも言えなくなってしまうなんて──なんてバカなのだろう。気付く前のように、なんでもないような言葉に『すき』を混ぜて言ってしまいたかった。気付く前になんか戻れないのに。

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